2017年02月27日
プシェロフ再訪三(二月廿四日)
プシェロフが、コメンスキーの町であることを自任し、チェコでも最も歴史のあるコメンスキーについての博物館が置かれているのは、コメンスキーがこの町で過ごしたからに他ならない。子供の頃、この町の兄弟団の教会に付属する学校で教育を受け、各地に遊学して学問を修めたあとに戻ってきて、先生になったのだ。
そのコメンスキーが教鞭をとったと思われる学校の跡地が発掘されたというニュースは、以前、小耳にはさんだ記憶がある。そして、半年ぐらい前に別のコメンスキー関係者が来られたときに、その発掘現場がきれいに整備されていたという話を聞いたような気もする。チェコのコメンスキー関係者と一緒にお酒を飲んだときにも、その発掘の際の写真がどうだこうだ言っていた。
しょせん、我がコメンスキーに関する知識は、ちゃんと本を読んで学んで身につけたものではなく、関係者と話をしたり、それを通訳したりしているうちに、おのずから身についた、いわば門前の小僧方式の知識である。その付け焼刃の知識の悲しさ、専門家の話を聞いて、何とか通訳していても、半分も理解できていない可能性がある。
今でこそ、問題ないけれども、ポーランドのレシュノを、チェコの中で探そうとして見つけられなかくてリーシェンのことかと誤解したり、オランダのコメンスキーの墓地のあるナールデンが覚えられなくて通訳するたびに町の名前を言い直してもらったりしたこともある。いまだに覚えられないのが、ハンガリーのコメンスキーが滞在してトカイワインを飲みまくっていた町の名前である。チェコの人はチェコ語名を使って、日本の人はハンガリー名を使うので、しかもややこしい音なので、短期間に覚えるのは至難の業なのだ。決して年を取って記憶力が悪くなったからだとは思いたくない。
博物館に向かう途中で川沿いに発掘現場があるのには気づいていた。ただ、待たせているという意識もあって立ち寄らなかったのだ。個人的には、一度川のほうに降りて、また広場に向かって登るのが面倒だったというのもなくはないけど。
コメンスキー時代の教会と付属の学校は、あまり大きくないものだったようだ。発掘現場は保護のために埋め戻されその上にモニュメントが建てられているのだが、教会のほうは外枠に沿っていくつか四角い石が置かれていて、どんな形のどんな大きさの建物だったのかがわかるようになっている。学校と教会の間にコメンスキーも使ったに違いない通路があって、そこだけは下に降りて見られるようになっているのだけど、冬場の雪対策で黒いビニールシートで覆われていて、降りていくことも上から見ることも出来なかった。
発掘現場からはベチバ川の対岸に、チェコの体操団体ソコルの大きな建物が見えるのだが、かつて発掘現場にソコルの建物が建っていたこともあったという。発掘現場は旧市街から川べりに降りてきたところで、それほど広くないので、対岸に移ったということだろうか。発掘現場と今のソコルのある対岸を結ぶ橋は、以前、ビザの手続きのために渡ったことがあるのだが、あのころは老朽化していて正直渡るのが怖かった。歩行者専用だったような気もする。それが今回、きれいに改修されて車も通れるようになっていたし、橋のたもとにはプシェロフのシンボルである野牛の像も置かれていた。ただ、どうして野牛がシンボルに選ばれたのかはわからない。郊外で化石が発見されたマンモスでもいいと思うのだけど。
その後、博物館に戻るヘレナさんに、勧めてもらったレストランに入る前に、マサリク広場の一角にあるコメンスキーの記念碑を見に行った。警察署の建物の壁の上のほうにある記念碑には、金の古めかしい文字でコメンスキーがプシェロフにいた年代が書かれていたが、知らなければ気づかなかっただろう。先達はあらまほしきものなりとは、『徒然草』だったろうか。
プシェロフは、残された旧市街自体はあまり大きくなく、観光名所とは言いにくいので、出かける日本人は、ビザの延長が必要な人と、コメンスキー研究者ぐらいだろう。でも博物館の入っているお城や、お城の前の閑静なたたずまいのホルニー広場、広場にある建物の外側にめぐらされた城壁など、歴史に興味のある人にとっては、一見の価値はありそうだ。プシェミスル家がモラビア支配の拠点として建設したなんて話も聞いたことがあるし。
これで、駅から旧市街までがもう少し近く、いや近くなくても移動しやすかったら、電車の乗り換えのついでに町を見てみようという人も出てきそうな気もする。バスに乗っても一方通行が多くて歩くのと変わらないぐらい時間がかかるらしいし。
2月25日23時。
書影がまだあがっていないのが残念だけど、教育者、哲学者の枠に収まりきらないコメンスキーの姿を知るためには、近々出版予定のこの本を読むのがよさそうだ。講談社、たまにはいい仕事するなあ。2月26日追記。
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