2017年04月14日
オロモウツ観光案内2――カレル・クリルのレリーフ(四月十一日)
昨日の記事はまじめに、本当にまじめに書いたので本日はかるく、ちゃらんぽらんに書いてみよう。前回書いたって言っても先月の話になるけど、バーツラフ広場からトラムの通る通に出て右に曲がって、共和国広場のほうに向かう。バーツラフ大聖堂に背を向けてトラム通と平行している細い道を突き当りまで行って左に曲がってもいいけど、とにかくトラム通に出て共和国広場に向かって歩く。
最近その道を歩いていて気づいたのが、右側にあるウ・フベルタというレストランの入っている建物の壁に、カレル・クリルを記念したレリーフが設置されていることだ。このレストランというよりは、飲み屋と言いたくなるお店は、確かサマースクールの指定のレストランの一つで、しばしば通った記憶がある。当時はどちらかと言うと、煙草の煙の充満する安さを売りにするようなお店だったのだけど、改装されてこぎれいなレストランに変わったとビール好きの知人が言っていたが、改装されてからは行ったことがない。
カレル・クリルは、日本ではほとんど知られていないに違いない。ただ、ビロード革命のときにハベル大統領と一緒に歌を歌っていたギターを持った髭のおっさんと言えば、あの人かと思い当たる人もいるかもしれない。同じく歌手のマルタ・クビショバーとともにビロード革命でチェコスロバキアが変わったことを象徴する人物だった。
クリルの存在を知ったのは、最初に参加したサマースクールのときだっただろうか。先生がチェコの歌を聴くならこの人の歌を聞けといって紹介してくれたのだ。この人の歌は、言葉の正しい意味でのプロテストソングである。1968年8月22日、ワルシャワ条約機構軍がチェコスロバキアに侵攻してきた夜に、軍隊による制圧を目にしながら書かれたという「Bratříčku, zavírej vrátka」なんか、あのとき授業中に聞いて、完全に理解できたわけではないけれども、心が震えるような歌詞に歌いっぷりだったのを覚えている。
プラハの春のあとのいわゆる正常化が始まった後、クリルは1969年には、西ドイツへ亡命する。確か自動車工として働きながら、音楽活動を続けたらしい。その音楽はラジオ局自由ヨーロッパの放送を通してチェコの人たちも聞くことができ、共産主義に疲れ果てていた人々にとってはある意味反共のシンボルとなっていたらしい。
ビロード革命の際、1989年11月末に廿年ぶりにチェコに帰国したわけだけれども、民主化後のチェコスロバキア社会の動向は、クリルを満足させるものではなかったようで、再びドイツに戻ってしまう。そして1994年にミュンヘンで、49歳で亡くなってしまう。ビロード革命でチェコに帰国した亡命者のシンボルとしてクリルをさんざん利用した政治家たちは、ほとんど葬儀に参加しなかったらしい。葬儀自体はプラハで行われたというのにハベル大統領も出席しなかったのである。
ときにギターを持つ詩人とも言われるこの希代のフォーク歌手は、チェコにおいては孤高の隔絶した存在である。同じくフォーク歌手のノハビツァが、強制されてとはいえ、秘密警察の協力者名簿に名前が残っており民主化後の社会をもうまく泳いでいるのと比べると、クリルの生き様は、激しくそしてすがすがしい。保身のために共産党に擦り寄る奴らにも、体制が変わったとたんに手のひらを返して拝金主義者に成り下がった奴らにも、「くそったれ」と罵倒して国を捨てたのだ。
実際に身近にいたらちょっと感情の激しすぎる困った人だったかもしれないが、遠目に見る限り其の颯爽とした生き様は、かっこいいしあこがれてしまう。だからこそクリルは今でもチェコ人にとって特別な、曲が頻繁に流れるというわけではないけれども、特別な存在になっているのだろう。
ウ・フベルタの壁のレリーフには、カレル・クリルが、若いころこの建物の中にあったデックスという名前のクラブで音楽活動を始めたということが書かれている。クリルは実はオロモウツから遠くないハナー地方のクロムニェジーシュの出身らしいのだ。それもこれも含めて知らんかったぜ。
久しぶりにクリルの曲が聞きたくなったんだけど、アルバムは持っていないのだった。サマースクールでイタリア人の参加者が、PCのハードディスクにネットでダウンロードしてきたものがたくさん入っていると言っていたのをコピーさせてもらっておけばよかったぜ。当時はまだUSBメモリーも一般的ではなかったから、無理だったかな、やはり。
またなんか失敗した感が強いなあ、今日の記事。
4月12日23時。
何これ? カレルチャペックのティータイムセット? チェコのお茶ってことだろうか。4月13日追記。
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