2017年10月23日
ノバー・ブルナの映画が日本で見られるとは言っても……2(十月廿日)
承前
愛の殉教者たち
チェコ語だと「Mučedníci lásky」。「パーティーと招待客」と同じく、ヤン・ニェメツの監督作品。イメージフォーラムの解説文には、「チェコの国民的歌手マルタ・クビショバー」も出演と書いてあるけれども、60年代のクビショバーは、国民的歌手というよりはアイドルである。
クビショバーが、ヘレナ・ボンドラーチコバー、バーツラフ・ネツカーシュと組んで結成したゴールデンキッズは、「プラハの春」 によって緩和した時代を象徴するアイドルユニットというにふさわしい。1968年初めに結成されたこのグループは、プラハの春がワルシャワ条約機構加盟国軍の侵攻によって壊滅させられた後、1970年初めにクビショバーが公演を禁じられたことで、崩壊する。実質二年しか活動できなかったということになる。
クビショバーが歌手としての生命を事実上絶たれたのに対し、ボンドラーチコバーは体制内で歌い続けることを選び共産党御用達の歌手となった(そんな印象がある)。ネツカーシュはその二人の間の道を行き、問題を抱えながらも歌手として歌い続けた。ただ、そのストレスからか、見る影もなく太っていて、テレビで初めて革命後の姿を見たときには別人かと思ったほどである。
クビショバーは現在、確か引退コンサートと称して、各地でコンサートツアーを行なっているんじゃなかったかな。最近は歌手というよりも社会活動家としての側面が大きく、チェコテレビでは長年にわたって捨てられた犬や猫を収容する施設を紹介して、支援を求めたり犬や猫の引き取り先を探したりする番組の司会者を務めている。
しかし、それよりも何よりも、この映画には共産党政権の時代から現在に至るまで、本当の意味でチェコの国民的歌手であり続けているカレル・ゴットも出ているのである。亡命したことがあるのだが、その喪失を恐れた政府が懇願して帰国してもらったという説もあるぐらいの人気を誇っていた歌手で、現在でも過去を懐かしむ世代だけでなく若い世代の中にも一定数のファンを確保している。『チェコ語の隙間』では、「チェコのサブちゃん」と評されているのだが、日本のサブちゃんよりは、歌うジャンルが幅広いし、ファン層も幅広い。それにチェコとスロバキアだけでなくオーストリアやドイツでも大人気というあたりがゴットのすごいところである。
最近は絵画にも目覚めてあれこれ描いているようである。ゴットの絵を集めたカレンダーなんてのを見たことはあるけれども、どこがいいのかわからなかったので買いはしなかった。やはりカレル・ゴット、もしくは神のカーヤが、神から与えられたのは歌声であって、絵筆ではないのである。
とまれ、ビロード革命の際に復帰して群衆の前で歌を歌ったクビショバーが、ビロード革命の旧体制が倒され新しい時代が始まったという「革命」の部分を象徴しているとすれば、カレル・ゴットは、革命が起こったにもかかわらず旧体制側から粛清されるものが出なかったという「ビロード」の部分を象徴していると言えよう。映画とは全く関係ない話なので、頑張ってきれいにまとめてみた。
狂気のクロニクル
この作品の監督カレル・ゼマンは、予算が足りないのを逆手にとって様々な工夫を重ねて、言わゆる特撮の手法を編み出した人物である。原題は「Bláznova kronika」で、直訳すると「狂者の年代記」となる。この作品も実写と切り絵アニメーションを組み合わせているそうだが、その手の作品としては、ほら吹き男爵を映画化した「Baron Prášil」は見たようなきがする。あまり覚えていないけど、これが確かゼマンのこの手の作品の最初のものじゃなかったかな。
しかし、カレル・ゼマンと言えば、ゼマンの作品で現在でも繰り返し繰り返し放送される人気作品と言えば、「原始時代への旅(Cesta do pravěku)」をおいて他にはない。「ほら吹き男爵」なんかは、何かの特別な機会にしか放送されないが、こちらは毎年のようにどこかのテレビ局で放送されている。内容はSFというか、子供たちに生物の誕生の歴史を教えるための教育映画というかだけど、最初の設定さえ許せれば、面白く見ることができる。
発端は子供たちが三葉虫の化石を発見したことで、四人組の子供たちがボートに乗って、洞窟の中から流れてくる川をさかのぼっていく。川をさかのぼると地球の歴史をさかのぼることになり、すでに絶滅した動物や植物が見られるようになって、子供たちは観察日記をつけることになる。
洞窟の中だったはずなのに、川を上っていたはずなのに、いつの間にか海にたどり着いてしまうあたりあれっと思った記憶もあるけど、恐竜に追いかけられたり、ボートが壊されたり、スリリングな展開もあって飽きさせない。最後は海で生きている三葉虫を見つけるという形で物語は閉じる。
この映画では切り絵のアニメーションではなく、粘土で恐竜などの動物や植物を作成し、少しずつ動かしながら一コマ一コマ撮影していくという手法かとられている。動物などの造形に関しては、専門家に指導してもらって当時の最先端の研究成果を取り入れたらしい。ぎこちなさは意外と感じなかった。1950年代に、東側でこんな作品が作られていたというのは、日本の映画の歴史を知らないという点を差し引いても、驚いてしまう。
話を戻して「狂気のクロニクル」に出演している俳優としては、ペトル・コストカとブラディミール・メンシークの二人が重要。特にメンシークは、チェコスロバキアのコメディーには欠かせない人物であった。
大通りの商店
チェコ語の題名は「Obchod na korze」。『チェコ語の隙間』によれば、日本のテレビでも放送されたことがあるらしい。チェコでは滅多に放送されない。監督は名前のヤーン・カダールから考えるとスロバキア人、もしかしたらハンガリー系のスロバキア人ということもありうるので、チェコスロバキアのスロバキア側が中心になって撮影された映画の可能性も高い。
出演者のリストを見ても知っている名前が一つもないし、もちろんチェコスロバキア時代のチェコ側の俳優をすべて知っているわけではないけれども、共産主義の時代の俳優であっても有名どころは、繰り返し繰り返しテレビに登場するのでだいたい知っているはずである。念のためにヨゼフ・クロネルのページを開けてみたら、ありゃ、この人、「遺産相続」に登場した白髪の爺さんだ。
なんだかんだでつながっているものである。
2017年10月20日23時。
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この記事へのコメント
大通りの店は、前売り券持ってても入れないケースが予想されるので絶対見たい人は早く来いとのメッセージが出されました!
Posted by hudbahudba at 2017年10月29日 13:37
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