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2016年10月02日

略語、略号(九月廿九日)



 チェコ語でも日本語と同じように、いや、他の多くの言葉と同じように略語、もしくは略号が使われる。これも他の言葉と同じように、いくつかの言葉からできている表現を、それぞれの言葉の最初の一文字をとって一つの言葉、略号にしてしまうことが多い。

 日本放送協会がNHKになるように、チェコテレビは、チェスカー・テレビゼ(česká televize)のそれぞれの最初の文字を取ってČT、これで「チェー・テー」と読む。チェコ鉄道は、チェスケー・ドラーヒ(české dráhy)だから、ČDで「チェー・デー」、チェコ共和国は、チェスカー・レプブリカ(Česká republika)で、ČRと書かれる、読むときには「チェー・エル」ではなく、これで「チェスカー・レプブリカ」と読むことが多いようだ。日本の消費税のような税金はDPHで「デー・ペー・ハー」、これはダニュ・ス・プシダネー・ホドノティ(daň z přidané hodnoty)の略語である。
 オロモウツやプラハなんかの比較的大きな町に生活していると、MHDというものをよく使うことになる。これは市営の公共交通機関のことで、市が運営しているバスやトラム、地下鉄などをまとめて呼ぶ言葉である。チェコ語では、ムニェスツカー・フロマドナー・ドプラバ(Městská hromadná doprava)である。
 共産主義時代の古い映画なんかを見ていると警察の車のドアにVBと書かれているのに気づく。当時のチェコに一般的に警察、チェコ語でポリツィエ(policie)と呼ばれるものは存在せず、ベジェイナー・ベスペチノスト(Veřejná bezpečnost)と呼ばれる組織が、警察の仕事を管轄していたのだ。ちなみに、秘密警察は、StBで、「エス・テー・ベー」と読むが、これはスタートニー・ベスペチノスト(Státní bezpečnost)の略で、SBにはしたくなかったのか、最初の言葉から二文字とっている。さらにこの略号から、エステーバーク、つまり秘密警察の警官なんて意味の言葉まで作られているから、チェコ語の造語力と言うのもなかなかのものである。

 この手のチェコ独特の言葉はがんばって覚えればいいだけだが、日本語での英語を基にした略語とチェコ語の略語が異なっている場合は少々厄介である。最初にMOVというのを見たときには、中央官庁の何とか省の略号かと思ったのだが、Mはミニステルストボ(ministerstvo=省)の最初の文字だし、実際は日本ではIOCと呼ばれることの多い国際オリンピック委員会のことだった。チェコ語で、正しくはメジナーロドニー・オリンピイスキー・ビーボル(mezinárodní olympijský výbor)となる。それがわかってしまえば、ČOVがチェコオリンピック委員会のことだというのはわかるのだけど、最初は何のことやらさっぱりだった。
 スポーツ関係で続ければ、世界選手権がMS、ワールドカップがSPになるのも最初は不思議だった。日本でMSといえばマイクロソフト社が思い浮かぶし、SPは今となっては懐かしいレコードを思い浮かべてしまう。日本でチャンピオンスリーグからCLと略されるものが、チェコ語ではLM(リガ・ミストルー Liga mistrů)になるのも不思議だった。ELはチェコでもELだけど、昔はPVP(Pohár vítězů pohárů)なんてのもあったなあ。
 国際連合、略して国連は、日本では、ごろがよくないのであまり使われないだろうがUNと略されることが多いのかな。しかしチェコ語ではOSN(オルガニザツェ・スポイェニーフ・ナーロドゥー Organizace spojených národů)になる。一方で、ユネスコやユニセフは、ウネスコ、ウニツェフと微妙に発音は変わるけれども、日本語と同じ略称をチェコ語でも使う。

 そこで考えた。それぞれのアルファベットを読むものは、チェコ語化して略号を作るけれども、略号を普通の単語のように続けて読んでしまうものについては、英語、もしくは当該の機関で使用している略号を使うのではないだろうかと。NATOも、チェコ語のセベロアトランティツカー・アリアンツェ(Severoatlantická aliance)から、SAとかSAAにしてもよさそうだけど、NATOを使うし。
 でも、USAは、ウサではなく、アルファベットを別々に「ユー・エス・エー」と読むから、チェコ語を優先して、スポイェネー・スターティ・アメリツケー(Spojené státy americké)からSSAになってもよさそうだけど、そんなことはなくチェコ語でもUSAだった。問題は、日本語と同じで「ユー・エス・エー」と読むのか、チェコ語風に「ウー・エス・アー」と読むかなんだけど、個人的にはチェコ語で話すときには意地でも後者を使うようにしている。

 チェコのこういうチェコ語から略語を作る主義を見ると、日本語でもわざわざ英語から略語や略号を作らなくてもいいのにと思ってしまうのだが、よく考えたら、NHKが日本放送協会をローマ字書きして頭文字をつなげたようなやり方も正直気に入らないからなあ。だからといって、ひらがなで「にほき」なんてのも話にならないし、やはりここは、漢字で「日放協」として、必要に応じてローマ字表記するのがいいのかもしれない。いや、でも何か「日教組」っぽくて嫌だなあ。
 ということで、定着してしまってどうしようもないもの以外は、日本語ではこんな略号、略称はできるだけ使わないことにしよう。

10月1日16時。


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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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