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2021年09月23日
満州事変から90年 満州国の裏面史
アヘンと共に栄えアヘンと共に滅びた
満州事変から90年 満州国の裏面史
現代ビジネス 9/18(土) 8:33配信
写真 現代ビジネス 9-23-10
丁度90年前の1931年(昭和6年)9月18日午後10時20分頃、中華民国奉天(現在の瀋陽)郊外の柳条湖付近の南満洲鉄道線路上で爆発が起きた。これを端として関東軍は〔満州〕を占領・・・「満州事変」で在在る。
当時、夢の国とされて居た〔満州国〕では何が起こって居たのか・・・ノンフィクションライター・魚住昭氏が『週刊現代』2016年7月23・30日号に寄稿した 「アヘンと共に栄え、アヘンと共に滅びた満州国の裏面史」を再録する。
ノンフィクションライター・魚住昭氏 1951年生まれ 一橋大学卒 75年共同通信社入社 検察担当記者時代にリクルート事件で数々のスクープを放つ 96年よりフリーで活躍 2004年『野中広務 差別と権力』 (講談社)で講談社ノンフィクション賞受賞 他に『特捜検察 (岩波新書)』 (岩波新書) 『渡邊恒雄 メディアと権力 (講談社文庫) 』(講談社文庫) 『テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2』 (朝日新聞出版・佐藤優氏との共著)等の著作が在る
※ ※ ※ ※ ※
岸の清濁を知る人物「古海忠之」
引き続き〔昭和の妖怪〕岸信介の事を書く積りだったが、資料を漁る内に面白い本に出食わした。コレを素通りするのは惜しいので今回は一寸寄り道させて貰う。 本の題名は『古海忠之 忘れ得ぬ満州国』(経済往来社刊)だ。
古海忠之 9-23-4
著者の古海は東大卒の大蔵官僚で、1932(昭和7)年に誕生したばかりの満州国政府に派遣された。国務院経済部次長等重要ポストを歴任。実質的には満州国副総理格で敗戦を迎え、戦後はソ連・中国で18年間に渉って拘禁された。
因みに岸が満州経営に携わったのは1936(昭和11)年〜'39(昭和14)年の3年間。古海は岸の忠実な部下で、岸の裏も表も知り尽くして居る。 その古海が語るアヘンの話に耳を傾けて欲しい。
ご承知と思うが、当時の中国はアヘン中毒患者が国中に蔓延して居た。 古海が満州国初の予算を編成して居た1932(昭和7)年の事だ。上司が「満州ではアヘンを断禁すべきだ」と強く主張し、各方面の説得に当たった。
その結果、植民地・台湾の例に倣い、アヘンを一挙に廃絶するのでは無く、徐々に減らす漸禁策(ぜんきんさく)を執る事に為り、ケシ栽培からアヘン製造販売迄全てを国家の管理下に置く事にした。アヘン専売制である。
目論み外れ借金苦に
1940(昭和15)年、古海は経済部の次長に為った。当時は産業開発五ヵ年計画達成の為、華北から輸入する鉄鉱石や石炭が膨大な量に上って居た。これに対し、華北の求める食糧や木材は余り輸出出来ず、関東軍と満州国政府は巨額の支払い超過に悩まされて居た。
それを解消する為関東軍が考えたのが熱河省(満州の西側)工作だ。熱河はアヘンの主産地で、そのアヘンは専売総局で全部買い上げ管理する建前に為って居る。が、実際は、広大な丘陵地帯を取り締まるのは不可能で、年々夥しい量が北京等に密輸されて居た。
関東軍の目論見はこうだった・・・軍と政府が密輸業者の活動を黙認する。その見返りに彼等が密輸で得た連銀券(華北通貨・満州はその不足に悩んで居た)を同額の中央銀行券(満州国通貨)と交換する。或いは業者に資金を与えて密輸アヘンを集め、華北に売り捌いた代金(連銀券)を回収する・・・ 関東軍の要請で古海はこの工作を請け負った。
彼は三井物産から個人的に2,000万円(現在の約200億円)を借り、それを資金に活動したが行き詰まった。密輸業者等が「俺達には関東軍と経済部次長が着いて居るから、警察に捕まる心配も無い」と言い触らしたからだ。
古海の元に熱河省各地から抗議が殺到した。工作は中止され彼が個人で支出した2,000万円も回収不能に為った。借金返済を迫られた古海は当時をこう回想する。
里見甫(さとみはじめ) 9-23-8
〈窮余の一策として、上海に居る私の親友里見甫(さとみはじめ)君に助けを求める事にした。彼は当時、南京政府(日本の傀儡政権)直轄の阿片総元売捌(あへんそうもとうりべつ)を遣って居たので、手持ちの阿片を彼の元に送り着け、出来るだけ高価に買い取って貰い為るべく多額の金を得ようとした。(略)里見甫君は非常に無理をして結局二千万円を払って呉れた〉
里見は〔阿片王〕と呼ばれた男である。上海でペルシャ産や蒙古産の阿片を売り捌き、陸軍の戦費を調達して居た。
奪われたアヘン
古海の回想を続け様。戦況が悪化した1944(昭和19)年 彼は満州のアヘンを上海に運び、満州で不足する生産機器や消費物資を調達する計画を立てた。その為、先ず飛行機で金とアヘン1トンずつを運んで南京政府の中央銀行の金庫に納め、副総理の周仏海に物資買い付けの援助を依頼した。
周は「日本は何も持って来無いで物を取って行くだけなのに、満州国は貴重なものを現送して来て物資が欲しいと云われる。誠に有難い」と言って全面協力を約束したと云う。
上海でのアヘンと物資の物々交換は里見の協力も在って順調だった。満州への大量の物資輸送も、アヘン3トンを出すなら艦隊司令部が責任を持って送り届けると約束した。古海は〈昭和二十年当初からコノ計画を実施し相当の成果を上げたのであるが、八月、大東亜戦争の終結を迎え、時既に遅かったのは致し方無かった〉と振り返る。
敗戦直前の7月、古海は関東軍から新京(現・長春)周辺に在るアヘンを全部引き渡す様要請された。ソ連侵攻に備えて拡充中の通化(朝鮮との国境に近い)の基地に備蓄する為だ。
〈こうして関東軍に引き渡した阿片は莫大なもので在った。関東軍はこの阿片を広く大きい正面玄関に積み上げた。正に異観で在った〉と古海は語る。処が関東軍がこのアヘンをナカナカ通化に運べ無いで居る内に8月9日、ソ連軍の侵攻が始まった。
驚いた司令部はアヘンをトラックに積んで通化に向かわせたが、途中で暴徒の襲撃を受けアヘンを奪い去られた。司令部に残ったアヘンは古海等が無人家屋の床下等に穴を掘って埋めたと云う。
古海の回想は、満州国政府・関東軍とアヘンの繋がりの深さを物語る。岸信介は1939年に東京へ戻る際「満州国の産業開発は私の描いた作品で在る。この作品に対して私は限り無い愛着を覚える」と言い残したが、満州経営の重要な財源と為ったのはアヘンだった。
敗戦直前の1945年8月11日、古海は南新京駅に居た。何時ソ連軍が来るかと云う不安と、敗戦の悲色に覆われた駅で過ごす一刻一刻は心細かった。ヤット出発準備が整った。
その頃、俄かに夕立が在って雷鳴が轟いた。満州国皇帝・溥儀が列車に向かって歩を進めた。続いて、阿片中毒で立て無く為った皇后・婉容が看護人に背負われて行く哀れな姿が、稲妻が走ると一瞬パッと光の中に浮かび上がった。
それを見ながら、満州国最後の総務長官・武部六蔵が「蒙塵(天子の都落ち)と云うのはコレだな」と呟くのを古海は聞いた。 満州国はアヘンと共に栄えアヘンと共に滅びたのである。
最大のタブー
東条英機(前段中央)と岸信介(最後列左)〔PHOTO〕gettyimages 9-22-2
前回(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/87506)の最後にホンの少しだけご披露した文書に付いてもう少し詳しくお話ししたい。 この文書は、終戦翌年の1946年5月、中国の南京高等法院からGHQ(連合国軍総司令部)に送られ、東京裁判の検察側証拠の一つに為ったものだ。
日中戦争の開始以来、日本が中国を占領支配するのにアヘンを如何利用したか。その実態を南京政府(汪兆銘政権・日本の傀儡だった)の元幹部で在る梅思平(同年9月死刑)等の供述等に基づいて告発して居る。その核心部をコレから五紹介しよう。尚、原文の片仮名表記は、読み易くする為に平仮名に変えて在る事を予めお断りして置く。
〈中国に於ける阿片取引は、二つの理由に依って日本政府の系統的政策で在った。第一に、内蒙古占領に続いて日本人により建てられたる傀儡組織で在った処の蒙疆自治政府(もうきょうじちせいふ)は、罌粟の栽培を習慣としてゐる内蒙古で阿片を購ふ事に依つて財政的不足を解決せんと努力した〉
要するに、満州に続いて日本軍が占領支配した蒙疆(もうきょう・現在の内モンゴル自治区)政府の財政は、アヘンの売り上げで賄われて居たと云う事だ。 コレは1980年代、江口圭一・愛知大名誉教授(故人)が発見した日本側資料に依って裏付けられた客観的な事実で在る。
文書は、第二に日本政府自身も〈戦争に依る経済的困難〉を切り抜ける道としてアヘンに頼ったと指摘して居る。 その上で〈阿片購入用として指定せられたる蒙疆傀儡政府の貸附金〉は先ず東京の大蔵省に送られねば為らず〈ソコで全額の幾分かは保留された〉と記して居る。
正直言って、私にはこの〔貸附金〕が具体的に何を指すのか判ら無い。可能性として
(1)蒙疆政府⇒農民がケシから採取したアヘンを集める業者団体への貸付
(2)蒙疆政府⇒南京政府への貸付
(3)南京政府⇒蒙疆政府への貸付
等が考えられるが、何れとも判断が着か無い。しかし〈全額の幾分かは保留された〉と云う件は、アヘン購入資金が融資される段階で東京の大蔵省に利益をピンハネされたと云う意味で在る事は想像出来る。文書は続く。
〈他方では上海並びに中国の都市に於て売られた阿片の売上金の大部分は東条内閣の補助資金、及議員への補助金に割当てられる為東京に送られた。それは公然の秘密で在り、そして幾らかの本国内の日本人も又この東条内閣の名うての政策に反対して居た事は周知の事で在った〉
問題はこの〈東条内閣の補助資金〉や〈議員への補助金〉が何を指すかだが、簿外の内閣機密費や国会議員に配る裏金の類と考えるのが普通だろう。
只、梅思平等〔傀儡南京政府〕旧幹部も金の行く先を特定する資料は持って居無いらしく〈宏済善堂(こうさいぜんどう)の会計簿を捜索すれば、略々其の痕跡を発見し得可し〉と付け加えて居る。
日本と中国との「密約」
宏済善堂(こうさいぜんどう)とは、上海の〔阿片王〕里見甫(さとみはじめ)が運営して居たアヘン取引の為の会社で在る。次に登場する盛文頤は、その里見のアヘン取引の中国側パートナーだ。文書は更に興味深い事実を明らかにして行く。
〈盛文頤の言に依れば、利益支配の状況は極秘にして、東京と直接の来往に依ったので在ると。即ち在華日本側機関も又、其の詳細を知る由が無かった。維新政府(汪兆銘政権が出来る前の日本の傀儡政権)は税款(税金)の極少を得るのみ〉
詰まり文書が言わんとするのは、金の行く先は全て東京で決められ、旧南京政府がアヘンで受けた利益は〈極少〉に過ぎ無かったと云う事だ。
こうして中国のアヘン問題は1943年冬に至る迄全く改善され無かった。が、同年12月、南京・上海・杭州その他の都市で学生達がアヘンを売る店やアヘン窟を打ち壊す示威運動を起こした。それを契機に中国国民の日本のアヘン政策に対する反発も強まった。文書は、この時の日本軍の対応をこう述べて居る。
〈しかし日本の軍隊は敢(あ)へて之に干渉し無かった。結果として、日本政府は、南京政府が、〔阿片の利益は蒙疆自治政府の主なる財源で在る〕と畏怖事実を考慮する条件の下に於ては、もし中国が戦前の阿片禁止法案を回復する事を望む為らば、中国を助けるといふ意思を表示して経済顧問を南京政府へ派した〉
要約すると、アヘンの利益で蒙疆政府の財源分だけ確保出来るなら、中国側がアヘンの取り締まりを厳しくするのをサポートする・・・と云う風に日本側の態度が変わったと云う事だ。 文書はこの〈急変〉に付いて〈三つの事実らしき理由が発見された〉としてこう述べる。
〈第一に、東条内閣は秘密の目的又は政治的目的に阿片の利益を使用した事に付いて、日本国内外の国民に依って攻撃された。第二に、日本政府は中国国民の嫌悪を減少せんとした。第三の最も重要なる事実は当時の日本は中国の物資統制に依って阿片取引の十倍の収入を得てゐた〉
その為政治的・軍事的支出の支払いの為の基金に困る事は無かったと云うのである。以上の様な経過を辿って上海や南京のアヘン禍は次第に収まって行くのだが、此処で留意して置かねば為ら無いのは、主な陳述者で在る梅思平が置かれた立場だ。
彼は当時、日本に中国を売り渡した漢奸として責任を追及されて居た。アヘン問題で東条内閣が行った悪事を強調すればする程彼の責任は軽く為る。そう云う事情が在るから、彼の陳述を何の裏づけも無く全て信用する訳にはいか無い。
細川護貞 9-23-9
そこで東条政権とアヘンの関係に付いて日本側で言及した文献は無いかと探してみたら、在った。近衛文麿元首相の女婿で、秘書官でも在った細川護貞(細川護煕元首相の父)の『細川日記』(中公文庫)で在る。 細川は戦時中、陸海軍や政界の要人らから集めた情報をこの日記に綴って居た。
その記述を追って行くと、東条は無論の事、彼の内閣の一員だった岸信介の金脈に関する極秘情報に遭遇する事に為る。
軍の病理を突いた「日本のユダ」
お浚(さら)いをさせて貰いたい。前回、細川護貞(もりさだ)の『細川日記』(中公文庫)を取り上げたのを覚えておいでだろうか。戦時中、高松宮の情報収集係を務めた細川は、この日記に東条英機のアヘン資金疑惑を書き留めて居る。それを細川に伝えたのは、帝国火災保険の支配人・川崎豊である。
川崎曰く・・・中華航空で〈現金を輸送せるを憲兵隊に挙げられたるも、直に重役以下釈放〉された。これはその金が〈東条のもの〉だったからで〈以前より里見某なるアヘン密売者が、東条に屡々(しばしば)金品を送りたるを知り居るも、恐らく是ならんと〉
この情報はホントだろうか。信憑性を判断する材料を探す内に田中隆吉に突き当たった。田中は日米開戦翌年迄陸軍省の兵務局長、詰まり憲兵隊の総元締めだった男である。
田中隆吉 元陸軍省の兵務局長 9-23-11
陸軍の謀略活動にも深く関わり〔東洋のマタ・ハリ〕と云われた川島芳子の情夫だった事も在るらしい。敗戦後は一転して陸軍の悪行を告発し、旧軍関係者らから〔裏切り者〕〔日本のユダ〕と罵られた。
満洲事変の勃発と共に
が、軍の病理に関する彼の指摘は鋭い。例えば、こんな件(くだり)が彼の著作『日本軍閥暗闘史』(長崎出版刊)に在る。
〈満洲事変の勃発と共に、それ迄僅かに200余万円に過ぎ無かった陸軍の機密費は一躍1千万円に増加した。支那事変の勃発は更にコレを数倍にした。
太平洋戦争への突入の前後に(略)正確な金額は全く表へ現れぬ様に為った。しかし当時の陸軍の機密費が年額2億を超えて居た事は確実で在った〉
2億円は今の1,000億〜2,000億円に相当する。田中は更に〈政治家・思想団体等にバラ撒かれた〉機密費は、彼の知る範囲だけでも相当額に上り、近衛文麿や平沼騏一郎等歴代内閣の機密費の相当額を陸軍が負担して居たとしてこう綴って居る。
〈これ等の、内閣が陸軍の横車に対し敢然と戦い得無かったのは、私は全くこの機密費に原因して居ると信じて居る。それ等の内閣は陸軍の支持を失えば直ちに倒壊した。(略)軍閥政治が実現した素因の一として、私はこの機密費の撒布が極めて大なる効果を挙げた事を否み得無い。東条内閣に到っては半ば公然とこの機密費をバラ撒いた〉
田中は敗戦翌年から30余回に渉ってGHQ国際検察局の尋問を受けて居る。その時、作られた膨大な調書を日本文に訳したのが『東京裁判資料 田中隆吉尋問調書』(粟屋憲太郎ほか編・大月書店刊)で在る。それに依ると、宮中で天皇を補佐する内大臣の木戸幸一は政治活動に多額の金を使った。
金の出所は日産コンツェルンの総帥・鮎川義介(木戸や岸と同じ長州出身)だった。そして鮎川の〈事業提携者〉の岸は東条内閣の商工大臣〈大臣在任中に財閥との有効な取り決めに依って可成りの額の金を儲けた〉
田中に依れば、木戸は内大臣の地位に在った為、1941〜'45年の間日本の政治を支配した。木戸は東条内閣の成立に直接に力を貸したが、'44年4月 木戸と東条の関係は悪化した。木戸が、東条首相では戦争に勝て無いと思い倒閣を策謀し始めたからである。
東条はそれを知ると、元首相等有力者を入れて内閣を改造しようとしたが〈岸は、それ等の何れが彼の後任者と為る事も頑として承知し無かった〉ので、これが東条内閣倒壊の直接的原因に為ったと云う。
沈黙する「阿片王」
田中の見解は、木戸・岸・鮎川の長州連合の寝返りが東条内閣の致命傷に為った事を示唆して居てとても興味深い。田中の第3回尋問のメインテーマはアヘンで在る。
彼は華北のアヘン売買を統括して居た北京の興亜院華北連絡部(占領地の行政機関)の長官心得・塩沢清宣中将に付いてこう語る。
塩沢清宣中将 9-23-12
〈彼は、東条大将の一番のお気に入りの子分でした。彼は、里見の大の親友でも在りました。塩沢は北京から東条へ屡々資金を送って居ました。戦争中で在った為、上海地域で使用された阿片はその量の全てが北支から供給され、その様にして当然多額の金が塩沢の手元に蓄えられました〉
田中の言う北支に、アヘンの主産地で在る蒙疆地区(今の内モンゴル自治区)綏遠省(すいえんしょう)が含まれると解すれば、彼の言に概ね間違いは無い。興亜院華北連絡部がアヘンで巨利を得た事も事実と考えて好いだろう。田中が続ける。
専田盛寿少将 9-23-13
〈塩沢の元で、専田盛寿少将と云う私の友人が働いて居ました。彼は私に、塩沢は屡々飛行機を使って東条の元に金を送ったと語り、その事で酷く腹を立てて居ました。それが原因で専田は、興亜院の職を辞する事を余儀無くされました。昨年九月に大阪で私が専田に会った時、彼は私に再び同じ話をして不満を表明しました〉
GHQ国際検察局は東条のアヘン資金疑惑に強い関心を持ったらしい。それから約1年後の'47年3月21日、里見を召喚して1時間余に渉って事実関係を問い質して居る。取調官は事前に里見が中華航空の顧問だった事や、東条の私設秘書と親密な関係に在った事を確認し、云わば外堀を埋めた上でこう切り出した。
「さて、ズバッと行こう。私は何等かの情報を貴方が呉れるものと期待して居るのだが、上海発東京行きの中華航空機で多額の金が東条に送られた事を知って居るだろう?」
里見の答えは素っ気無かった。「知りません」 「ジャ、中華航空による現金輸送が憲兵に摘発された件は?」 「全く何も知りません」
国際検察局に依る東条のアヘン資金疑惑の捜査は、里見の沈黙の壁に突き当たり思う様に捗(はかど)ら無かった。私も此処等で方向転換して岸と東条の不可解な関係を探る事にした。
満州国首脳だった岸を日本に呼び戻して商工次官にし、その後、商工相に据えたのは東条だった。東条人脈の中心に居た筈の岸が、敗戦約1年前、突如東条に反旗を翻した真の理由は何だったのだろうか。
つづく
ノンフィクションライター 魚住 昭
※参考 『資料 日中戦争期阿片政策』(江口圭一編著・岩波書店刊)
※参考 『新版 昭和の妖怪 岸信介』(岩見隆夫著・朝日ソノラマ刊)
〜管理人のひとこと〜
ノンフィクションライター魚住 昭氏の次のレポートを早く読みたいものだ。氏の綿密で詳細な指摘の疑問に対し、次々と過去の文章が明らかにされ次第に鮮明に為って来る。これコソ、ノンフィクションの醍醐味である。国家・世界的規模の出来事に対し、その全ては個々人の精神的行動(人間性)が如何に関わりを持つかが顕著に為って居る事が我々にも理解出来る。
東条派と観られた岸伸介が、最後には彼を裏切り入閣を拒否した事で東条内閣は倒壊した・・・と魚住 昭氏は指摘する。今で云う処の新自由主義的・・・当時の革新的官僚の代表格で在った岸は、その優れた悪魔的頭脳を駆使しアラユル機会を利用し〔人脈と金脈〕を構築して行った。戦後は、それを巧みに利用し公職追放を逃れ、豊富な人脈と金脈を駆使し政界へと進出、そして首相の座を射止める。
彼の人脈は、アラユル階層・多くの民族・・・全てを飲み込む〔悪の結晶〕と為って戦後の日本を築いて行った・・・安倍晋三が師として仰ぐ天才的国際的犯罪者の〔おじいちゃん〕なのだ。彼は、祖父程の悪人には為れ無かったが、小さな悪事を重ねて批判され〔小悪人〕と国民から冷笑され姿を消す事に為った。
お気楽過ぎる自民党総裁選
お気楽過ぎる自民党総裁選
「シュリンコノミクス」の危機を何故争点にしないのか
9/23(木) 6:01配信 9-23-5
写真はイメージです Photo PIXTA 9-23-6
● もし社員が辞めて行くブラック企業で権力闘争が始まったら・・・
突然だが、ブラック企業のヒラ社員に為ったと想像して頂きたい。競合他社と比べて常軌を逸した低賃金・重労働なので社員が次々と去って行く。そこで定期的に「アットホームな会社です」何てデタラメ求人広告を出して、何も知ら無い若者を補充して居るが焼け石に水。辞めて行く者の数の方が上回り、年を追う毎に社員数は減少して居る。
しかし、業務は年々増えて居る。現場の窮状を知らぬ経営層が、DXだのテレワークだのと次々と新しい取り組みを遣れと号令を掛ける性で、現場の負担は雪だるま式に増えて居るのだ。
そんな絵に描いた様なブラック企業で、副社長・専務・現社長のジュニア等幹部達間で、新社長の座を巡る権力闘争が始まった。彼等は自分の派閥の勢力を増す為、現場の社員達へ猛烈な自己アピールをした。
或る者は、会社の若返りを訴えて高齢役員を一掃すると主張した。又、或る者は自分が社長に為ったらwithコロナ時代の働き方を推進・福利厚生を向上させると宣言した。そして又或る者は、ライバル会社の脅威を強く訴えて「会社を守り抜く」と叫んで、新規事業をグイグイ進めて行くと鼻息が荒い。
サテ、そんな次期社長候補達を見て、ヒラ社員の貴方は如何思うだろうか。キット心の中でコンナ風に叫ぶ方も多いのではないか。 「嫌々、そんなピントのズレた議論をして居無いで、先ずは社員がドンドン減って居るこの危機的状況を如何にかしろよ!」
・・・何故コンナお話をさせて頂いたかと云うと、実質的な〔日本のリーダー〕を選ぶ自民党総裁選でコレと同じ現象が起きて居るからだ。コロナ対策だ・党改革だ・原発だ・敵基地攻撃能力だと多種多様な論戦が行われて居るのは結構な事だが、日本衰退の根本的な原因で在る〔人口減少〕がチットモ争点と為って居ない。世界から見ても可成りお気楽過ぎるのだ。
● 急速に縮む日本コソ、世界中に注目される「モデル」
ご存じの様に今、日本の人口が凄まじい勢いで減って居る。人口のピークは2008年の約1億2,808万人で、2020年は1億2,622万人なので、13年間で約186万人減って居る。この勢いは更に増して居て、毎年、鳥取県の人口と同じ位の人口が減って行く。
と云う事は、消費者・労働者も急減するので、日本のGDPの多くを占める内需も急激に弱って行く。会社を存続させる為低賃金が定着し、更に消費が冷え込むと云う悪循環に陥って、財政もボロボロに為って行く。国家衰退の典型的な道を歩んで居るのだ。
チョット前迄、SF映画等では世界の人口が増え過ぎて人類が宇宙を目指す何てストーリーが定番だったが、実は最新の研究では〔逆〕の現象が起きると言われて居る。世界の人口は2064年にピーク(約97億人)を迎えた後、減少に転じて2100年迄に日本やイタリア等先進国を中心に23カ国では人口が半減する・・・と米ワシントン大学保健指標・保健評価研究所などが予測して居るのだ。
何故こう為るのかと云うと、社会が少しずつ豊かに為って居るからだ。女性が教育を受ける機会が増えて社会進出が進むと、支援や法整備等が行き届か無い限り如何しても少子化が進行する。避妊等の医療も普及する。
その証(あかし)に、人口が増えて居るアフリカでも、都市部では少子化が進行して、アフリカ日本協議会の〔高齢化に向かい始めたアフリカ社会〕に依れば、ナイロビの出生率は2.7と先進国とそれほど変わら無い。
エチオピアの首都アディスアベバの出生率は日本に匹敵する程低下して居ると云う。
詰まり〔人口減少〕はこれから全世界が直面する非常に大きな問題なのだ。だから〔来るべき危機〕に一早く突入して居る日本に世界が熱い視線を送って居る。
● シュリンコノミクス」を重視する総理候補は居るのか
国際通貨基金(IMF)が2020年3月に公表したレポートが、日本への注目度の高さを物語っている。
「Shrinkonomics Lessons from Japan」(シュリンコノミクス 日本からの教訓)
聞き覚えの無い言葉だろうが〔シュリンク・縮小〕と〔エコノミクス〕を合わせた造語で、人口減少や高齢化と云う国家の危機を如何乗り越えて行くのかをテーマにした〔縮小の経済学〕の事だ。もしシュリンコノミクスに依って、日本が低成長から脱して、更に人口減少にブレーキを掛ける事が出来れば、国際社会に於ける存在感は一気に高まるだろう。
日本の遣り方を学べ・日本人のこう云う処を真似しろ・・・と世界中から人々が集い、日本の社会モデル自体が同じ問題に直面した国に「輸出」される。
では、それ程大きなポテンシャルを秘めて居るシュリンコノミクスを、次の日本のリーダー達はどう考えて居るのか。
「読売新聞オンライン」(9月17日)が4人の候補者の所見発表演説を「AIテキストマイニング」で使用頻度の高い単語や特徴的なワードを抽出して可視化した。それに依れば、河野太郎氏は「コロナ禍」「霞が関」「テレワーク」 岸田文雄氏は「守り抜く」「引き上げる」 高市早苗氏も「守り抜く」「量子コンピューター」「財政出動」で、野田聖子氏は「人口減少」「早期発見」だった。
4人居る候補者の中で〔人口減少〕に危機意識を持って居るのは1人だけ。しかし、マスコミ各社の自民党員調査等でも野田氏は本命視されて居ない。世界では〔人口減少〕に如何臨むのかと云うのは非常に高い関心事で在り、日本から学びたいと云う意欲さえ在る。なのに、当の日本のリーダー達の口からは、自分の名を冠した経済政策は出るが「シュリンコノミクス」と云う単語すら出無い。
と云う話を聞くと「人口減少も問題だが、それよりも今起きて居る中国の脅威と如何向き合うかだ!」みたいな事を叫ぶ愛国心溢れる方達もいらっしゃるが、もし日本の安全保障と云うものを本当に真剣に考えて居るのなら、敵基地攻撃能力云々(うんぬん)の前に〔人口減少〕を論じ無くては行け無い。
● 国防も危うい!将来はシニア部隊だらけ?
「自衛官候補生の採用者数は14年度以降、6年連続で計画を達成して居ない。19年度の採用数は海自と空自の計画が1割程下回った。18年度には陸海空全体の採用達成率が7割に留まった」(日本経済新聞2020年11月20日)
実は我々の生命・財産を守って呉れる自衛隊は人口減少でズッと定員割れが続いて居るのだ。それを補う為「女性自衛官登用の推進」や「採用年齢の引き上げ」更には民間企業同様に「定年退職者の再任用」を進めて居るが焼け石に水だ。日本の人口減少のペースは年を追う事にキツク為って行くからだ。
「多少の人員不足も、世界一優秀な自衛隊ならば対応出来る!」と云う戦時中の大本営みたいな事を仰る方も居るだろうが、現実問題としてこの人員不足が国防の〔穴〕を作って居る。
昨年10月、自民党の国防議員連盟が、中国や北朝鮮の脅威に備える為、新型イージス艦2隻を増備する様に岸信夫防衛相に求めたが「海自は人員不足を理由に増備に後ろ向き」(日経新聞・同上)だった。
イージス艦はハイテク機器の集合だが、運用には1隻300人の人員が必要と為る。定員割れが続く海自で600人を行き成りイージスに充てろと云うのは現場に取って可成りご無体な要求なのだ。
勿論、国家と国民を守る強い使命を抱く自衛隊の皆さんはソンな弱音は絶対に吐か無い。しかし、言葉にし無くとも彼等が苦しい立場に追い込まれて居るのは「再任用された定年退職者」の扱いを見れば明らかだ。
日本経済新聞(19年5月20日)に依れば、17年度末で951人居た再任用自衛官の多くは、体力を考慮して総務や会計等デスクワークに就いて居た。しかし、19年からは艦船の乗務員として「復帰」させる検討がスタートして居る。言わずもがな、中国や北朝鮮の脅威が高まって居るにも関わらず、何時迄経っても定員割れして居るからだ。
詰まり、今のママ〔人口減少〕と云う問題をスルーしたママ行けば、そう遠く無い未来、人員不足をカバーする為「定年退職した自衛官」が中心と為った〔シニア部隊〕が国防の最前線へ送り込まれる事も十分在り得るのだ。
政治家は「この美しい国を守れ!」「中国や北朝鮮に対して毅然に立ち向かう!」と格好好い事は幾らでも言えるが、慢性的な人手不足に苦しむ現場からすれば溜ったものでは無い。
これはブラック企業の経営者が、現場で不眠不休で働く現場の疲弊を無視して「好し!これからはDXだ!推進する新規プロジェクトを立ち上げるぞ!」何て言い出して、社員達の心をポキンと折る構図に好く似て居る。
● お隣・中国に取っても自国の〔人口減少〕は他人事では無い
更に〔人口減少〕コソが安全保障上の最大の問題だと主張する理由はもうひとつ在る。愛国心溢れる方達が〔脅威〕として捉えて居る中国が、実は喉から手が出る程欲しいのが「シュリンコノミクスの成功」だからだ。
今、中国共産党が最も恐れて居るのは、アメリカでも無ければ増してや日本等でも無い。少子高齢化に伴う急速な人口減少だ。
中国政府が21年5月に発表した第7回国勢調査結果に依ると、20年11月1日の人口は約14億1000万人。10年からの10年間の年平均増加率は0.53%だと云うが、これは〔粉飾〕だと云う指摘が多い。
2007年に一人っ子政策を取り上げた〔大国空巣〕を出版し、禁書扱いにされた米ウィスコンシン大学研究員の易富賢(えきとみけん)氏は・・・中国は18年から人口減少が始まって居て、実際の人口は12億8,000万人程度だと観て居る。何故1億3000万人もの〔水増し〕をしたのかと云うと〔前代未聞の政治的な激震に直面すると判断した〕(日本経済新聞21年8月26日)と分析する。
と云うのも、中国に於ける急速な人口減少と高齢化は「習近平体制の崩壊」を招くと言われて居るからだ。例えば、米共和党のシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所は「China's Demographic Outlook to 2040 and Its Implications」(中国の2040年迄の人口構成の見通しとその含蓄)と云う報告書の中でこの様な厳しい未来を予測して居る。
「今後65歳以上の爆発的な人口増加を伴う高齢化を経験する。それは深刻な経済的逆風を齎(もたら)し『英雄的な経済成長』の時代の終わりを予感させる」(日本経済新聞21年8月8日) その為中国は慌てて〔一人っ子政策〕を辞めて、今は夫婦1組に子供3人迄を認める方針と為った。
しかし時既に遅しで、教育費の異常な高騰、更に女性の社会進出が進んで居る事等で、出生率はナカナカ上がら無いのが現実で、少子高齢化が急速に進んで居る。特に深刻なのが、農村部だ。事在る毎に中国共産党への不満が爆発するこのエリアは、日本の限界集落の様な閉塞感に包まれて居るのだ。
● 中国が欲しいのは人口減少社会を打破する為のノウハウ
サテ、この様に〔人口減少の脅威〕に怯(おび)えて居る中国に取って、日本と云う国は如何映るだろうか。ミサイルを撃ち込んででも占領したい国に見えるかも知れ無い。台湾有事でアメリカにクッ付いて、シャシャリ出て来る目の上のタンコブの様に思って居るかも知れ無い。
只、それ以上に気に為るのは「人口減少と云う課題を此奴等はどう遣って解決するのだ」と云う事ではないか。実際〔中国経済の司令塔〕で在る国家発展改革委員会傘下のシンクタンク・中国国際経済交流センターの姜春力情報部長もこう言って居る。
「少子高齢化は、21世紀の中国で最大の問題に為ると観て居ます。50年には5億人もの中国人が高齢者に為って居るのです。それなのに、中国には未だ、介護保険すら在りません。そこで世界の先進国を調査したら、我が国が一番学ぶべきは、隣国の日本で在ると云う結論に達しました」(読売新聞19年3月12日)
相手が学ぶべきものを持って居ると云う事が、外交交渉で〔強み〕で在る事は言う迄も無い。中国が喉から手が出る程欲しい、知見・社会モデル構築のノウハウ等は、時にミサイルやイージス艦よりも強力な安全保障に為り得ると云う事だ。
詰まり、これからの日本のリーダーは中国の脅威と立ち向かう為にも、シュリンコノミクスを推進しなくてはいけ無いのだ。
● 今こそ、子供への投資を
では、具体的に如何遣って「日本流シュリンコノミクス」を確立して行くのか。年金等社会保障改革等は勿論、個人的に鍵と為るのは〔子供への投資〕だと思って居る。
OECD Family Databaseに依れば、子供に対して社会がどれだけお金を出して居るのかと云う「家族関係社会支出」の割合が高い国で在れば在る程、子供の貧困率が下がり出生率も上がって行く傾向が在るのだ。
これ迄日本では50年以上「大人」にフォーカスを当てた少子化対策に取り組んで来た。女性を働き易く、男性も子育てや家事に参加しろと口酸っぱく言って来たが、出生率は全く改善して居ない。詰まり、考え方が根本的に間違えて居た可能性が在るのだ。
只、この「子供への投資」に関しては「人口減少」を掲げる野田氏が強く訴え、他候補者も子供への財源を倍増する事を明言する等の動きが出て居る。これは明るい兆しと云える。
勿論、ミサイル防衛やらも重要だが、中国に攻め込まれる前に、国が滅んで居ては本末転倒だ。今の調子では後80年で日本人の数は半分に為ってしまう。次の総理は是非安全保障の観点からも〔子供への投資〕を中心としたシュリンコノミクスで、人口減少と云う「国難」に真正面から挑んで頂きたい。
ノンフィクションライター 窪田順生 くぼた・まさき 9-23-3 テレビ情報番組制作・週刊誌記者・新聞記者・月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら報道対策アドバイザーとしても活動 これ迄200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など 『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞
直近の ロシアの政治と中国の経済に関して
直近の ロシアの政治と中国の経済に関して
その1) ロシアの政治「荒唐無稽な野党よりもプーチンの方がマシ」
不人気なロシア与党が 総選挙で圧勝した根本理由
9/22(水) 12:16配信 9-22-3
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領 2021年9月20日 ロシア・モスクワ郊外ノボオガリョボ 写真EPA時事通信フォト 9-22-4
■結局は過半数を大きく超えた〔与党・統一ロシア〕
ロシアで9月17〜19日に掛けて5年振りと為る総選挙が行われた。定数450議席の内半分を小選挙区制で、残り半分を比例代表制で選出する形式で行われた今回の総選挙では、プーチン大統領が率いる〔与党・統一ロシア〕の劣勢が支持率調査から明らかで在り、前回得た343議席をどれだけ守る事が出来るかが大きな争点と為った。
即日開票の結果〔与党統一ロシア〕は前回から19議席を減らして324議席の獲得に留まったが、過半数で在る226議席を引き続き大幅に上回り第1党を維持した。元々ロシアの現在の選挙制度は〔与党・統一ロシア〕に有利に設計されて居り、同党は指標が多い小選挙区で225議席中198議席を得て圧倒的な強さを見せ着けた。
反体制派は当然、今回の選挙結果に関しても不正を主張し、総選挙の遣り直しを求める等シュプレヒコールを上げるだろう。欧米社会も厳しい態度を堅持する筈だが、一方で混乱を極めるアフガニスタン情勢ではロシアの協力が不可欠な事等から、選挙不正を理由に経済制裁の強化を加える様な事は当面無いと予想される。
今回の総選挙は、2024年に予定されて居る大統領選の事実上の〔試金石〕で在った。2020年の憲法改正に依ってプーチン大統領は次期の大統領選にも出馬出来る様に為ったが、プーチン大統領は後継者にその座を譲り、自らは統一ロシアの党首や下院議長に転じる等して実質的な〔院政〕を敷くと云う見方が有力視されて居る。
■根強い有権者のプーチン大統領に対する支持
プーチン大統領に対する有権者の支持には根強いものが在る。世論調査機関で在るレバダセンターの調査に依ると、プーチン大統領に対する有権者の支持率は2021年8月時点で61%と引き続き過半を維持して居る。大統領の支持者の多くが、旧ソ連末期からのロシアの社会・経済の混乱を経験した中高年齢層とされる。
今年12月で、旧ソ連が崩壊して30年を迎える事に為る。最初の10年間、ロシア経済は極度に混乱し、最悪期には実質GDPがソ連崩壊時の6割程度迄縮小した。自殺率や犯罪率も上昇する等社会も非常に混乱したが、2000年に就任したプーチン大統領が原油高を追い風にロシア経済を急速に立て直し、社会を安定に導いた。過去の経済・社会の混乱を経験して居る世代程、プーチン大統領に対する支持は根強い。
他方で、そうした時代を知ら無い〔改革派〕の世代も着実に増えて居る。彼等に取って安定は停滞で在り閉塞(へいそく)でも在る。2021年2月に収監された反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は、そうした改革派に取ってシンボル的な存在だ。
今年に入ってからも、ロシアでは首都モスクワ等で改革派を中心とする反政府デモが散発的に行われて居る。そうした改革派の声も反映されて居るのだろう、8月時点のプーチン大統領への不支持率は37%と近年で最も高い水準と為った。この様に反体制派が勢いを強めて居る事を、プーチン政権も実際の処警戒して居る。
■一筋縄では行か無いロシアの国民感情
近年、欧米からの経済制裁や原油安を受けてロシア景気は停滞が顕著で在った。それに追い打ちを掛けたのが、2020年春に生じたコロナショックだった。その後も、感染に歯止めが掛から無い事や行動制限を課される事等に依って有権者の不満が増幅されて居た。そうした中で、プーチン政権は今回の総選挙を迎えた事に為る。
しかしながら、総選挙で〔与党・統一ロシア〕が失った議席は限定的で在った。選挙不正の可能性も取り沙汰されて居るが、ソモソモ選挙制度が〔与党・統一ロシア〕に有利で在る事、統一ロシア以外の政党が成熟して居ない事、結局の処プーチン政権に信頼を寄せる有権者が多い事が、今回の総選挙の結果に繋がったと整理出来るだろう。
勿論、統一ロシアに票を入れ無かったプーチン大統領の支持者も少なからず存在した筈だ。近年、ロシアの社会は確かに安定して居るが、一方で景気の低迷で所得が増え無いばかりか、日々の消費の為に借り入れを増やした家計も少なく無い。それに、コロナ禍で生活は苦しく為った。大統領の支持者でも不満は募っただろう。
それに旧ソ連崩壊に伴う混乱を経験して居ない若い世代程、プーチン体制に対して強い不満を抱えて居る事も又確かで在る。とは云え〔統一ロシア〕はそれ程議席を減らさ無かった。この結果は一筋縄ではいか無いロシア国民の複雑な有権者の思いを反映して居るが、これでプーチン体制が盤石かと言われるとそうは問屋が卸さ無い。
歴史を振り返ると、人々の不満が臨界点を超えた時に、ロシアでは大きな政治変動が起きて来た。帝政ロシアも旧ソ連も、革命と云う形で自壊して来た訳だ。自らの体制が同じ轍(てつ)を踏ま無い為には如何したら好いか。旧ソ連の秘密警察KGBの職員としてソ連崩壊を目の当たりにしたプーチン大統領が考えて居ない筈は無い。
■改めて明らかと為った長期政権の引き際の困難さ
プーチン大統領は今年10月で69歳。未だ若いとも言えるが、相応(そうおう)に高齢でも在る。一方で、プーチン大統領は後継の指導者候補を育成する事には成功して居ない。それに、旧ソ連崩壊の混乱を知ら無い若い世代は着実に増えて居る。今回の総選挙を無事に乗り越えても、権力を禅譲する迄のハードルは依然として高いと言えそうだ。
こうした問題は、権威主義体制に特有では無いのかも知れ無い。民主主義体制でも、長期安定政権の後には権力のバトンタッチが上手く行か無いものだ。月末に控えたドイツ総選挙では、4期16年の長期政権を率いたメルケル首相が引退する予定で在るものの、与党・キリスト教民主同盟(CDU)は大敗を余儀無くされる見通しで在る。
とは云え有権者の多くは、ドラスティックな変化を望んで居る訳では無い。寧ろCDUを大連立のパートナーとして支えた社会民主党(SPD)に、メルケル首相と同じ路線の継続を望んで居る。一見するとアンビバレントな現象だが、これもメルケル首相が後継のリーダーの育成に失敗した結果で在り、ドイツ政治の混迷を好く示して居る。
日本でも又、長期安定政権を率いた安倍前首相が退いた後、菅首相が1年で退任を余儀無くされる等、政治は揺れて居る。任期満了に伴う総選挙が11月にも予定されて居るが、日本にも変化を望む革新的な民意が在る一方で、安定を望む保守的な民意も存在する。両者の相克の末に、総選挙はどの様な結果に落ち着くのだろうか。
有権者の多くが消去法的な理由から現状維持を望んで居ると云う点では、ロシアもドイツも、そして日本も共通して居るのではないだろうか。
それは有権者が保守化して居ると云うよりも、有権者の関心を引こうとするが余りに野党勢力の主張が荒唐無稽なものに為って居る事が生み出した現象で在ると言えるのかも知れ無い。
土田 陽介(つちだ・ようすけ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 1981年生まれ 2005年一橋大学経済学部 06年同大学院経済学研究科修了 浜銀総合研究所を経て 12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社 現在調査部にて欧州経済の分析を担当
文章 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介
その2) 中国経済 恒大集団が破綻寸前・・・
最悪の場合「中国の不動産バブル崩壊」に繋がるワケ
9/22(水) 13:00配信 9-22-7
中国恒大集団が破綻した場合、市場にはどの程度の影響が及ぶだろうか?(写真アフロ)9-22-8
中国の不動産大手、中国恒大集団が破綻の危機に瀕して居る。一部からは中国発のリーマンショックを危惧する声も聞かれるが、仮に同社が破綻した場合、市場にはどの程度の影響が及ぶだろうか。
●日本企業とは規模がまるで異なる
恒大は中国の不動産最大手の1社で、住宅やマンションの開発を手がける典型的なデベロッパーである。積極経営で知られて居り、近年はサッカークラブ経営等不動産開発以外のビジネスも手掛けて居る。恒大は1996年創業の比較的新しい企業では在るが、日本で言えば三菱地所・三井不動産・住友不動産の様な位置付けと考えて良い。
只中国の場合、日本と比較するとGDP(国内総生産)の規模が大きい為、同じ大手と言っても企業規模は日本よりも遥かに大きい。同社の2020年12月時点に於ける総資産額は約39兆円・売上高は8.6兆円と為って居る。
日本に於ける売上高トップの三井不動産は総資産が7兆円・売上高は約2兆円なので、4〜5倍の規模が在る。
同社に限らず、中国の不動産会社は近年の高成長に歩調を合わせて急成長して居る事から借入れへ依存度が高い。恒大の総負債額は33兆円を超えて居り自己資本比率は15%で在る。三井不動産の自己資本比率は33%なので、両社を比較すれば恒大のリスクが大きい事は明らかである。他の大手不動産企業も日本や欧米と比較すると自己資本が薄く、全般として脆弱な体質で在る事は間違い無い。
最も三井不動産も、経済成長率が高かった1960年代は借入れ依存度が高く、自己資本比率は20%を切って居たので、中国企業の現状がそのママ危険と云う事には為ら無い。只恒大の場合、各社の中でも財務体質が特に弱いと指摘されて居り、中国政府が昨年示した財務改善の指標(資産に対する負債の比率、資本と負債の比率、有利子負債と現預金の比率など)を満たす事が出来無かった。
加えて中国政府は不動産バブルを抑制する為、銀行に対して不動産企業への融資上限を設定する様求めて居り、不動産企業の資金調達環境が悪化して居る。この為特に同社に対する破綻懸念が高まって居る状況だ。
不動産に対する融資制限や取引規制の実施は下手をするとバブル崩壊の引き金を引く可能性が在る。
1980年代に発生した日本の不動産バブルでは、政府による土地の総量規制がバブル崩壊の切っ掛けと為った。中国政府は日本のバブル経済を詳しく研究して居り、日本の様な形に為らずにバブルを処理しようと懸命に為って居る。
数年前から当局は有形無形で不動産市場の引き締めを行って居るが、市場の過熱が著しく余り効果を上げる事が出来無かった。今回は強めの引き締め策を実施して居り、これに依って何とかソフトランディングしたいと云うのが中国政府の本音だろう。
●基本的には中国国内の問題だが・・・
今回の経営破綻懸念が中国経済に及ぼす影響に付いては、同社がどの様な形で資金繰りの目処を付けるのか(或いは付けられずに破綻するのか)に依って変わって来る。同社の株価は、1年前には20香港ドル近い水準だったが、今年に入ってから下落が続いて居り、現時点では約2ドルと為って居る。1年で10分の1の水準だが、現時点では100%破綻を織り込んだ金額には為って居ない。
先程も説明した様に負債額は33兆円と極めて大きいが、低金利で資金を調達出来て居るので年間の利払い額は1,000億円以下に留まって居る。今月には相次いで社債の利払い期限を迎えるが、これに付いて同社は、利払いを実施すると表明して居る。
目下最大のリスクは社債の償還で在る。同社が抱える有利子負債は約10兆円(6月時点)だが、この内約40%が1年以内に償還期限を迎えるとされる。社債の償還は金額が大きいので、償還資金の目処が付か無く為ると破綻に向けて一直線と為ってしまう。この場合には不動産市場全般への影響は避けられ無い。
●最悪の事態を回避する方法とは?
同社では、保有する実物不動産を用いて現物償還すると云った方法を提案して居るが、債権者が納得するのかは現時点では不明だ。最も中国市場は意外と柔軟なので、債権者も社債等が紙くずに為る可能性を考えた場合、実物不動産を確保した方が良いと考える事は十分に在るだろう。
仮に実物不動産による償還の目処が立てば最悪の事態は回避出来るかも知れ無い。加えて中国市場はグローバル化が進んで居ない事から、中国企業の多くは国内の銀行や投資家から資金を調達して居る。
債権者の多くは国内なので、仮に恒大が破綻して他の不動産会社に波及する様な事が在っても、グローバル市場が直接、大きな影響を受けるとは考え難い。詰まり、今回の破綻懸念は基本的に中国の国内問題と考えて好く、中国のバブル崩壊に付いて日本側が過度に懸念する必要は無い。
只恒大が現実に破綻し、他の企業にも影響が及ぶ事に為れば、中国の国内消費が一気に冷え込む可能性は高く、中国の消費市場をアテにして居る日本企業に取っては厳しい展開と為るかも知れ無い。
●不動産バブルが崩壊したら・・・中国政府はどう対応するのか?
仮に中国の不動産バブルが崩壊した場合、金融市場にはそれ為りの影響が及ぶと考えられるが、中国はどの様に対応する積りなのだろうか。
現時点に於いて中国政府はハードランディングと云う形で不動産バブルを処理する意向は無いと言われる。元々中国市場は透明性が低く、中国国内から見てもそれは同様で在り、政権幹部ですら中国の不動産市場や金融市場の全貌を把握するのは難しいと言われる。
欧米各国の場合、市場の透明性が確保され無い事は不安心理を増大させる要因と為る為、犠牲を払っても全ての不良債権を顕在化させた方が中長期的にはダメージが少ないと云う考え方が在る。だが、中国の場合、元々投資家や債権者は欧米各国の様な透明性を求めて居らず、不良債権を全て明らかにする事に付いても、それ程大きなメリットは無い。
加えて、中国経済に於ける最大の懸念材料だった銀行以外のルートを経由した資金の貸付け(所謂シャドーバンキング)は規模が大幅に縮小して居る。背景には当局に依る非公式の指導が影響して居ると考えられ、融資の多くは見え無い形では無く、銀行に依る公式な貸付けにシフトして居る状況だ。
仮に融資の多くを銀行にシフト出来れば、当局に依る管理は容易に為るだろう。中国当局としては、破綻させる企業は破綻させるものの、金融システム全体に影響が及ば無い様、金融機関に対する支援を強化すると云うシナリオを想定して居ると考えられる。
最も避けたいのは、あらゆる金融機関が大量の不良債権を抱え、その後の経済再生に大きな支障を来した日本のパターンで在る。その点に於いては、恒大が破綻するのかどうかと云う事よりも、それに伴って中国当局が金融機関に対してどの様なスタンスで望むのかと云う部分がより重要と為る。
現時点では、同社の破綻懸念が最も大きな関心事だが、マクロ的に見た場合、今回の一件は、中国が本格的にバブル処理に乗り出す入り口と考えた方が良いだろう。
経済評論家 加谷珪一 9-23-1
1969年宮城県仙台市生まれ 東北大学工学部原子核工学科卒業後 日経BP社に記者として入社 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ企業評価や投資業務を担当 独立後は中央省庁や政府系金融機関等対するコンサルティング業務に従事 現在は経済・金融・ビジネス・IT等多方面の分野で執筆活動を行って居る
著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書) 『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング) 『感じる経済学』(SBクリエイティブ) 『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス) 『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)等が在る
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〜管理人のひとこと〜
コロナ下の昨今、海外の普通の日常風景の様子が余り届いて居ない感じがする。困難な状況下そんな事に興味が向か無い事もあるが、海外ニュースと云えば全てアフガニスタンの混乱の様子に塗り潰されてしまった様だ。そんな中、ロシアの選挙と中国の経済の問題を取り上げた。
巨大な中国経済の中で一つの陰り・・・として中国・恒大集団の信用不安で我が国の株式も売られ600円の値下がりと為った。中国の経済も刻々と変化し、以前は金融機関以外からの資金が大量に市場に出回って居た〔地下銀行〕が大幅に縮小されて居るとの事で透明性が高く為ってる様だ。コロナ下で世界経済が急激に縮小されて居る中、唯一元気な中国に経済不安が発生すると、この様に世界へと飛び火する。中国の動向がより以上敏感に作用する。
そして、ロシアのプーチン大統領で在る。彼の次の人材が育って居ないとの事だが、それは世界に共通する様で、次の人材が定まって居ない国が多い。しかし、この状況は、既定路線から外れる新たな勢力が生まれる事でも在り変化をもたらす結果とも為る。それにしても何時迄燻って居るのか、私にはロシアの近況が理解出来ない。それはロシアからのニュースが極端に少ない事にも在るのでは無かろうか・・・