安全地帯『リメンバー・トゥ・リメンバー』五曲目、「サイレント・シーン」です。
余談から始まって恐縮なのですが、映画『プルシアンブルーの肖像』にはノベライズ本がありまして……。ノベライズと言っても、脚本担当の西岡琢也さんが書いたのですから本家本元でもあります。この本にはですね、撮影中の写真がいくつも載っていまして、それぞれのページになぜか「あなたに」とか「Yのテンション」とかの、安全地帯の曲名が書かれていたのです。今となってはまったく訳がわからない趣向なんですが、当時は「なるほど」と思わせる雰囲気があったのです。何が「なるほど」なのかは、さっぱりわかりません。
それで、「サイレント・シーン」の曲名もそこにはあったのですが、なぜか玉置さんが衣装の用務員服で煙草をふかしている写真でした。撮影の合間に、現場がシーンと静かになって(だからサイレント)、そこで玉置さんが無言でタバコをふかしていた……にしても、曲の中身とまるで合いません。
意味は、おそらくないのでしょう。ここに曲名を載せた担当者が曲の内容を理解していたかどうかもあやしいものです。
……と、ここまで書いておいて、実は玉置さんがこうするようにアイデアを出したというのが真相です、とかだったら、もうわたくし平謝りですね。申し訳ありませんでしたああ!
さて、曲の内容です。
前回「イリュージョン」と同じような話なんですが、この曲をお聴きになるときは、リズムにご注目していただきたいです。起伏に富んだ(富みすぎの?)曲展開がよくわかります。
それなのに玉置さんは、サビ以外はほとんど同じ調子で歌い続けています。サビだけやけに叙情的に昇降激しいメロディーを歌いあげていますが、それ以外の部分では、曲全体の起伏を「意図的に」感じにくくしているように感じられます。玉置さんの歌の威力がよくわかります。これはデビューシングル「萠黄色のスナップ」に通じる手法です。
のちの時代まで比較対象を探すのであれば、「Hen」や「スケジュール」といった、ソロ活動初期によくみられた手法ともいえるかもしれません。わたくしこれらの曲を「もうひとつの玉置節」と呼んでいるのですが、もしかしてこの「サイレント・シーン」は、この路線の、ルーツにごく近いところにある曲なのではないか、と思っています。
さて、(わたくしの仮説がある程度当を得ているものとすれば)この手法の利点は、ずばり聴きやすいことです。稀有なアレンジ力・演奏力を擁する安全地帯の曲は、凝りすぎて時に耳が疲れる楽曲を生み出しがちだったのかもしれません。のちに井上陽水さんや、松井五郎さんが尽力された歌詞の「シンプルさ」こそが安全地帯の売れセン楽曲を支えていたことは疑いありませんが、アレンジの面でも同じことが言えるのかもしれません。安全地帯の曲は、高い音楽センスと演奏能力を有するがゆえに、アレンジが凝りすぎになりがちだった、それを感じさせなかったのは、ひとえに玉置さんのボーカルの威力によるものだ……。ご本人が自覚的にそうなさったかどうかはともかく、シンプルでないものを、シンプルそうに聴かせていたのではないかと思っています。
それが証拠に、カラオケ等で素人が安全地帯の曲を歌うと、ほとんどが聴けたもんじゃないですよね。よほど地の能力が高い歌い手でないと、聴かせるレベルにまでいきません。そんなに難しそうでないように聴こえるし、覚えやすい(ものもある)から、とりあえず歌ってみるんだけど、ちっとも歌えない。歌唱力の差がはっきり出てしまいます。
どれがどう、というわけじゃないんですが、音程、強弱、リズムとアクセント、ビブラート……一つひとつが相当に高いレベルにあるのは当然として、それ以外の何かがあるんだと思わざるを得ない謎の歌唱力です。
珍しく歌のことをこんなに書いてますが、この曲はそう書かざるを得ません。このアルバムのなかでも、とくに歌の威力が際立っているように感じられます。
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