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2017年10月24日

ノバー・ブルナの映画が日本で見られるとは言っても……3(十月廿一日)



承前
受難のジョーク
 何だろうこれと思ったら、日本語への翻訳もあるミラン・クンデラの小説『冗談』の映画化だった。クンデラはフランスに亡命して以来、フランス語で作品を書くことも多いがこの時点ではまだチェコ語で書いていたはず。当然チェコ語の題名は「Žert」で前に「受難の」なんて形容詞はついていない。内容を考えて邦題にはつけたのだろうけど、チェコ映画の邦題には、一番有名な「コリャ」を含めて問題ありすぎである。
 監督はヤロミル・イレシュ、スロバキア人ぽい名前である。この人の作品も見たことがない。出演者で大切な俳優は、一番上のヨゼフ・ソムルと三番目のルデク・ムンザル、それにヤロミール・ハンズリークの三人。ソムルは、「厳重に監視された列車(Ostře sledované vlaky)」にも登場するチェコスロバキアを代表する名優の一人。ハンズリークはフラバル原作の「断髪式」で主人公の叔父のペピン役を演じて印象的な俳優である。二人とも、いろいろな映画やドラマに出演しているので、どこかで見たことがある人もいるかもしれない。ムンザルが出た映画はあまり見ていないけれども、「チェトニツケー・フモレスキ」に、それなりの役で登場するから重要な俳優であることは間違いない。
 ハンズリークは以前、共産主義時代の自分の出演作について、党主導のあからさまなプロパガンダ作品には出演しなくてもいいように、そういう企画が出てきたときには、すでに別の映画の撮影に入っているように、知り合いの監督に頼んでスケジュールを調整していたと語っていた。人気俳優というのは共産党も宣伝に使いたがったはずだし、大変だったのだろう。共産党政権の宣伝臭が強いとされる「ゼマン少佐の30の事件」で主役を演じた俳優は、共産党員ではなかったにもかかわらず、ゼマンを演じたという事実に付きまとわれて人生が変わってしまったと嘆いていたらしいし。


火葬人
 チェコ語は「Spalovač mrtvol」。これについては以前書いたから省略。次に放送されたら見てみようかな。


つながれたヒバリ
 イジー・メンツル監督が、当時のアイドル、バーツラフ・ネツカーシュを主役に据えて撮影した映画の二作目。原題の「Skřivánci na niti」を「つながれたヒバリ」と訳したのは、チェコの映画の邦題の中では秀逸である。かつて国外ではよく知られているわりに見たことがないと言うチェコ人が多いのに驚いたことがあるのだが、完成と同時にお蔵入りにされてしまって公開されなかったからだという。
 第一作の「厳重に監視された列車」もそうだが、この作品も、バーツラフ・ネツカーシュが素晴らしい。ちょっと頼りない、世間のことがわかっていないナイーブな男の子を演じさせたら、当時のネツカーシュの右に出る存在はいないんじゃなかろうか。チェコの歌手や俳優って、一見単なるアイドルに見えても、実は演劇関係の高等教育機関のDAMUで勉強していることが多いので、日本のアイドルとかタレントなんかとは比べてはいけないぐらいの演技力、歌唱力を誇るのである。ビロード革命後は事情も結構変わってきたらしいけどさ。ヘレナ・ボンドラーチコバーと競演した異色の童話映画「狂おしく悲しむお姫様(Šíleně smutný princezna)」も傑作だと思う。

 もちろん、この映画の完成度の高さについて考える場合には、監督のメンツル、脚本のフラバルというコンビも忘れちゃいけない。「厳重に監視された列車」「断髪式」「福寿草の祝祭(Slavnosti sněženek)」など、どれも一見の価値のある特徴的な作品である。
 出演者をみると、ルドルフ・フルシーンスキー、ブラディミールブラスティミル・ブロツキーの二人が重要。フルシーンスキーは、戦前、戦後、革命後の三つの時代をまたにかけて活躍したチェコ最高の名優だけど、ブロツキーの存在感も決して劣ったものではない。この二人が出ている時点で、作品の少なくとも役者の演技の面では、満足できることがほぼ確定である。

 ブロツキーで思い出すのは、以前娘で女優のテレザ・ブロツカーとともにトーク番組に出たときに、娘に、母親との結婚式を目前にして雲隠れした理由を問われていたときのことだ。正確には覚えていないけれども、確か「実は結婚式の前日に、闘病を続けていた祖母が……」「亡くなったんですか」「いや、その後元気になって今はアルゼンチンで別名で暮らしている」とか何とか。何の言い訳なのかわからなくなるような話に、よくわからないまま笑ってしまった。南米に逃げたナチスの高官が多いことをあてこすったのかなあ。
 ブロツキーの、このいたずらなと言うか、でたらめな側面がうまく出ているのが、くそジジイ二人組の活躍を描いた(それだけではないけど)「Babí léto」である。この映画の題名は「小春日和」と訳されることが多い言葉であるが、微妙に指すものがずれているような気がしなくもない。共演のもう一人のくそジジイは、「チェトニツケー・フモレスキ」で年配のチェトニーク、トゥルコを演じているスタニスラフ・ジンドゥルカである。


闇のバイブル/聖少女の詩
 この映画、邦題をチェコ語に訳して似た題名のものを探しても出てこない。原題は「Valerie a týden divů」。直訳すると「バレリエと不思議の一週間」。出演者についても特に語るべきことはない。ようは知らない人ばかりということである。

 見たことのない映画を出汁に、見たことのある映画について、三回分も薀蓄をたれてしまった。
2017年10月22日22時。




イジ―・メンツェル傑作選 ブルーレイボックス(収録『厳重に監視された列車』『スイート・スイート・ビレッジ』『つながれたヒバリ』) [Blu-ray]








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