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2016年10月05日

トルハーク四度(十月二日)



 また映画「トルハーク」を見てしまった。ブログの記事で確認すると前回は三月廿日に見ているから、半年振りということになる。この映画、以前は滅多に放送されず、チェコ人でも知らないという人、見たことがないと言う人が多かったのだが、今年はどういう風の吹き回しか、放送局は違うとは言え年に二回目の放送である。スビェラークが80歳になるというのが影響しているのだろうか。
「ポペルカ」などの本来クリスマスに放送されていた映画が年に何度も放送されるようになり、最初は嬉々として見ていたのに、飽きてしまって、最近は繰り返しにうんざりしてしまって、見なくなってしまったのに対して、「トルハーク」は、放送されていればついチャンネルを合わせ、他にすることがあるからながら見で済ませようと思いつつ、ついつい最後まで見入ってしまう。
 そして、毎回あまりのばかばかしさににやにやしながら、新しい発見をして、「トルハーク」の底知れぬ完成度の高さに胸を震わせるのである。今回もいくつか新たな発見があったので、いるかどうかは知らないけれども「トルハーク」ファンのために紹介しよう。

 まず、冒頭のキャスティングで小学校の女の先生を選ぶシーン。金髪の女性を選ぶはずなのに、ただ一人赤っぽい髪で出てきたハナ・ザゴロバーが選ばれるのはいい。しかし、そこで監督がザゴロバーにかける言葉がひどかった。けったいな眼鏡をかけていたので、「眼鏡を外して、髪を金に染めろ」と、ここまでは「染めろ」ではなく、鬘をかぶれだと思っていたけど、以前から理解できていた。実はその後に、「やせろ」という言葉が続いていたのである。実際にやせて映画に登場するのかどうかは気づけなかったが、女優というのも大変なものである。
 それから、貴族風の肉やレンスキー役を選ぶ部分では、他の候補者は実際に歌を歌うのに、ユライ・ククラは、声が出せないと言う理由で歌わない。その代わりマネージャーのような人物が出てきて、「治ったら、他の連中の何倍もいい声で歌います」とかいう一言で、役が決定していた。人気俳優であっただろうアブルハムのティハーチェク氏役や、歌手として人気絶頂にあったマトゥシュカの森林管理官役はキャスティングさえなかったから、このあたりに当時の映画の配役の決定のされ方が表れているのかもしれない。

 映画内で「ティハーチェクさんって英雄なの?」と先生に尋ねる子役のキャスティングでは、監督に媚びて「監督って英雄なの?」と言い換えた子供が選ばれる。それは以前から知っていたのだが、一緒に見ていたうちのが、「えっ、こいつ○○じゃない」と驚きの声を上げた。現在では映画監督をしているらしいが、ミロシュ・フォルマンの映画でカメラを担当した人物の息子として知られていたらしい。台詞が一つしかない子役だから誰がやっても大きな違いはないということで、監督に媚びる有名人の息子が選ばれるというのもかつての現実だったのかもしれない。共産党幹部の息子なんてことにすると、生々しすぎて検閲の対象になったのだろうが、いわゆる芸能界の有名人の息子であれば、許容範囲だったということか。大した役でもないのに、配役決定の字幕が出ていたから意図的であることは確実である。

 また、突然森林管理官が森に住む妖怪、化け物について、村民を相手に講義をするシーンが出てくるのだが、その意味がわかっていなかった。今回の見直しで、娘たちに近づく男たちが、妖怪を怖がって森林管理官の家のある森に入ってこないようにという意図があったことが確認できた。そして、講義には貴族の振りをするレンスキー氏も出席していたようで、ヒロインの小学校の先生エリシュカと夜の森を歩いているときに、恐怖に震えて、白雪姫に出てくる七人の小人におびえる男として愛想をつかされる伏線になっているのだった。気づかんかったぜ。

 そして、最大の発見が、野外映画館で公開初日の上映で、最後の最後に強風でスクリーンがびりびりに破けるのを見たイジナ・イラースコバーが、「こいつはトルハークだ」と叫んでいることだ。これまでは、直後のスモリャクか誰かの発言に気を引かれて聞き取れていなかったのだが、これは非常に大切な発言である。
「トルハーク」と言う言葉は、この映画では、大ヒットして連日満員で観客動員数も興行収入も多い映画を指しているが、本来「ちぎる、破る」という意味の動詞からできた言葉であるから、スクリーンがびりびりに破れてしまうのも、「トルハーク」と言えるのである。
 ああ、これで今まで謎だった金のことしか考えていないペトル・チェペクが演じるプロデューサーが、感情が高ぶるたびに着ているシャツを引き裂く理由がわかった。あれもある意味でトルハークなのだ。いらいらの表れというだけではなく、映画が「トルハーク」になるようにという願いのこめられた行動なのかもしれない。さらに、プロデューサが舞台挨拶に出るのを拒否したときに、監督がいう我々はみんなそれぞれ何らかの形でこの映画の完成に貢献してきたんだというのも、そのことを指しているのだろうか。いや、そこまで行くと穿ちすぎか。
 穿ちすぎついでにもう一つ思いついたことを言うと、爆発シーンが重要になっているのも「トルハーク」と関連させられなくもない。爆発物を指す名詞「トルハビナ」も、「トルハーク」と同じ動詞から派生してできた言葉なのだ。爆発で牛糞がちぎれるように飛び散るのも、一種の「トルハーク」だと言えると、この映画の目くるめくような構造がさらに緊密に構成されたものになるのだけど、どうだろうか。

 やはり、「トルハーク」はチェコ映画史上最高の作品である。誰が何と言おうと最高の作品なのである。
10月3日23時。


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