2016年09月23日
天元五年六月の実資〈上〉(九月廿日)
六月も一日の雨から始まる。実資が雨の中内裏に出かけていくと、太政官から天皇への公式の奏上である官奏という儀式が行われる。同時に諸社に奉幣し祈願の儀式を行う件についても天皇の御覧に入れており、「別紙に在り」と書かれているが別紙はない。伊勢神宮の斎宮関係の役所である斎宮寮の頭に藤原奉高が任じられているのは伊勢守だからだろうか。割注に「除目」とあるのは、この藤原奉高の斎宮権頭への任官のことかもしれない。この件は藤原為光が処理したようだが、実資によれば左大臣の仕事だという。最後に中宮職の御封について大夫済時が定めている。
二日も雨。遵子立后について神社や天皇陵に報告する儀式を先例通りに行うように天皇が左大臣に告げ、実資はその件を太政大臣の頼忠に報告している。また神社への使を天皇の御前で定めているが、使者として選ばれたのは殿上人たちであった。
最後に左大臣が、儒者たちの怠状、つまり始末書のようなものを取り上げているのが気になる。怠慢だったのか、何か失敗したのか。文字から言うと怠慢だろうけど、断言はできそうもない。
三日は、ただの雨ではなく夜中に雷雨に襲われている。やはり雨が多い。この日の記事は二人の源氏、源惟章と源遠理が密かに出家してしまったということに尽きる。実資も感じるところがあったのか、恐らく自らの家司を出家した寺に送って、訪問させている。
儒者たちが提出した怠状は、書式がおかしいということで書き直し。使えないやつらである。このころから腐儒的な存在がいたのかな。
四日は宿直明けで退出し、左大臣のところに天皇のお使いとして出向いている。蔵人の仕事であろうか。
五日には、天皇が譲位の準備であろうか、退位後の御所ともなる後院、それから後に実際に退位後の御所となった堀川院の別当を定めている。この日は、殿上人達が、囲碁を楽しんでいるというのが気になる。囲碁そのものなのか、囲碁を肴にお酒を飲んだのか、「囲碁の興」だからなあ。
六日には新たに仏事が始まっている。今回は不断の法華経転読である。不穏なことが起こらないことを願っての仏事であろうが、内裏の近くの小屋が焼けるという事件が起こっている。ただ「仍て勅計の事有り」がわからない。天皇が何か対策を考えたのだろうか。中宮の遵子にも報告しているということは、中宮にも関係する小屋だったのか。
七日と八日は、六日に始まった不断の法華経転読の様子が少し書かれているだけ。八日に出てくる「然の名前は、この年の翌年中国に渡るから少し気になる。
不断の法華経は九日に終了を迎え、この日には、囲碁の勝負で負けた側が勝った側に御馳走をする「負態」が行われている。この手の勝負事で負けたほうが勝ったほうを饗応するというのはこの時代よくあることのようである。日本人の賭け事好きはこのあたりから始まっているのかもしれない。
九日の記事の末尾に室町に出かけて、実の兄の藤原懐遠に亡き両親の法事について尋ねている。これは室町の邸宅には藤原懐遠が住んでいたと考えていいのだろうか。それとも実頼関係者の住む室町の邸宅を法事のために使うと考えたほうがいいのか。悩ましいところである。
十日は、前日出てきた室町での亡き両親のための法事である。ただ実資自身は、陰陽道で忌むべき衰日に当たるために欠席している。お金だけは収めているのかな。そんな状態で夜に入ってから参内しているのは、内裏が物忌に入っているからか、衰日は日中のみのことなのか。
十一日は久しぶりに雨。本来は天皇自身の行う神事である神今食が、朝堂院の北の殿舎中和院で行われるのだが、物忌なので天皇の出御のない略儀で行われたようだ。天皇が出てこないからか、公卿もサボりが多く出席したのは源伊陟だけ。天皇がこの日伊勢神宮に神宝などを贈ったのは、「前年の御願」だというが、その内容は残念ながら不明。頭注によれば天元二年三月のものだという。気が向いたら『大日本史料』で確認してみようか。
十二日は、朝雨が降っている。直会が行われているのは、神事である神今食のあとのものであろうか。
十三日には、中宮のための御読経(季御読経かも)が行われている。中宮遵子はすでに入内しているので会場は内裏の内部の弘徽殿である。中宮職の長官である大夫済時は、何か事情があったのか出席していないから、亮の実資が差配したのだろうか。
十四日は、まず儒者たちの怠状がまた登場し、また不備であったようだ。左大臣に託されているが実資は奏上していない。太政官の奏上である官奏の担当者は大納言だったのだろうか、繰り返し藤原為光が官奏に候じている。
十五日は、天皇が中宮のところにやってきて、中宮のための御読経の一環として論議が行われている。後半に聖天供と毘沙門天供が出てくるが、これは実資自身が行ったもののようだ。毎付きの例事という割には、この六月が初出のような気がする。それとも後に続く祇園社への奉幣が毎月のことなのか。
9月21日15時。
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