2016年05月27日
スラフコフ・ウ・ブルナ、あるいはアウステルリッツ(五月廿四日)
アウステルリッツの三帝会戦。高校の世界史で習ったこの言葉を覚えている人も多いだろう。ドイツ語でアウステルリッツと呼ばれる町が、チェコ語のスラフコフである。ただし、スラフコフという名前の町は、ここだけではないので、正式にはブルノのそばのスラフコフということで、スラフコフ・ウ・ブルナと呼ばれている。
この小さな町には、バロック様式で建てられた小さな城館があって、本来はドイツ騎士団がルネサンス様式で建てたものが後に改築されたらしい。ドイツ騎士団というと、ドイツから東方のバルト海沿岸に領地を持っていたというイメージが強いが、チェコ各地に足跡を残しており、いまだに、お城などの資産返還の裁判を起こし続けている。宗教関係者が財産に拘泥するなんて恥ずかしくないのかと思うのは日本人だからだろうか。
騎士団と言えば、テンプル騎士団と関係のある町が、南モラビアのチェイコビツェである。スロバーツコと呼ばれる民族色豊かなワイン造りの地方にある町の例にもれず、この町でもワインの生産が盛んで、テンプル騎士団との関係を売り物にして、ワインを生産している業者もあるようだ。
さて、このスラフコフにも、サマースクールの遠足の一環として出かけたのだが、小さなお城を大人数で見学するのが大変だったのを覚えている。アウステルリッツの戦いの前には、ロシア皇帝アレクサンデル一世とオーストリア皇帝のフランツ一世が、この城に滞在し、会戦が終わった後にはフランス皇帝のナポレオンも滞在したのだという。確か、ナポレオンが宿泊した部屋というのが再現されていたような気がする。
モラビアには、お城がたくさん残っていて、見学できるところも多いのだが、正直な話、特に特徴のあるお城でもない限り、どこに何があったかを覚えているのは難しい。スラフコフでも、一番印象に残ったのは、実は、遠足に出かけたのが土曜日だったため、昼食をとるために、営業中のレストランを探すのが大変だったことだ。今では、おそらくスラフコフでも改善されているだろうが、2000年代の初頭は、オロモウツでも土日に営業しているレストランを探すのは大変だったのだ。
スラフコフに行く理由は、街やお城だけではない。スラフコフまで行くならば、実際に戦場となった近くの丘にある慰霊のための記念碑モヒラ・ミールにも足をのばしたほうがいい。記念碑の下の部分は中に入れるようになっていて、四隅の角に立って、壁に向かって小さい声で話すと、対角の隅まで声が聞こえると言われている。行ったときに実際に試してみたけど、いまいちよくわからなかった。人の数が多すぎて雑音に紛れてしまったのだと思う。
その後、案内のおじちゃんが、あちこちの丘を指さしながら、あそこにはナポレオンの本陣があって、こっちに移動してなどと、アウステルリッツの戦いの様子を、解説してくれたが、正直よくわからなかった。今もそうだけど、チェコ語で軍事用語を使って軍隊の話をされても、理解が及ばなかったのだ。チェコ人が聞けば、目の前に戦いが蘇るような説明だったのだろうけど。「チェトニツケー・フモレスキ」の中のアラジムの言葉によれば、地元の人たちは代々この戦いについて語り継いできたらしいから、このおじちゃんの説明も、学問的な調査の結果ではなく、語り継がれてきたものだったのかもしれない。
毎年、戦いが行われた時期には、酔狂な人たちがチェコはもちろんヨーロッパ各地から集まって、戦いの再現を行っている。十二月初めの大抵は雪の降る寒い日に、当時の服を着て当時の武器を持って、それぞれの軍が動いたように移動し模擬戦闘を行うのだ。もちろん、実際の軍人と同じだけの数が集まるわけではないが、終わった後や、休憩中に寒さに震えながら熱いお茶を手に持って飲んでいる参加者の姿を見ていると、戦闘で死んだ兵士も多かっただろうが、寒さで死んでいったのも多かったのだろうと実感を持って納得できる(例えば2005年)。
このアウステルリッツの戦いを中心とする一連のナポレオン戦争で、モラビアまで従軍した兵士たちの中には、帰国できずにモラビアの地に根を下ろした人たちも多かったらしい。フランス語がチェコ語風になまってしまって原型をとどめない名字(具体的な名字は失念してしまった)や、フランツォウス(=フランス人)、シュパニェル(=スペイン人)などの名字が存在するのはその名残だという話である。
ちなみに、ナポレオンが最初に本陣を置いたジュラーンという丘の上には、それぞれの軍隊がどこに配置されていたかを示す地図が上面に彫り込まれた記念碑があり、その記念碑の設置された土地は、大戦間期以来フランス領(ってほどではないか)ということになっているらしい。
5月25日18時。
アウステルリッツで検索したらこんなのが出てきた。名作と言われても困るよね。5月26日追記。
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