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2016年10月04日

よほどのこと(十月一日)



 調子の上がらないスパルタ・プラハは、監督を解任したのだが、後任はまだ決まっていない。暫定の監督として、ヨーロッパリーグのインテル・ミラン戦と、エーポイシュチェニー・リーガのブルノ戦の二試合を任されたのが、スパルタのU19チームの監督、ダビット・ホロウベクだった。ヨーロッパリーグの試合の行なわれた木曜日には、U19のUEFAユースリーグの試合もあって、二束のわらじを履くことになったようだ。
 正直な話、低調なプレーが続き、けが人も多いスパルタが監督交代ぐらいで劇的に変わるとは思えなかった。しかも相手がイタリアの、現在イタリアリーグで三位に付けているということで、ボロ負けしなければ、ある程度互角に近く戦えれば御の字だろうと思って、あまり期待せずに、チャンネルをチェコテレビスポーツに合わせた。

 チャンネルを合わせたときにはすでに試合が始まっていて、誰が出場しているのか判らないまま見ていたのだが、サーチェクとか、チェルマーク、ホルツルなんて、確か夏に移籍してきたばかりの若い選手たちが出ているだけでなく、マズフも出ていた。マズフは、下の世代の代表で活躍してブルノからウクライナに移籍しベルギーを経て昨年だったか、一昨年だったかにスパルタに移籍してきたのだが、控えとしてベンチに座ることが多かった。それから中央でミスを連発して安定感を欠いたミハル・カドレツをサイドで起用したのも大当たりだった。いつものコスタが怪我なのか、不調なのかわからないけど、以前と較べるとできの悪い試合が多すぎる。
 若い選手、出場機会の少なかった選手が多かったおかげか、選手たちが躍動し、これまでのスパルタの試合に見られた倦怠感のようなものが感じられなかったのが、最初の驚きだった。ボールを奪われてもすぐに奪い返しにいき、倒れてもすぐに立ち上がるスパルタというのは久しぶりに見た気がした。そうしたら、相手のディフェンスのミスもあって、カドレツが、これまでくすぶっていたバーツラフ・カドレツが前半のうちに二得点を挙げる活躍を見せた。ラファタが出ていなかった分、自由に動き回れたのもよかったのかもしれない。
 ボールを失ったら前線からプレスをかけ、攻められていてボールを取ったら前に運び、ディフェンスラインも思い切り押し上げるという体力的にきついサッカーをやっていたので、いつまで持つのかが心配だった。そして、チェコのチームに典型的な価値を意識しすぎて、ディフェンスラインを思い切り下げてしまってゴール前に押し込まれて、失点を重ねる後半になるのではないかという危惧があった。

 しかし、後半に入ってもスパルタの選手たちの運動量は落ちず、前半と同様にインテルにほとんど何もさせなかった。正直、イタリアのチームってこんなものなのかという失望さえ感じた。スパルタの失点も、守備を完全に崩されてではなく、マズフの不運なミスからだったし、前半、後半を通じてやばいと思ったシーンはほとんどなかったのに対して、惜しいと思ったのは得点シーン以外にもいくつもあった。
 一点取られた後も、無駄に引くこともなくあっさりもう一点追加して、そのまま完勝。監督が変わるだけで、ここまで変わるのかとびっくりしてしまった。ここまでうまくいったのには、インテルの出来が悪すぎたという側面はあるのだろうけど、今後もこの暫定監督に任せてもいいのではないかと思うぐらいの変わりぶりだった。もしかしたら、この日、よほどのことが起こったのかもしれない。このインテルとの試合の出来を継続できれば、ヨーロッパリーグでも上位に進出できるだろうし、リーグ優勝も現実味を帯びてくる。問題は体力的にきついこの日のサッカーを続けていけるかどうかだろう。
 暫定監督のホロウベクは試合後のインタビューでは、ものすごく落ち着きがなくてこういうのに慣れていないことをうかがわせた。インタビュアーの質問中も、一緒にいたウイファルシとブラベツを相手に、うなづきあってわかり合っているような行動を見せたり、質問を聞いていなくて言い直させたりしていた。喜びのあまり、興奮のあまりだったのだろうか、ちょっと挙動不審だった。

 スパルタの伝説の元ディフェンス選手のイジー・ノボトニーが、暫定監督としてこのホロウベクに白羽の矢がたっとことにクレームをつけていた。ノボトニーには、ホロウベクがスパルタで選手として活躍した人物でないのが気に入らないようで、フジェビークの弟子だから選ばれたに過ぎないと痛烈に批判していた。ただのやっかみにしか聞こえないような気もするけど、ノボトニーは日本でも活躍したイバン・ハシェクが監督に復帰することを望んでいるらしい。。

 フジェビークは、以前のスパルタの監督で現在はジェネラルマネージャーのような立場にいるのかな。監督としては典型的な理論倒れで、戦術戦略では、ブリュックネルの爺様にも匹敵するのだが、それを実際のチームのプレーに落とし込むところに問題があって、滅多に本人の理論どおりのチームが出来上がることはない。ただ、まれにとんでもないチームができあがり、ってスパルタでチャンピオンズリーグのグループステージを勝ち抜けたチームと、世代別の代表で19歳以下だったか、20歳以下だったかの世界選手権で準優勝したチームの二つだけなのだけど、そのインパクトは大きく、いまだに信奉者は多いのである。
 そんなフジェビークに学んで、今のところ一試合だけだけど、しっかり戦えるチームを作り上げたのだからホロウベクという監督はなかなか優秀であるようだ。U19のユースリーグでも完勝していたし、スパルタのファンが、ホロウベクが暫定でなくなることを求めているのもよくわかる。ただ、まだ一試合だけだからね。

 現在、スパルタでは、リベレツの監督のトルピショフスキーを強奪するか、ホロウベクに続けさせるか話し合いが続いているところだろう。ホロウベクは一部リーグの監督を務めるためのライセンスはまだ獲得していないらしいが大丈夫なのだろうか。ただ、無理やりよその監督を強奪するなんてことはしなくても、自前で育てた監督を使えばいいのにとは思う。トルピショフスキーも、あちこちで監督を務めたベテランではなく、若手の有望監督の一人だから無理はしないで移るならシーズン終了後というのが無難だと思うのだけど。
10月2日23時。


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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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