2017年02月07日
反バビシュ法(二月四日)
2013年の下院選挙から既に四年近く、再び下院の総選挙が行なわれる年がやってきた。だからというわけでもないのだろうが、連立与党内で、第一党である社会民主党と第二党のANOの間の主導権争い、つまりは目くそ鼻くその罵りあいが激しくなっている。第三のキリスト教民主同盟も選挙に向けて、市長無所属連合との選挙協力の話し合いを始めたようである。
現在、与党内での対立の原因となっている主要なテーマは二つある。一つ目は反バビシュ法とも呼ばれる法律が制定されたことと関係する。この法律は、閣僚の経済活動を規制するもので、政治家一般でも、国会議員でもなく閣僚だけであるところがチェコ的なのだが、新聞社や雑誌社、テレビ局などのマスメディアを所有することが禁じられた。マスコミのオーナーとして自分に都合の悪いニュースや記事をもみ消したり、矮小化したりするのを防ぐ意味があるらしい。
以前、バビシュ氏のEUの助成金を巡るスキャンダルが勃発したときに、バビシュ氏が所有する新聞二紙、「ムラダー・フロンタ・ドネス」と「リドベー・ノビニ」だけが報道しなかったという件もあって(批判を受けてから記事にしたけれども)、与野党を問わずほとんどの国会議員が賛成して、法案が成立したようだ。閣僚でマスコミの経営にかかわっているのは、バビシュ氏だけなので、反バビシュ法などと呼ばれてしまうわけだ。他にも共産党の元党首の国会議員が小さな新聞を経営していたはずだけど、話題にもなっていない。
しかし、問題はそんなところにあるのではなく、「ムラダー・フロンタ・ドネス」と「リドベー・ノビニ」といういわばチェコの二大新聞を一つの会社が買収してしまうことを許してしまったことにある。既に2000年代の初頭には、この二つの新聞が一つの会社によって所有されていることを知って驚愕した記憶があるから、当時はEU加盟前で独占禁止法がまともに機能していなかったのかもしれない。いや、まともに機能していれば、どちらか片方の新聞を手放すような決定が出てもおかしくないはずだから、今でも機能不全ということか。
この法律でもう一つ規制されたのが、閣僚が経営に参画している企業は、国やEUからの助成金を申請することと、公共事業への入札ができなくなるという点である。ようは、助成金を出す側、仕事を発注する側と、申請、受注する側に同じ人物がいるのは好ましくないと言うことのようなのだけど、むしろ、今まで野放しであったことに驚かされる。
助成金に関しては、以前、中央ボヘミア地方の村の村長が、補助金を出す側の地方政府の高官となって、村は申請する補助金をことごとく獲得しているという事実がニュースとなったけれども、批判しているのは助成金がもらえなかった他の自治体の首長たちだけで、特に大きな問題にはなっていなかった。
このあたりの不正ぎりぎりのやり方の洗練のされていなさが、チェコがヨーロッパにおける汚職のランキングで下位に低迷している理由であろう。EU加盟歴の長い西欧諸国では、やり口が洗練されていて、こんな法律上ぎりぎりであっても問題にならなければいいという見え見えのやり方はしないはずである。
公共事業では、国会議員が設立した会社が、国民健康保険のカルテなどのデータのデジタル化のプロジェクトを請け負って、ほとんど何の成果も出さないままプロジェクトは失敗に終わり、国会議員はその会社を外国の企業に売却して、その企業がプロジェクトの打ち切りにたいする賠償金を求めて裁判を起こすなんてこともあったし、国家議員の会社が、国から環境調査の仕事を請け負って出した報告書が手抜き過ぎて全く使えず詐欺罪で逮捕されて国外逃亡したなんて事例もある。政治家の経営する会社が公共事業を食い物にするなんてのは、枚挙に暇がないのだ。
この法律、見え見えの抜け穴があって、本人名義でなく家族の名義であれば問題ないようなのである。バビシュ氏は、直接家族の手に託すのではなく、経営のための基金のようなものを作ってそこに所有するアグロフェルト社以下の経営を任せることにしたようだ。その基金の理事に奥さんをすえたことで、批判を受けているのだけど、これは法律に反しなければ、モラル上の問題はどうでもいいという政治風土のチェコで穴だらけの法律を作ってしまった方が悪いとしか言いようがない。
こんな中途半端な法律はない方がましだし、規制をするなら国会議員の兼業を、地方議会議員や地方公共団体の首長も含めて禁止する法律を作るべきなのだ。その上で、家業の場合にだけは制限付きで例外とするなどの処置をとればいい。そんなことをしないで、バビシュ氏とそのアグロフェルト社を狙い撃ちにするような法律を、既存の大政党が手を結んで制定するもんだから、バビシュ氏の人気が上がってしまうのだ。
最近見かけた世論調査の結果によれば、もっとも支持率の高い政治家がバビシュ氏で、二番目が同じANOのストロプニツキー防衛大臣だという。この結果に最も貢献しているのが、有権者達に愛想を付かされかけている既得権益を守ろうとして汲々としている既存の政治家連中の行動なのである。バビシュ氏の人気を落としたければ、余計なことをしないのが一番である。どこかでぼろを出すに決まっているのだから。ぼろを出しかけたところで、大喜びで余計なことをするから、うやむやになってしまうのである。
2月5日16時。
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