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2017年08月25日

接頭辞の迷宮四(八月廿二日)



 一日間を挟んだけれども、せっかくなのでもう少し続ける。よく考えたら接頭辞なんてややこしいことを始める前に、もっとくわしく前置詞の説明をしておいたほうがよかったかもしれないなんてことも考えたのだけど、こんな文章を読むのは、最後まで読んでくれる人は、多分チェコ語を勉強している人ぐらいだろうから、いいとい言えばいいのかな。前置詞もすでに書いたこと以外にも、感覚がつかめなくて苦労するのはあるから、いずれ書くことになるかもしれない。おそらくないとは思うけれども、これらの文章がチェコ語を勉強する人の助け、もしくは気休めにでもなれば幸いである。

 さて、第四回目は「vy」にしよう。この接頭辞は、互いに関連付けるのが難しい二つの意味を付け加える。一つは中から外へという動きを表ス使い方で、もう一つは上に向かう動きを表す使い方で、ある。この接頭辞をつけた動詞は、両方の意味で使われることが多い。
 歩いていく「vyjít」も車で行く「vyjet」も、「上に向かって行く」という意味でも、「外に出て行く」という意味でも使われる。「ven(=外に)」「nahoru(=上に)」という副詞を一緒に使ってわかりやすくすることが多いけど、文脈からも理解できそうである。

 辞書を見ると「這う」という訳語のついている「lézt」に「vy」をつけた「vylézt」は、辞書には「這い出る」「這い登る」なんて訳語が挙げられているけれども、別に這う必要はない。登るほうは木に登ったり、険しい山に登ったりするとき、つまり足で歩くだけでなく手も使う必要があるときに使うと考えればいい。よじ登るなんて言い方がいいかもしれない。それに山に登るときには、特に手を使わなくても「vylézt」を使っているような気がする。
 それから外に出るほうも、部屋に閉じこもっている人に「出てこい」という意味で、「vylézt」の命令形を使うこともあるので、取り立てて四足になる必要はない。もちろんベッドやソファーの下にもぐりこんだペットの犬や猫に対して使えば、四足の「這い出る」になるけれども、人間がどこかから這い出る状況というのは滅多にあるまい。

 プラハの地下鉄の車内放送で、「Ukončete nástup a výstup, dveře se zavírají」というのを聴いたことのある人は多いだろう。「乗車、降車を終わらせてください。ドアが閉まります」という意味だが、このうち「výstup」が降車にあたり、動詞「vystoupit」から派生した名詞である。「vystoupit」は、「電車を降りる」ととらえるよりも、電車の中から「外に出る」ことをさしているのだと考えたほうが接頭辞の「vy」が理解しやすくなる。またこの動詞は演劇などの「公演をする」という意味でも使うが、これは舞台に「上がる」という意味だととらえればよかろう。
 「vytáhnout」は「引き出す」だけでなく、「上に引っ張る」という意味でも使えそうだが、「vybrat(=選び出す)」の場合は、上に向かう意味を付け加えるのは難しそうだ。逆に「vyhrát(=勝つ)」は、勝つというのは相手の上を行くことだと考えれば、上に向かう意味が加わったと解釈してもよさそうだけど、外に向かうのは想定できない。
 たまに「vy」が付け加える二つの意味に共通する要素、語源的なものがないのか考えてみるが、答えは出てこない。おそらく別々の起源なのだろう。外の反対、中に向かう動きを表す接頭辞は「v」だし、上の反対、下に向かう動きを表すのは「s」なのである。例えば、発音の関係で「e」が入るけど、「vejít」は中に入るという意味で、「sejít」は下に下りるという意味を持つ。

 他にもあれこれ「vy」のつく動詞はあって、中には上にも外にも向かわないものもある。こじつけてこじつけられるものもあるけれども、こじつけられないものもある。それでも、「vy」のつく動詞は上か外と覚えておけば、知らない動詞でも何とか意味が取れることがある。
 ちなみにこの「vy」のつく動詞の中でのお気に入りは「vyhnat(=追放する)」である。いや正確にはこれから派生した名詞の「vyhnanství」である。古代ギリシャの陶片追放とか確かこの言葉で表現しているのを見て妙に気に入ってしまったのであった。
8月24日23時。






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