玉置浩二『CAFE JAPAN』四曲目「ヘイ!ヘイ!」です。
「ヘヘイのヘイ!」と威勢のいい掛け声と、ギターやベース、ドラムの試し弾きのような音、セッションの準備ができたことを意味する「オーケイ」に応じる「オーケイ」(全員玉置さん)、ひとりバンドなのにずいぶん臨場感あります、クレジットにはキーボードに安藤さん、コーラスにThe Asiansがあるほかは全員玉置さんなのです(The Asiansが何者なのかは不明です。おそらくは即席のグループでしょう)。
「ジャーン!ジャッ!ジャーン!」と重めのリズムで、しかし軽快に、ストラトキャスターのスプリング音が聴こえるくらいにおそらくは腕の力で強く弦を叩いたギターが二本絡み、ロックの王道……AC/DCかと思うくらい王道のバンドサウンドで曲は進んでいきます。いや、あんなに重くないですね。これまた玉置さんが弾いたベースのせいか、足取りが軽やかです。玉置さんはベースが得意なんだそうですが、決して王道のベースではありません。ベースという楽器を、曲のボトムを支えるとかバスドラに合わせるとかそういう定石をほとんど気にしない自由な発想で弾いたとしか思えません。もちろんドラムも上手なんですが、これも前曲「田園」や前々曲「CAFE JAPAN」と同じく、ドラマーの定石うんぬんはほとんど気にせず、玉置さんという全身楽器みたいな人の肉体そのものから発信されるリズムを自由な発想で叩いたように聴こえます。そんなにシンバル叩かないっす!スネア連打そんなにためないっす!これはまさにオール玉置バンドでなければ再現が難しい演奏だといえるでしょう。
さて歌が始まり「いらんでしょ」「いいでしょ」のように語尾が「〜しょう」でなく「しょ」なのは、実は北海道弁なのです。かつてハウス食品が出していた「北のラーメン屋さんうまいっしょ」が島殿下(小野寺昭:太陽にほえろ)と雪子さん(篠ひろ子:キツイ奴ら)のCMで「うまいっしょ」とニコニコお客さんに話しかけていたのを覚えている方は、確実に40代後半以上でしょう。他地方の人にもまるで問題なく通じる言葉ですからあまり北海道弁って感じはしないかもしれませんが、道産子にはすぐわかります。ドイツ人が外国で同朋と思しき人とのすれ違いざまに「カルトッフェル(ジャガイモ)」とつぶやいて相手が振り返るかどうかを確かめるのにも似た、すぐに分かる合言葉のようなものです。北海道人にはすぐわかります。この曲は、傷つき倒れた玉置さんが自らを癒した旭川が舞台なのです(全部このパターン)。
誰かひさしぶりの友達とサシで呑みます。「あの娘とはどうなった?」なんて話に及びます。
曲はダンダカダンダン!と唐突にサビに入り、ヘイヘイ〜ヘイヘイ〜とコーラス入りで豪勢に歌います。基本、あの娘とはうまくいってないんです。そんな悲しさを嘆きながらも笑い飛ばす、そんな切ないヘイヘイです。なんもわかってない……ちゃんと愛してない……そんな不満をいわれてどうしようもないんだ……なんとありがちな……でも、どうしようもないのです。人間の注意力には限界ってものがありますから、「あの娘」も底なしに愛されたいのであれば人選を誤ったとしかいいようがないのです。
ドンドン!とフロアタムが響き、玉置さんのミドルの効いたギターソロが……暑い夜に近々のビールを飲んだ時の「くうううー」にも似たトーンで奏でられます。これに合の手を入れるベースが「トゥルル!」などとベーシストが思いつくとは思えないフレーズを入れてきます。
歌は二番、わかりあうっていいでしょ、でも何にも問題は解決してないんだけどね、結局は自分でなんとかしないといけないよ、と突き放すような話に聞こえるかもしれません。でもいいんです。解決なんかするわけありません。これは非指示的カウンセリング(ロジャース)なのです。あ、いや、吞んでるんですけど(笑)。当店カフェ・ジャパンは束の間の癒しをこのような形でご提供しております、解決はどうぞご自分で、というスタイルなのです。というか、カフェとか呑み屋ってそういう場所ですよね、昔から。「よろこんでー」とか声だけ喜んでるバイトさんが忙しく歩き回っているようなデフレチェーン居酒屋ばかりになった現代の若い人は理解しにくいかもしれません。それじゃおれたちの悲しみは癒せねえね(笑)。あるんですよ、立ち入ってこないけど気心知れてるんだ今夜はVERY GOODって距離感が。優先順位がおかしいって殴られたよ参っちゃうよなあ、ああそりゃ災難でしたねえ大根煮えてますけど喰います?いいねこの大根……すげえしみてる……くう〜酒ちょーだい酒!いいんですよたまには殴らせてあげればいいじゃないですか、ほら熱くなってますよ、みたいな!わかるかな〜わっかんねえだろうなあ〜(千とせ)。
玉置さんがダンダカダンダカものすごいタムワークとシンバル連打で雨のち雨のち晴れという、なんだか大変な境遇を歌います。ですが、最後に晴れている、「いいことある」のでこれでいいんだという気分になれます。夢のち夢のち……覚醒?いや、雨の間は寝て夢を見て、晴れた明日にはいいことがあると信じよう!という意味でしょう。辛くたってそれはいずれ時が解決する、時は心を癒し、状況を動かし、全く違った地平へとわたしたちを誘う……これは、安全地帯の時代によくみられた、恋人たちがもうこのまま時間よとまれ、季節よあの人を連れ去らないでくれと願っていた境地とはまったく違っています。正確には「ひとりぼっちのエール」ですでに須藤さんが示していた境地でもあるのですが、この歌も須藤さんが作詞に玉置さんとの共作という形で参加されていて、今度は玉置さんがそのバトンを受け継いでいるような恰好になっているのはとてもドラマチックです。
曲は最後のサビ、なんもなくなってない、ぜんぶわかってない、また殴られてしまいそうですが(笑)、でもいいんです。明日は晴れるから、今夜はロックンロールな夢を見ればいいんです。そしてベリーグッド!ベリグーベリグー!と掛け合って曲は終わります。なんとも、明日への根拠のない希望が湧いてくる歌じゃありませんか。
時は96年秋、わたしは悩んでいました。なんもわかってないって殴られて悩んでいたわけではなく(笑)、将来のことです。音楽を続けるのか?しかもメタルでいいのか?インペリテリの「Future is Black」みたいにお先真っ暗だぞ?メタリカの「Blackened」みたいに真っ暗で終了だぞ?でもいきなり玉置さんみたいな音楽できるわけないしなあ……それともいまからでも髪を切って背広着て企業を巡るか?それまでありとあらゆる企業勤めの機会をスルーし続けてきたわたくし、いまさらそんなことをするのもウルトラヘビーな気分でした。何しろ、氷河期真っただ中、いいニュースなど一つも聞かない時代です。派遣法も改正され、いよいよ若者使い捨ての気配が濃厚になってきていたのです。街はいつも灰色、「いちご白書をもう一度」のような未来が明るい時代では全然ありませんでした。そんななか危機感なく秋から動き始めるやつなんか相手にされるハズがありません。ですがいずれは何とかしなければならないのは明白です。ようするにわたくし、時代のせいにして甘ったれていたのでした。まあーなんとかなるっしょ!飛行機を降りたわたくし、「どーにかしなきゃな、ひとりで」と足取りも軽やかに札幌行きの電車に乗り込んだのでした。たぶん、なんも、ぜんぶわかってません(笑)、
いまふとエディット画面の表示を見て気づいたのですが、これで200の記事を書いたことになるようです(最初の「このブログの説明」を除く)。おお!100は何だったのかな?調べるとどうも「Holiday」のようです。うーむだいぶ前の気がするな……。ともあれ、節目です。気持ちを新たにしなければなりません。前の節目は気づきませんでしたが。このまま300まで行ったとすると……このペースだとあと二年くらいですかね、はっきりとはわかりませんがおそらく『安全地帯IX』か『安全地帯X 雨のち晴れ』のどこかだと思います。まだ20年遅れだよ!どんだけ曲あるんだすげえーなあー(笑)。ともあれさしあたり300目指して頑張りたいと思います。
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