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2021年09月02日

大阪IR誘致 政府の「ソロバン勘定」は正しいか?



 大阪IR誘致 政府の「ソロバン勘定」は正しいか?


 9-2-5.png 9/2(木) 7:01配信 9-2-5



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  2018年4月 IR事業者等と話す大阪府の松井一郎知事(当時・右から2人目)等(写真 時事)9-2-6



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 柴田 直治(しばた・なおじ)近畿大学教授 ジャーナリスト・マニラ新聞編集顧問・元朝日新聞記者(論説副主幹・アジア総局長・マニラ支局長・大阪・東京社会部デスク等を歴任) 著書に「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」9-2-7


 横浜市長選で現職が落選した。菅政権のコロナ対応への不満が野党推薦候補を当選に押し上げた面は在るが、最大の争点は現職の進めたIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致の是非で在り、横浜市民が明確にノーを突き付けた形だ。  
 内閣府副大臣(当時)だった秋元司衆院議員が収賄罪に問われたIR汚職事件やインバウンド客の激減等、カジノを取り巻く環境は厳しい。IRを進める菅義偉首相が推した小此木八郎・元国家公安委員長でさえ、誘致撤回を掲げざるを得無かった。

 処が、大阪では逆風も何のその、IR計画は着々と進められて居る。大阪府と大阪市、夫々の議会を牛耳る大阪維新の会が迷い無く推進して居るからだ。業者の公募を早々と実施し、これに唯一応じたアメリカのカジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同チームが7月20日、投資総額1兆円、2028年の開業を目指すと云う提案書を府と市に提出した。

 ■ 根強いIRへの反対論  

 政府は2022年4月迄に全国で整備計画を募り、3カ所を上限に立地を認める方針だ。和歌山、長崎両県が名乗りを上げ、東京都の参入も噂されて居るものの、準備万端の大阪は当選確実と観られて居る。
 IRへの反対論は根強く世論調査でも懸念する声が賛成を上回って居る。朝日新聞社がIR汚職発覚後の2020年1月に実施した全国世論調査では〔政府は整備の手続きを凍結する方が好いが64%〕に上り〔このママ進める方が好いの20%〕を圧倒した。他地域に比べ反対が少無いと観られる大阪でさえ〔推進派は30%〕に過ぎ無かった。  

 汚職は論外として、カジノに付いて世間が抱く最大の懸念は、ギャンブル依存症の拡大で在ろう。新聞各社の社説も先ず依存症を取り上げる。しかし、IR誘致を巡る最大の問題点はソコに在るとは思わ無い。日本では競馬・競輪・競艇と云った公営ギャンブルへのアクセスが極めて容易な上、全国津々浦々に事実上の賭場で在るパチンコ店が存在する。ソコに3か所のカジノが加わった処で依存症が劇的に増えるとは想像し難い。
 確かにカジノならではのカードゲームやルーレットにハマる人は居るだろう。しかしそれとてオンラインゲームが溢れる現状では抜け道は幾らでも在る。日本ではこれ迄公的なギャンブル依存症対策が殆ど無かった。それが必要ならIR設置の是非以前に、先ず公営ギャンブルやパチンコを対象に取り組みを始めるべきだろう。

 ■政府から納得の行く説明は無い  

 私はカジノやギャンブルを毛嫌いして居る訳では無い。ノメリ込む程では無いが、競馬・麻雀・パチンコと一通りは手を付けて来た。アメリカ・ラスベガスやマカオ・シンガポール・フィリピン・タイ・カンボジア国境、ベトナム等でもカジノに足を運び、少額にしろ賭けても来た。  
 そんな私が腑に落ち無いのは、政府や推進派が言う様にIR設置が果たして経済成長や地域の活性化に結び付くのか。ソロバン勘定は本当に合うのかと云う点だ。この点に付いて、政府から納得の行く説明や情報開示はこれ迄為されて居ない。

 カジノそのものはどの施設でも大きな違いは無い。スロットマシーンとルーレット台、バカラ等カードのテーブルが在る。何れも窓の無い広いフロアに台やマシーンが並ぶだけで場内の差別化は難しい。IRが街や地域を活性化させるかどうかは賭場以外の魅力や条件に左右される。
 過つてマフィアの縄張りとして名を馳せて居たラスベガスは、ネバダ州がゲーミング・コミッションやゲーミング・コントロール・ボードと云った公的機関を設立し、時間を掛けて反社会的勢力を排除したとされる。

 シルク・ドゥ・ソレイユを初めとする大規模且つ豪華なショーの数々がホテルで催され、暴力とイカサマが蔓延(はびこ)る賭事の街から総合エンターテインメントの首都へと脱皮した。セリーヌ・ディオンやレディー・ガガ、ブルーノ・マーズ等トップアーティストが連日公演し、ボクシングの世界タイトル戦が繰り広げられる。老若男女誰もがエンタメを楽しめるIR都市は世界でもラスベガスだけだ。
 
 売り上げでラスベガスを大きく上回る世界一の賭博の街、マカオのカジノは〔ジャンケット〕の存在抜きには語れ無い。ジャンケットとは、主に中国人の金持ちを連れて来て特別な待遇で遊ばせる接待役だ。客が賭場で使った金の一部をコミッションとして受け取る。客が負ければ一時貸し付け、資金回収等一筋縄では行か無い裏方業務を担う。  
 上客を呼び込み、資金を移動させる彼等のノウハウと人脈がマカオを支えて居る。マカオのカジノの収入の半分近くはVIPルームで多額の金を賭ける「ハイローラー」に依存し、その多くはジャンケットを介して居るとされる。

 ■日本がモデルにしたシンガポールのIR  

 マカオのカジノ周辺には多くの美女が集まる。国籍や人種も様々。カジノで勝った客を相手に営業を掛けるのだろう。彼女達が客を吸引する力にも為って居る。日本はマリーナベイ・サンズ等シンガポールのIRを事業モデルとし、安倍晋三首相や橋本徹大阪府知事(何れも当時)も視察した。この都市国家にはラスベガスやマカオの様にカジノが集積して居る訳では無い。
 だが、東京23区並みの広さの国土に、観光客向けのアトラクションを含めた都市機能が凝縮されて居る。10年前に開業した2つのIRはランドマークと為り、国家ぐるみで誘致するコンベンション等が集中的に催される利点は他都市に無いものだ。

 そこで私の疑問である・・・ラスベガスもシンガポールも、魅力的な出し物が多数用意され一般客をも引き込む吸引力が街全体に在る。一方、大阪では中心部から離れた埋め立て地にIRがポツンと立つ。開業は2025年の万博が終わった後だ。
 単発のショーは在っても集積の魅力は簡単には高まら無いだろう。更に依存症対策として日本人には数千円のカジノ入場料を課すと云う。何処迄リピーターを獲得出来るのか。それでは大口顧客を呼び込むマカオのジャンケットの様な存在を認めるのか。

 シンガポールは当初、ジャンケットの参入を認め無かったが、客への貸し倒れが半端で無い額に膨らんだ事も在り、貸し付けや回収のノウハウを持つ彼等を受け入れる事にした。カジノの稼ぎの多くは、一晩で最低でも100万円単位で賭けるハイローラーの金遣いに支えられて居る。
 数年前、日本の製紙会社創業家の御曹司社長がシンガポールやマカオのカジノに100億円以上を継ぎ込んで逮捕され有罪と為った。ハイローラーの典型で在る。そうした人々を呼び込むのがジャンケットの役割である。

 ■カジノ抜きにIRは成り立た無い  

 日本政府は誘致の前提として、反社会的勢力の排除とマネーロンダリングの阻止を掲げて居る。処がカジノにはソモソモ、持ち込んだ金をチップに替えれば出所は不明と為るマネロン機能が備わって居る。表に出無い資金の移動にも絡むジャンケットの様な存在を、日本の警察や治安当局が認めるとは思え無い。
 飛田新地の様な例外を大阪府警が認める決断をすれば話は別だが、営業目的の女性等が屯(たむろ)するマカオ的状況を日本の警察が許す事も無いだろう。

 エンタメや都市機能の集積無し、ジャンケット無しでどう遣って継続的に多くの客を呼び、収益を挙げるのか。そこが私には見え無い。 IRはカジノだけでは無い、MICE(大規模国際会議や見本市等を開く施設)で構成されると云う。それでも儲けの大処はカジノの収益で在る。それ無くしては他の施設も成り立た無い。
 それではカジノの客は何処から来るのか。政府は中国を初めとする外国人客に期待して居るのだろう。しかし、コロナ禍はインバウンドビジネスのリスクを浮き彫りにした。  

 世界トップ級のカジノ業者であるMGMが大阪に1兆円規模の投資をしようとして居るのだから目算は在ろうとの推測は成り立つ。それでも大阪では手を挙げた他の業者は全て手を引いた。横浜ではMGMと並ぶアメリカ大手のラスベガス・サンズの他、ウィン・リゾーツ(アメリカ)、ギャラクシー・エンターテインメント(香港)が市長選前に相次いで撤退して居た。儲から無いと思えば当然ながら業者は引く。

 2015年、中国政府が汚職撲滅キャンペーンを始めた途端、マカオやシンガポールのカジノの売り上げは一気に3割も減った。アジアのカジノビジネスの生殺与奪は中国共産党に握られて居る。反日運動が再燃すれば、中国人客は来無く為る。それでも遣って行けるのだろうか。  
 一方でカジノ客の多くは日本人が占めると云う予測が在る。大阪府の試算では7割、立候補を検討して居た北海道の試算は8割を日本人客と見込んで居た。だととすれば、国民がギャンブルに投じた金の上がり、詰まり日本人が博打で負けた金の多くを外国企業が持って行く事に為る。

 業者の利益と地域、延いては国や国民全体の利益は必ずしも一致する訳では無いのだ。 更に国全体の収支で忘れて為ら無いのは、カジノ誘致の為に新たな政府組織を立ち上げた事だ。内閣府の外局として設置した〔カジノ管理委員会〕である。
 免許の審査や付与・依存症対策にも当たるらしい。5人の委員にスタッフは約100人。今後増える事も在ると云う。予想通り、検察・警察・国税等の天下りを抱える組織だ。一度出来た官僚組織が無く為る事は先ず無い。パーキンソンの法則である。

 ■ディーラー3000人をどう集めるか

 カジノに関する知見が必要だとして、IR誘致を支援する監査法人からの出向者も管理委員会の事務局に入った。キチンとした規制が出来るのかも疑問だ。もう1つ気掛かりな点を挙げて置こう。世界的な規模のカジノを設営するなら約3,000人のディーラーが必要に為ると云う。人手不足の日本でどう遣って確保するのか。
 外国人客を相手にするなら中国語や英語の心得も必要と為る。外国人労働者を受け入れる在留資格〔特定技能〕の業種にカジノを新たに加えるのだろうか。

 カジノを設ければ、依存症や風紀の乱れ、反社会的勢力の関与の恐れと云ったリスクを抱える事に為る。それ等を明らかに上回るメリットが在るなら、プロジェクト推進に個人的には異議は無い。  
 しかし今判って居る事と言えば、外国企業が主体と為る連合体が建設・運営し、維持・管理する為に新たな天下り組織を作る事位だ。カジノが一体幾らの税収をもたらし、国として帳尻が合うのか。国民にメリットが在るのか。サッパリ判ら無い。

 大和総研や経団連はIR誘致に依って、兆円単位の経済波及効果を唄う予測を発表して居る。だが政府は経済効果や税収の見込みを示して居ない。様々な条件が決まら無いから予測は出来無いと云う。
為らば誘致は文字通りギャンブルではないか。そんな賭けをする余裕が今の日本に在るとは私にはとても思え無い。



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             柴田 直治 近畿大学教授 9-2-8

 自己紹介 国際学部が開学した2016年4月から大学勤務を始めました。教員経験・留学歴・博士号・TOEIC/TOEFLの受験歴等、無い無い尽くしの新人です。多少トウは経って居ますが。2015末迄の36年余り新聞社に勤めて居まトウは
 記者生活の前半は大阪や神戸で事件取材や調査報道に携わりました。後半はマニラとバンコクで特派員を務めた後、東京を拠点にアジア各地に出没しました。各国の大統領や首相、識者等にインタビューし、官僚・経済人からスポーツ選手、ヤクザ、路上生活者迄様々な人達と会って来ました。暇を持て余した事が1日も無い幸せな会社員人生でした。今もアジアの政治・社会情勢を中心に執筆して居ます。サッカーとポップ・ロックミュージックが好きです。




 〜管理人のひとこと〜

 学び舎に留まり幾多の書籍を読み漁り先人の教えを学ぶ・・・この様な方達の真逆の位置に居るのが〔現場主義〕をモットーとする柴田 直治・近畿大学教授の様な方なのだろう。今後は、実際に社会の中で揉まれ苦労され学んで来られた方々が教鞭に立つ・・・血の通った教育が新たな人種を育てて行くだろう。心強いばかりである。
 無論、政府が民間に金儲けの話を持ち掛けても悪くは無い。大いに民間にその様な旨い話を持ち掛け延いては社会に貢献出来る蓄財をし困った人達に援助する様な仕組みが出来るのも大いに有難い。大阪は、国際万博にIRと次々とテコ入れしないと経済的に立ち行か無い地域的ジレンマに陥って居る。是非、何でも構は無いので起死回生のチャンスを与えて欲しい。早く閉鎖的な〔大阪気質〕を捨て去り経済・文化の再生を願うばかりだ。

















 
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