2016年12月14日
衝撃の……ピルスナーがアサヒになる(十二月十三日)
疲れ果てて家に帰って、ちょうど放送されていたテレビのニュースが、衝撃的なことを言っていた。ピルスナー・ウルクエル社が日本のビール会社に買収されるというのである。その日本の会社がアサヒビールだというのだから、ややこしいことになりそうだ。
ピルスナー・ウルクエル社は、1990年代の終わりに、日本の野村證券が出資していたIPB銀行を通して、ノムラのヨーロッパ法人に買収されたことがある。その一年ぐらい後に、購入額の倍以上で南アフリカビールに株を転売して、ノムラとIPB銀行は大もうけだったらしいのだが、その後のIPB銀行の倒産もあって、このピルスナー・ウルクエル社の株の売買に関しては、経済詐欺の疑いがかかっていて、「チェコビール事件」と呼ばれることがある。以前も書いたが、詳細は不明である。
その南アフリカビールが、アメリカのミラービールと合併して、SABミラー社になっただけでも、巨大な多国籍ビール企業の誕生だったのだが、さらにアメリカのバドワイザーを参加に収めるベルギーのインベブ社との合併が決定した。さすがに市場の独占につながるということで、SABミラー=インベブは、合併を承認する条件として、傘下のビール会社のいくつかを手放すことを求められていた。
売却の候補としてピルスナー・ウルクエル社が上がっているのは知っていたが、本当に売却されることになるとは思っていなかった。世界的に通用するブランドをあまり持たないSABミラー社にとっては、フラッグシップ的な存在になっていると聞いていたのだ。ただ、アメリカのバドワイザーと比べたら、ネームバリューは落ちるからなあ。
今回、本当に売却されることになり、日本のアサヒビールが購入することで企業間では合意に達したというのだが、これからEUの公正取引委員会の審査を受けて認定される必要があるようだ。アサヒビールは、日本では最大手とは言っても、SABミラーやインベブほどは大きくないから、独占禁止法にふれることもあるまい。
ということで、日本のビール会社とチェコのビール会社でややこしい事態が起こることになった。性格にはねじれの関係というのがいいのだろうか。これまでは、ピルスナー・ウルクエルとキリンビール、スタロプラメンとアサヒビールというのが、定番の組み合わせだったのだ。プルゼニュと高崎市が姉妹都市になったのも、キリンビールの工場がある縁だったというし。
現在は知らないがかつて2000年ぐらいまでは、ピルスナーの330mlが日本にも正規に輸入されていて、実際に輸入業務を行なっていたのは、チェコが専門のある商社だったが、名目上の輸入元、販売元はキリンビールだったのである。今後はアサヒビールが輸入するという形になるのだろうか。それなら、ピルスナーの500mlや、タンク入りの生ビールも輸入して、気軽に日本でも飲めるようにしてほしいものだ。生はやはり無理かな。
ただし、日本でのライセンス生産だけは、絶対にやめてほしい。それにポーランドやロシアでSAB傘下のビール工場でやっているらしいライセンス生産も契約が切れた時点でやめるのがいいだろう。ピルスナー・ウルクエルは、プルゼニュでつくるからこそ、ウルクエルなのだ。ただ、アサヒビールはポーランドにも子会社を持っているらしいから、そっちに移すとかしそうなきもあする。ポーランド産のピルスナーがチェコや日本に入ってこなければよしということにしておこう。
ここで、ふと思い出したのが、かつて銀座にあったビアホールのピルゼン。知り合いにつれられて90年代の半ばに何度か足を運んだのだが、あそこでピルスナーが飲めたんだっけ? それとも別のビアホールだったかなあ。代々木にあった(今でもあるかも)ひつじ屋というお店では、ガンブリヌスが飲めたのを覚えているけど。スロバキアのワインもあったかな。
そして、西ヨーロッパ市場向けに出荷されるアサヒスーパードライを生産しているのは、プラハのスタロプラメンの工場なのだ。この現地生産は2000年ぐらいから始まったんだったかな。とまれ、スタロプラメンをかつて所有していたのが、今回SABと合併するインベブで、現在の親会社はカナダ、アメリカのモルソン・クアーズ社である。
ピルスナー・ウルクエルがアサヒビールの傘下に入る以上、いつまでもライバル会社のスタロプラメンにスーパードライを作らせるというわけにもいくまい。そうすると、プルゼニュのピルスナーの工場でスーパードライを生産することになるのか……。うーん。チェコの麦芽、ホップ、職人を使って、ピルスナータイプ発祥の地で、スーパードライの生産とか、やはりビールの伝統に対する冒涜だよなあ。
考えてみれば、ピルスナー・ウルクエルを傘下におさめるということは、ベルコポポビツキー・コゼルとラデガストも傘下に入るということである。ということで、この三つの中から選ぶなら、ラデガストでスーパードライというのが一番精神衛生上いいかな。ただ西ヨーロッパの市場からは一番遠くなってしまうので、プラハの近くのコゼルの工場というのが現実的だろうか。いっそのことポーランドで作っちゃえよと思わなくもないけど。
既に書いたことの繰り返しになる部分もあるけれども、あえて重複を避けないことにした。その方が、衝撃の大きさが感じられるだろうし。それから、十一日と十二日の分をとばして、この記事を先に投稿する。この手のショックはできるだけ早く、多くの人と分かち合いたいものである。
12月13日23時。
これがこうなるのか……。
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