2017年06月20日
鶏卵の話(六月十七日)
フランスのスーパーがケージで飼育された鶏の卵の販売を停止するという記事を読んだ。こういうニュースにさすがフランスなどと反応したのでは、問題の本質にたどりつけない。ここで考えなければならないのは、鶏卵業者がどうしてケージを使った鶏の飼育をしているかということである。
スーパーマーケットというと、チェーン店の数の多さを武器に同一の品物を大量に仕入れることで、仕入れ値を下げて廉価に販売するというイメージがある。それだけであれば何の問題もないのだが、近年のヨーロッパ(実例を知っているのはチェコだけだが、チェコのスーパーはすべて外資系なので本国でやっていることと大差あるまい)のスーパーは、食品の仕入先に対して、販売を握っているという強みを悪用して、廉価に販売するために、生産コストを下回るような価格での納入を強要する。また、目立つ場所に陳列してほしければ、金を出せと食品会社に迫ることもあるという。
記憶に新しいのは、数年前の牛乳を巡る問題である。乳製品製造業者の牛乳の買い取り価格が、生産コストを下回るため、生産すればするほど赤字が発生するという状態に陥った酪農業者が、抗議のために牛乳を廃棄処分するなどという事態に至っていた。一部の酪農農家では、直営の牛乳自動販売機を開発して、設置し直売にすることで少しでも損を取り戻そうとしてた。一時はこの自動販売機がブームになって、あちこちに設置されたのだが、最近は沈静化しているようである。オロモウツでは、郊外のショッピングセンター、ツェントルム・ハナーの隣にあるコープの店舗の前に置かれていた。
この酪農農家からの買い取り価格の低さというのは、加工業者だけの責任ではない。加工業者は納入先のスーパーチェーンに価格を下げることを強要され、経営努力ではどうしようもなくなって、酪農農家からの買入価格を下げるしかなくなっていたのである。生産業者にとっては、納入先を失うというのは、何としても避けなければいけない事態であり、スーパーから要求されれば無理をしてでも値下げに応じてしまうのだという。値段を下げなければ別の会社から仕入れるなんて言われたら、下げるしかないのだろう。
フランスの場合も、しばしば酪農農家の人たちが大々的なデモをやっていることを考えると、状況はあまり変わらないのだろう。ただし、フランスの農家はチェコの農家よりは恵まれている。フランスはEU内でも特例として、農家に対して損失補填的な補助金を配布することが許されているらしい。チェコはそんな特例は持っていないので、作れば作るほど赤字が増える酪農農家を直接救済する手段は持たないのである。チェコでの報道なので、フランスの件に関してどこまで正しいのかはわからないが。
酪農農家の中からは、このままではチェコの乳牛の飼育は壊滅してしまうという声が上がっていたが、実際、乳牛の飼育頭数は以前と比べると大きく減っているらしい。
同じような理由で、一度姿を消しかけたのがニンニクの栽培である。中国産の廉価な輸入品との価格競争で、スーパーチェーンに買い叩かれ生産しても赤字にしかならないということで、ニンニクの栽培をやめる農家が続出し、チェコ産のニンニクが手に入らない時期があった。幸いにして直売マーケットなどのおかげでニンニクの生産は細々と続いていたようである。
中国産のニンニクの味、香りのなさにチェコ人たちも気づき始め、これでは本物のチェスネチカ(ニンニクスープ)が作れないと思ったのかどうかは知らないが、チェコ産のニンニクが求められるようになった。しかし、そのころにはスーパーでは手に入らない品になっていたのである。最近はまたチェコ産のニンニクの生産量も増えてきたのか、スーパーでも見かけるようになっている。スーパーの側が生産農家に頭を下げて生産をお願いしていたりしたら溜飲も下がるのだけど、そんなことはないだろう。
話を戻すと、鶏卵も同じなのである。スーパーチェーンの買い取り価格が不当に安いから、効率のみを重視して安く生産する方法を使うしかないのである。チェコのスーパーでもポーランド産の鶏卵を見かけることがあるのはポーランドの業者の納入価格がチェコの業者よりも安いからに他ならない。そこに味だとか、食の安全だとかに対する配慮は全くない。
おそらく、スーパーチェーンでは、今回のケージ生まれの鶏卵を扱わないという決定を経てなお、ケージを使わなくても、使った場合と同じぐらいの価格で納入できる業者を探すはずである。つまり、鶏卵業者の側では、ケージ使用と同じぐらい効率的な鶏卵の生産方法を工夫することになる。そうして生産された鶏卵は、おそらくケージ使用のものと大差のない品質のものになるだろう。
EUでは、他の国でもやっていることかもしれないが、スーパーなどで販売される卵には、コード番号が印刷されていて、その番号を見ればどんな状態の鶏が生んだ卵なのかわかるようになっている。鶏卵工場のケージに押し込まれた鶏、工場のような施設でもある程度動き回れるような環境で生きている鶏、庭で放し飼いにされた鶏などに、それぞれに番号が指定されている。
そのおかげで、卵の味や、安全性を重視する消費者は、自分が求める鶏卵を選んで買うことができる。だから、記事に上がっているから多分有名であろうレストランで、近年までケージの鶏卵を使用していたという事実の方が驚きであった。そういうレストランでは、値段が高いとはいえ、より健康的な生活をしている鶏の産んだ鶏卵を使用しているものだと思っていた。動物愛護活動家だって、ケージ産の鶏卵の不買運動でもすればいいのだ。需要がなくなれば供給もなくなるのだから。
ケージで飼育される鶏の問題は、EUでも、もちろん把握している。把握しているけれども、スーパーの支配的な立場を悪用しての値下げ強要を禁じるという抜本的な対策ではなく、鶏一羽辺りのケージの大きさを決めるという意味不明な対策しかとっていない。ケージの中に閉じ込められて卵を産み続けさせられる鶏にとって多少の広さの違いが何を意味するというのだろうか。これがEUの現実なのである。
6月18日23時30分。
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