2016年03月04日
映画の題名(三月一日)
このブログでは、チェコの映画や本を紹介するときに、チェコ語の題を示さずに私が適当に訳した題名を使っている。「トルハーク」のように訳しようがなくて、もしくは、訳したくなくてチェコ語をそのままカタカナで表記したものはあるけれども。
これまでは、日本でも上映されて日本語の題がついているものについてはできるだけ避けてきた。納得できない使いたくない題名が多すぎるのだ。比較的マシな「コーリャ」も、ここまでは、本来はのばさずに「コリャ」というほうが原音に近いのがのばされているのは、日本語のただの「コ」よりは、長く聞こえなくもないので許そう。でも何で「愛のプラハ」が付かなければならないのだろうか。マーケティング上、「プラハ」を付けたかったということなのかも知れないが、アカデミー賞の外国映画部門で賞を取った作品でネームバリューは抜群だったはずだし、「コーリャ」という題名のほうがシンプルで絶対にいいと思うのだが。「コーリャ 愛のプラハ」なんて題名じゃこっぱずかしくて見にいけねえ、見られねえと思うのは私だけではなかろう。そもそも、金のために偽装結婚する男が主人公なのに「愛の」と言われてもなあ。チェコ人の愛はゆがんでいるというメッセージだというなら、それはそれで、ありかもしれないけど、題名を見ただけでは伝わるまい。
さらに頭を抱えたのは、「プラハ!」という邦題である。これを見てチェコ語の「レベロベー」だとわかる人はいまい。1968年のプラハの春の時期を背景にしているとは言え、舞台は国境地帯の小さな町でプラハなんぞ出てきはしないのである。チェコ語で「反抗者たち」という意味の題名には、ジェームス・ディーンの「理由なき反抗」のイメージが投影されているような気がするので、それを生かした題名でも悪くないと思うのだけど。やはりチェコと言えば、プラハだということでこんな邦題になってしまったのだろう。だから、日本人はチェコにはプラハしかないと思っていると憤慨するチェコ人が出てくるのだ。
英語の題名をカタカナ化するのもやめて欲しい。そのままじゃなくていじってあるのも気持ちが悪い。「スウィート・スウィート・ビレッジ」という題名を見て、あの「ベスニチコ・マー・ストシェディスコバー」の内容は想像できないし、内容を知っていると皮肉にしか聞こえないのは、我が英語力のなさゆえだとしても、この題名では見る気になれないなあ。題名ではなく、文章か詩の一節であれば、「村よ、我が心の中心よ」(注:この訳は間違いだった。地域の中心となる村を「ストシェディスコバー」と呼んでいたらしい)とでも訳したいところだけど、これで題名にしてしまうと、「明るい農村」みたいな内容を想像してしまいそうだからなあ。そうすると「故郷」ぐらいの簡単な題名でいいのかもしれない。
「トマボモドリー・スビェト」が、「ダーク・ブルー」になるのも何だかかなあ。今まで挙げたのよりはましだけれども、「スビェト(=世界)」を落とす意味があったんだろうか。「青黒き世界」とか、「群青色の世界」「ダーク・ブルーの世界」とかじゃ駄目だったのかな。もしかしたら、「この素晴らしき世界」と「世界」が重なるのが嫌われたのかもしれない。
「この素晴らしき世界」の「私たちは助け合わなければならない」というチェコ語の原題が、日本語訳にすると題名にはならないのは重々承知の上で、これじゃ駄目だろうと思う。それにこっちの方が、「コーリャ」よりずっと「愛のプラハ」が似合うような気がする。内容とチェコ語題を鑑みて、ぱっと思いつくのが、「情けは人のためならず」ということわざなのだが、これでは見る気になれないし。
一体に、チェコの映画や本の題名は、そのまま訳すと日本語では題名にしづらいものが多い。昔読んだ本では「消防士達の舞踏会」と訳されていたミロシュ・フォルマンの「ホジー・マー・パネンコ」は、ウィキペディアには、「火事だよ!カワイ子ちゃん」と書かれていて泣きたくなったが、原題の意味には近づいているのである。文になっている題名も多く、日本語訳そのままでは使えそうにないものが多いのだ。天才子役と言われたトマーシュ・ホリーの「どうやって鯨の奥歯を抜くか」「どうやって父ちゃんを特別教室に放り込むか」、ツィムルマン関係者が出ている「マレチェクくん、ペンを貸してくれたまえ」「ヤーヒム、そんなの機械に放り込んじまえ!」などなど、こんな日本語の題名では客を呼べそうもない。
こうして考えてみると、映画の邦題をつけるのは大変な仕事なのだと思わされる。こんなところで適当に書き飛ばすのとは違って、いろんなところに責任があるだろうから。それでも、もう少し何とかしてほしいというのが、チェコ語での題名の意味も知っていて内容も知っている人間の正直な感想なのだ。
最後に、自分で題名をつけてみて結構いけるんじゃないかと思ったものを一つ。モラビアの国民的な映画だと言われている映画がある。怪優ボレク・ポリーフカが、まったく演じずに素で登場したものだとも言われているけれども、共産党政権崩直後のモラビアの田舎を舞台に国を出て財産を築いた親戚の遺産相続をめぐるごたごたを描いた映画である。チェコ語では「デディツトビー――アネプ・クルバホシグーテンターク」というのだが、「遺産相続――あるいは、グーテンタークって言ってんだろが、馬鹿やろうども」としてみた。いかがだろうか。続編は「遺産相続――あるいは、そんなこと言っちゃいけねえよ」としておこう。
3月2日15時30分。
意外とチェコ映画のDVDは手に入らないのね。それなのに、こんなのが買えるとは! これも題名=文の作品で、「俺、アインシュタイン殺しちまったんだよ、みんな」とでも訳せるもので、「アインシュタイン暗殺指令」は納得できる邦題である。3月3日追記。
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