2016年01月20日
日本語におけるチェコ人の人名表記について(一月十七日)
かつて、チャースラフスカーはチャスラフスカで、ナブラーチロバーはナブラチロワ、ドボジャークはドボルザークだった。アメリカ以外の外国の情報がほとんどなく、どこの国の人であれ、とりあえず英語での読み方をまねしておけばよかった時代ならこれでもよかったのだろうが、そんな時代はとっくに終わり、日本にもチェコ語ができる人がいて、チェコに旅行する日本人も多くなった現在、チェコ人の人名のカタカナ表記にもう少し気を使ってもらえないものだろうか。確かに、100パーセントチェコ語と同じ発音になるような表記ができる名前は少ないが、見ても聞いても誰のことだかわからないような表記を使って平然としているのは、プロとして犯罪的であるだろう。
チェコはそれほど有力な国家ではないので、政治や経済のニュースでチェコ人の名前が日本の紙面を飾ることは滅多になく、またそういう記事の場合にはチェコに関係する人たちが書くことが多いので、それほど変な表記を見た記憶はない。一番問題なのは、チェコ人が世界各地で活躍しているスポーツ関係である。
世界最大のスポーツであるサッカーは比較的まともである。以前はペトル・チェフが「ツェフ」と書かれているのを散見したものだが、最近は見かけないし、リバプールで活躍し「スミチェル」と書かれることの多かったシュミツルは引退して表に出てこなくなって変な表記のしようがなくなったし、せいぜい音引きの有無が問題になるぐらいで、おおむね許容範囲にあると言っていい。もしかしたら、最近はチェコの選手がヨーロッパの有力リーグで活躍していないために、チェコ人の名前そのものが日本の新聞記事に出る回数が減っているからかもしれないのだが。そういえば、以前オロモウツを「オロムーチ」とか誤記した雑誌の記事を見て憤慨したことがあったけど、最近うちのチームは、チェコリーグでもぱっとしないので日本の新聞に載ることなんてないだろうし。
それに対して、テニスは酷い。比較的まともな男子選手から行くと「ベルディハ」と書かれることのある選手だが、この人の名字の最後の子音は、日本語の「ヒ」の子音とほぼ同じなので「ベルディヒ」か、子音単独の音の場合にはウ段の音で表記することの多い日本語の特性を考えて「ベルディフ」と書くのがいいと思うのだが。もっとも、英語風の発音をそのまま写した「バーディッチ」とか「ベルディッチ」に比べれば「ベルディハ」でもはるかにマシなのだが、「ベルディッチ」なんて書くところないよね。
それから、「ジリ・ベズリ」という名前を見て、ぎょっとしたことがある。チェコ語のJはヤ行の音であることを知っている私は、ちょっと考えて、これはイジー・ベセリーのことだと気づいたのだが、そんな人はほとんどいないだろう。
女子選手の場合はもっとひどい。チェコ人の女性の名字は「オバー」(表記の仕方によっては「オヴァー」)で終わることが多いのだが、一時期「ワ」で終わる表記をしばしば見かけた。これではロシア人の名字である。酷いものになると同じ記事中で、同じチェコ人なのに「ワ」でおわるのと「バ」で終わるのが混在しているのまであった。
そして、ある選手名一覧の記事で「ルーシー・サファロワ」という選手の名前を見て、横にチェコの国旗がついているのが間違いで、ロシアの選手だろうと思ってしまったことがある。実際はルツィエ・シャファージョバーのことだったのだが、こういう表記をされると、その媒体そのものが信用できなくなるし、記事を読む気も失せるのである。
もう一人、自転車のロードレースの記事で「クルージガー」という名前を見たときにも、目を疑った。ドイツ語起源のこのチェコの名字は、クロイツィグルと書くのが一番チェコ語での読みに近いのだが、せめて他の雑誌が使っていた「クロイツィゲル」にしてほしかった。その前に、「クルージガー」と「クロイツィゲル」の二つの表記をみて、同じ名字だとわかる人はいるのだろうか。
テニスや自転車レースは、若年世代から国外に出て活動することが多いため、選手達も英語風に名前を読まれてしまうことに慣れていて、いちいち目くじらを立てないのかもしれないが、雑誌や新聞で取材をする記者がそれに甘えていいのだろうか。サッカーのワールドカップのときなど、チェコテレビのアナウンサーたちは、アジアや南米などの名前の読み方がよくわからない国のテレビ局から来ている取材班のところに出かけていって、一つ一つ確認したと言っていた。日本のメディアに、それを期待するのは無理な話なのだろうか。それができなくても、チェコ語なら東京外大のチェコ語の先生に問い合わせるぐらいのことはしても罰は当たらないだろうに。2020年に行われるらしい東京オリンピックでは、チェコ人の名前がチェコ語風に読まれ書かれることを望みたいものである。
1月17日22時30分
こんなことを書いた後に、テニスの全豪オープンの記事で「クヴィトバ」という表記を発見して開いた口がふさがらなかった。自社でVの音を、「バビブべボ」で書くことになっているのか、「ヴァヴィヴヴェヴォ」を使うことになっているのかぐらい確認しろよ。ちなみに、チェコ語ではKvitováである。1月19日追記
ためしに大き目のを。1月19日追記。
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