2019年06月07日
チェコ代表日本行きならず(六月五日)
今年の十二月に日本の熊本で行なわれることになっているハンドボール女子の世界選手権の出場権をかけたプレーオフで、チェコ代表はモンテネグロと対戦した。ヨーロッパのハンドボールを知る人なら、この対戦相手にチェコ代表の勝ちぬけは難しいだろうという予想がつくはずだ。それは、モンテネグロがチェコよりも強いという意味ではなく、バルカンの笛という、アジアの中東の笛以上にたちの悪いものが存在しているからである。審判を見方に付けた相手ホームの試合で勝つのは不可能に近く、プレーオフでホームで先に試合をする場合には何点差つけて勝っても安心できない。
もちろん、代表チームとしての実績でも、選手たちの所属するチームでの実績でも、モンテネグロの方が上で、勝ち抜け候補であることは言うまでもないのだが、それにバルカンの笛が加わると、勝ち抜けは絶望的になる。実際にチェコ代表との試合で見たモンテネグロは、それほど強いチームには見えず、正直肩透かしだったのだが、予想通りというより、危惧していた通り、チェコ代表は勝ち抜けることができなかった。日本に行くなら通訳として売り込もうかなと思ったのだけど……。
二試合を通じての最大の感想は、審判御見事というものである。見事に試合をコントロールして、二試合合計で同点、アウェーでの得点の多さでモンテネグロが勝ち抜けるという絵にかいたような結末を演出してくれた。誤解のないように書いておくと、審判を褒めているのではなく、非難しているのである。モンテネグロ側ではほめているだろうけど、チェコ側から見るとそりゃねえだろと言いたくなるし、解説者も思わず「ネー」とか叫んでいた。
モンテネグロでの試合では、チェコ代表のミスが多く負けるべくして負けたというのはその通りだが、チェコのミスが少なかった場合には、審判からの援助が大きくなるだけの話で、モンテネグロの勝ち抜けは変わらなかったはずである。できるだけあからさまにならない形でモンテネグロに加担するという課題を、審判たちは見事にこなしたのである。
先週の金曜日に行われたモストでの試合は、チェコ代表のミスが少なく、モンテネグロのキーパーもあっていなかったから、チェコが優勢に試合を進めていたのだが、肝心なところで、より正確には、チェコが勢いに乗って点差が広がりそうになると、チェコに不利な判定が出て勢いが止められていた。その結果、26−24で勝ちはしたものの2点しか差をつけることができず、モンテネグロでの試合に大きな不安を残したのである。
この試合の審判は全体的に見れば、公平な判定を下していたと言ってもいい。ただ、要所要所で微妙なプレーをモンテネグロ寄りに吹くことで、点差が広がりすぎるのを防いでいた。この一試合だけで評価するなら、それほどいちゃもんを付ける気にはならないが、二試合通して考えると、あからさまにならないレベルで見事に点差をコントロールしていた。職人芸といってもいいぐらいである。
大黒柱のルズモバーが欠場する中、強豪のモンテネグロに勝てたのは大きい。大きいのだけど、モンテネグロが前評判に反してそれほど強くなかったことを考えると、もう少し大きな点差をつけて勝っておきたかった。大きな点差をつけていたとしても、第二戦で逆転されたのは間違いないが、あからさまなバルカンの笛が再び白日にさらされることにはなったはずである。だからどうなるというものでもないのがハンドボールというスポーツの抱える闇である。
モンテネグロでの試合で笛を吹いたのはトルコの審判だった。そもそもこの人選がヨーロッパのハンドボール界が本気でバルカンの笛に対応する気がないことを示している。バルカンチームの試合を同じバルカンの人間に吹かせるというのは、バルカンのチームに勝たせろといっているに等しい。ハンドボール連盟としては、ハンドボールの人気がそれほど高くないチェコよりも、クラブチームがチャンピオンズリーグで活躍するハンドボール人気の高いバルカンのモンテネグロを世界選手権に出したいと考えているのだろう。
トルコの審判の仕事を楽にしたのは、上にも書いたがチェコチームのミスが多かったことと、モンテネグロのキーパーが当たっていたことで、そのおかげで審判が立て続けにモンテネグロよりの判定を下すというあからさまなシーンはなかった。ただ要所要所で明らかにチェコ側に不利な判定がなされて勢いがとめられていた。
最後のチェコの攻撃が決まっていれば、勝ちぬけられていたのだが、23−25と2点差で負け、二試合の合計点数では同点だったが、サッカーならともかくハンドボールに適用する理由が理解できないアウェーゴールの差という奴でチェコの敗退が決まった。モンテネグロの最後の得点の前、相手のミスからチェコがボールを獲得したと思ったら、よくわからないファウルを取られてしまった。得点のシーンも攻撃側のチャージングを取ってもおかしくないプレーだったのだが、反則の笛ではなく、ゴールを認める笛が吹かれた。
ハンドボールは常にコンタクトのあるスポーツで、実はどちらか片方が100パーセント悪いというファウルはそれほど多くない。この最後の失点のシーンも6対4か7対3で攻撃側のファウルだったけど、この場面だけを切り出せば、モンテネグロホームでの試合でもあるし、反則を取らなかったのも許容範囲ではある。ただ直前にチェコがあるのかないのかもわからない反則を取られたことを考えると、一定の意図というものを感じずにはいられない。試合開始直後ならまだいくらでも挽回できるけど、終了間際の取り返しのつかない時間帯にこれやられるとたまったものではない。
チェコの監督は、チャンスに決められていればと、速攻からのシュートを3、4本外したことを嘆いていたが、それが決まっていたとしてもバルカンの笛が発動していたはずである。これがハンドボール界の度し難い現実なのだ。それにしても、モンテネグロは、チェコの選手たちがよくがんばったというのは確かであるにしても、完全な評判倒れだった。前評判どおりの実力があれば、審判も普通に笛を吹いていればよかっただけだから、ある意味審判も犠牲者ではあるのか。
今後男子も女子もプレーオフでは二度とバルカンのチームとは当たらないことを願っておく。勝っても負けても後味が悪くなるのは確実である。当たってしまった場合には第二戦がチェコで行われるようにする必要がある。さすがにチェコではバルカンの笛は発動しないだろうし、発動したとしてもそれほど効果的ではないはずである。
滅茶苦茶悔しい敗退だった。最近ハンドボールについて書くと愚痴ばかりである。
2019年6月6日24時。
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