2016年12月15日
トカゲの尻尾きり?(十二月十一日)
ミロシュ・ゼマン大統領の大統領府で公式の典礼を担当する部門の責任者だったフォレイト氏が、辞任することになった。大統領府の広報官オフチャーチェク氏の話によると、ここ何ヶ月かの間に連発したゼマン大統領の失策は、ほとんどすべてこの人物の責任だったらしい。
すでに紹介したスロバキアの元大統領の葬儀に遅刻した件も、ナチスのホロコーストを生き延びたブラディ氏に勲章を授与すると言っておきながら、甥の文化大臣がダライラマと文化省で会談を持ったことを理由に撤回した件も、フォレイト氏の行動が原因で引き起こされたものらしい。航空管制官を批判する大統領の発言は何だったんだと言いたくなるが、今となっては大統領も含めて誰も触れようとしない問題である。
他にも、十月廿八日の勲章授与式にアメリカ大使が出席しなかったとゼマン大統領が批判した件がある。大統領によれば、招待状を送った各国大使の中でアメリカ大使だけが出席しなかったというのだが、実はしっかり出席していて、チェコテレビの撮影した映像にもしっかり写っていたし、大統領の批判の直後に隣にいたドイツ大使が、一緒にいたことを証言したため、ゼマン大統領は赤っぱじをかくことになってしまった。
これも、出席者を確認した上で大統領に報告したフォレイト氏が、アメリカ大使が来ていないという過った情報を大統領に伝えたかららしい。どんな出席の確認をしたのだろうか。来賓用の受付があって記帳とかしてもらっているのではないかと思うのだが、誤認したということは目視確認だったのだろうか。それなら、アメリカ大使はアメリカ人らしからぬ小柄で控えめな人物だから、見落とすのも無理は、あるよなあ、やっぱり。
では、このフォレイト氏がどんな人物かというと、もともとは故バーツラフ・ハベル大統領の時代に大統領府に入ったらしい。その後、バーツラフ・クラウス大統領に引き立てられて、現職の儀式・典礼担当の責任者となったようだ。クラウス大統領の下で仕事をしていた十年の間に、最初の大きなスキャンダルを引き起こしている。日本以上のある意味で超学歴重視社会であるチェコでは、それぞれの仕事、役職に必要な学歴が指定されていることが多い。フォレイト氏が就任した役職の場合には、修士の学歴が必要なものなのに、フォレイト氏は修士課程を修了していないということが発覚して、学歴詐称だと批判されたのだった。
当時のクラウス大統領は、この件に関して、フォレイト氏は非常に有能な人物でこの役職にふさわしいだけの能力を持っているのだから、どこの修士課程で勉強したのであろうが、修士課程を実際に修了していようがいまいが、基本的にはどうでもいいと、フォレイト氏を擁護していた。
あれこれ問題発言も多いクラウス氏だが、チェコの政治家には珍しいこの合理的な考えには、全く持って賛成する。箔付けのためだけに大学に入学して政治家としての権力を使って卒業して学位をとった連中に比べれば遙にまともな考えである。政治家=学生の卒論は、薄くて内容がないか、人のものの丸写しばかりだというし。そんな無駄なことをしている暇があったら、なんていうのは政治家には寝耳に水なのだろう。
そして、2013年にミロシュ・ゼマン大統領が就任したときに一度は辞任を申し入れたらしいのだが、ゼマン大統領に説得されて職に留まったようだ。その後、ゼマン大統領があちこち出かけるときには、常にその傍にあって、ニュースなどの映像に写っていることも多かった。残念ながらクラウス大統領のときがどうだったかは記憶にない。
さて、このフォレイト氏は辞任する前から、ゼマン大統領によって、次期駐バチカンのチェコ大使と目されていたようである。一連の不祥事を経て辞任することになった現在でも、その考えは変わらないらしい。まあ、クラウス氏の奥さんをスロバキア出身だという理由で、スロバキアのチェコ大使に任命したり、トランプ大統領の最初の奥さんを、チェコのアメリカ大使に就任させることを希望したりするような大統領だから、功労賞として重要なポストを与えるのは不思議でもなんでもないのかもしれない。
ただ、このフォレイト氏には、何かで脅迫されていたのではないかという話もあって、その脅迫されている場面を収めたビデオをマスコミ関係者に売り込もうとしている連中がいるらしい。何に関して脅迫を受けたかという点では、未確定情報ながら麻薬がらみではないかと言われている。この件に関して警察も動き始めたようで、このまますんなりバチカンに行ってチェコ大使を務めるということにはならなさそうだ。
何はともあれ、このフォレイト氏が本当に問題を引き起こした張本人だったのか、責任をおっかぶって辞任することにしたのかははっきりしない。功労賞的なポストが用意されているところを見ると、トカゲの尻尾きりのように見えなくもないけど、どうなのだろうか。
12月11日23時。
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