2019年06月08日
反バビシュデモ大盛況(六月五日)
EU委員会が行ったバビシュ氏の「コウノトリの巣」事件などのEUの助成金取得に関する監査の結果と言われるものが、チェコに届いて、バビシュ氏が経営していて、形だけは信託フォンドに預けて手を離したことになっているアグロフェルト社に対して、助成金が出ているのはバビシュ首相による職権の濫用にあたるというようなことが書かれていたらしい。
それで、火曜日にはプラハのバーツラフ広場を埋め尽くすだけの人々が集まって抗議集会が行われた。助成金問題だけではなく、その前の法務大臣の交代によって、バビシュ首相が検察、裁判所影響を及ぼそうとしている(ようにみえる)ことに対しても抗議していた。バビシュ首相が新たに任命したベネショバー法務大臣に対する抗議集会はこれまでもチェコ各地で行われてきたから、EU委員会の監査報告書が火に油を注いだということになる。
チェコでこれだけ大きなデモが行われるのは、久しぶりのことで、2000年代の初めに政府が、チェコテレビの運営に介入しようとしたときのデモか、それこそ1989年のビロード革命のときの抗議集会以来ということになりそうである。SNSなどを通じて呼びかけてという抗議集会の人の集め方には、時代は変わったなあと思うだけだが、舞台だの大画面のプロジェクターだのが設置されているのを見ると、主催者がメガホンではなく、マイクを使ってスピーカを通して声を伝えているのを見ると、デモというものに思い入れのある、かつての心情左翼としては、なんだか胡散臭いものを感じてしまう。
メガホンなら、職場にあったの借りてきましたで済むけど、舞台を設置するお金はどっから出たのって話で、以前ダライ・ラマ問題で旧市街広場で反ゼマンの抗議集会が行われたときに、お金を出して設備を提供したのは大統領選挙に立候補することを表明していたホラーチェク氏だった。なら今回は? と疑いたくなるのが人情というものである。
バビシュ氏に対して抗議したくなる気持ちはよくわかるけど、バビシュ氏とANOが政界から消えたとして、状況が改善されるとは言い切れないのが、チェコ政界の最大の問題である。現時点でANOよりましと言えるのは海賊党しかない。他は、オカムラ党以外は90年代に確立されたクライアント主義と呼ばれる政治形態を支えてきた政治家と政党なのである。実業家やロビイストと呼ばれる連中と結びついて、国家を食い物にしてきた政治家とその後継者たちが、権力を握ったところで、状況がよくなるとは思えない。
司法制度にしても、バビシュ氏が排除されたら、別の誰かが影響力を行使するに決まっているのである。裁判官が中心になったグループが、顧客の依頼に応じて、依頼された企業に破産宣告を出していたなんて事件もあったし、そもそも検察内が割れていて、それぞれの顧客になっている政治家の政敵にかかわる事件を摘発しているなんて話もある。だから、抗議集会の主催者が求める司法の独立性なんてのはチェコでは絵に描いた餅じゃないのとしか思えないのである。
チェコも日本と同じで、袋小路に追い詰められて、どうすれば状況が改善されるのか全く先が見えなくなっている。政界に於いてバビシュ=悪が成り立つとしても、バビシュ以外=善は全く成り立たないのである。ただ、もし今回の抗議集会が、既存の政党とは関係のないところで、自然発生的に起こったものだとすればまだ救いはある。かつての市民フォーラムのように緩やかに連帯する市民で次の下院選挙に立候補すれば、それなりに票が集まるのではないだろうか。その際に、既存の政治と、90年代から続くクライアント主義と関係のある人々を排除することを忘れてはいけない。中に入り込まれてしまうと、組織が変質して元の木阿弥ということになりかねない。
こういう反政府のデモの盛況を見ていると、かつて80年代の日本で感じていた民主主義ってのは何なんだろうという疑問が再び現れてくる。デモの参加者がいくら多くても、前回の下院の選挙でANOに投票した人の数には届くまい。80年代の日本も、反自民党の声は大きく、しばしば抗議集会なんてものが開かれていたけれども、選挙をすると勝つのはいつも自民党だった。声の大きな少数派と、声を出さない多数派、民主主義ではどちらを大切にするべきなのだろうか。
民主主義が、どちらが正しいかを決めるものではなく、どちらを求める人が多いかによって決める制度だという理解が正しいとすれば、最大多数の最大幸福なんて言葉も勉強したわけだし、デモや抗議集会をする人たちのなすべきことは、声を出さない多数派を説得して少数派を多数派に変えていくことだろう。
しかし、かつての日本では、デモに参加している自分に陶酔している人、自分の正しさに酔ってしまっている人が多く、その言葉は声を出さない多数派には届いていなかった。声なき大衆を、こちらの言うことを理解しないあいつらはバカだと、心の中で見下しているのだから届くわけがない。チェコでもバビシュを批判する人たちの口から、バビシュ支持者は低学歴が多いなんて言葉が聞こえてくるわけで、これだと民主主義の手続きに基づいてバビシュ内閣を打倒するというのは、つまり選挙でANOを打ち破って政権を獲得するところまで有権者を集めることはできそうにない。
いや、それでも試してみるべきだろう。ということで、下院で内閣不信任案を可決させて解散総選挙に持ち込み、抗議運動の主催者を中核とした政治団体で政権獲得を目指す。海千山千のバビシュ氏が、EUに犯罪者扱いされたとか、抗議デモに直面したとかいうぐらいで退陣なんかするわけがないのだから、それが唯一の現実的なバビシュ下しの方法である。
それが、既存の政治家を中心とする野党が、どうせ否決されるから不信任案は提出しないと言い出した。否決される可能性は、実際に不信任案を提出したバビシュ首相の息子の誘拐事件が発覚したときのほうが高かったはずである。今ならEU議会選挙の惨敗で揺れている社会民主党から造反者が出て可決される可能性はないわけではない。オカムラ党をどうするかという問題があるのは確かだけど。
野党のなかに、EU議会の選挙の結果を見て、今すぐ選挙が行われることを望まない党があって、不信任案の提出で合意できなかったのだろう。以前は、世論調査の結果は当てにならないという強気の声もあったのだが、選挙のたびにANOが世論調査通りに1位になるのを繰り返した結果、聞こえなくなっている。
ここで社会民主党が、ANOと共産党を説得して、解散総選挙に打って出たら評価は高まると思うのだけど、そんなばくちは打たないだろうなあ。かくて、事もなきが如くにバビシュ政権が続いて行くのである。夏休みも近いしね。
2019年6月7日14時。
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