2017年02月06日
困ったチェコ語(二月三日)
日本語とチェコ語の相違点の中には、日本語を深く考えるのには全く役に立たないものも、もちろんある。そしてそういうのに限って、間違えてしまうというか、なかなか正確に使えるようにならないので困り者なのである。
日本語では、自分の足で歩こうが、車に乗ろうが、電車を使おうが、「行く」という動詞一つで済ますことができるが、チェコ語の場合には歩いていく場合は「jít」で、乗り物を使う場合には「jet」と、使用する動詞が違う。今でこそ、意識して使い分けできるようになっているが、チェコ語を使い始めた当初は、トラムやバスで移動する場合にも、「jít」ばかり使って、うちのの顔をしかめさせていたものだ。
問題になるのは、乗り物の範疇である。自動車や電車がそこに含まれるのはいい。馬車も自転車もタイヤがあるから乗り物と考えてよかろう。馬に乗る場合も自分の足ではないから、「jet」のはずである。では、馬が自分の脚で歩いていく場合には、うーん、これも人間じゃないから「jet」かなあ。いや、でもペットの犬が歩いてくるのには、「jít」を使っていたような気もする。
人間が足に特別なものをつけて移動する場合、つまりスキー、スケートの場合には、自分の足を使うので、「jít」だろうと思っていたら、実は「jet」が正しかった。歩くときの足の上げ下げがないからだろうか。ただし、同じ上げ下げがない状態でもすり足で歩く場合には、「jít」を使うはずである。でも、立っているときに足が滑っていくのにも、歩いていてついた足が滑って前にずれていくのにも「jet」を使うことを考えると、すり足も「jet」かな。いや自分の意思で足を動かしているから、やはり「jít」かなどと、いくら考えても結論が出ないし、質問して答をもらってもすぐに忘れてしまうのである。
もう一つ、この「行く」を表すチェコ語で困るのは、これから行くと言いたいときに、特別な形を使わなければならないことだ。歩いて行く「jít」の場合には一人称単数で「půjdu」、乗り物を使う「jet」は同じく「pojedu」となる。前に付く接頭辞が違うのも厄介なのだが、変化形しか存在せず、「půjít」「pojet」という原形を想定しないというのが納得できない。実際に使用するしないはともかく、設定はしてもかまわないと思うのだけど。
ちなみに、「jít」の接頭辞を間違えて、「pojít」にしてしまうと、原形は存在するけれども、意味が全く違ったものになってしまう。この動詞、死ぬという意味になるのだけど、人間ではなくて動物があの世に行くという意味で使われる。行くという言葉の一つの展開と言えば言えなくもないのかな。
日本語の「行く」に相当する「jít」には、日本語の「行ける」と同じような使い方もある。日本語に訳すときは、「これでいい」とか「これで大丈夫」と訳したほうが自然かもしれないが、例えば、チェコ語であれこれ文を考えて、正しいかどうか確認したいときに、「jít」の三人称単数を使って、「Jde to?」なんて聞いてしまうわけである。「この表現行ける?」ということである。
それから、「元気?」とか聞かれて、元気とは言いたくないけど、死ぬほど状態が悪いわけでもないと答えたいときに使う「ujde to」も「jít」の派生表現である。強いて日本語に訳せば、「何とか行けてる」となるだろうか。この辺は、日本人には比較的わかりやすくて使いやすいのではないかと思う。
自分の足で運ぶ場合と、乗り物を使う場合の区別で、さらに困るのは、「行く」だけではなく、「運ぶ」にも、があることなのだが、こちらに関してはもう完全に諦めて、「nést」しか使わない。車で運ぶにせよ、電車を使うにせよ、交通機関に乗り込むまで、降りてからは自分の足で運ぶわけだから、あながち間違いとは言えないじゃないかと開き直るのである。外国語で話すのは、ただでさえ大変なんだから、そこまで気を遣ってなんかいられない。こんな適当さだから、最近、チェコ語の能力が落ち気味なんだな。昔は真面目に勉強していたのに……。
2月4日23時。
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