2020年03月13日
Holiday
![]() | 価格:2,161円 |
![](https://www13.a8.net/0.gif?a8mat=2NG9CY+2RFESY+2HOM+BWGDT)
『All I Do』六曲目、「Holiday」です。
前曲「Only You」から引き続きRandy Kerberさんのアレンジで、オシャレなポップスになっています。そのほか、ホーンのアレンジはJerry Heyさんがクレジットされていますね。マイケルジャクソンの『スリラー』で吹いている超有名ミュージシャンなわけですが、ホーン演奏のクレジットをみると、Jerry Heyさんはもちろん、Seawindの面々がズラリと並んでいます。どこまで金かけたのよこのアルバム!とビックリしちゃいます。いまと違って当時は、玉置さんが日本一歌がうまい歌手扱いではありませんでしたし、玉置さんのノド絶頂期と思しき90年代中盤〜後半にはすっかり自分と周りの人だけで手作りすることにハマっていたわけですから、実力と、好む方法と、それへの評価と、世の中の景気と、業界の金回りとは、どうしてもズレてしまうのがよくわかります。それが惜しくてたまりません。いや、もちろん玉置さんが落ちぶれてお金が使えなくなったなんてことではありません。玉置さんは、たとえば『JUNK LAND』の時代に英米の豪華ミュージシャンを使おうと思えば使えたはずです。でも。使いたくなかった、もしくは使うことが眼中になかったのでしょう。玉置さんが当時求めていたのは、そういうゴージャスな緊張感じゃなかったというだけのことなんだと思います。
さてこの曲、Jerry Heyによると思われるトランペットで始まり、すぐにキーボード、ベース、そしてチリリンだけのドラムが後を追います。二フレーズ目は、もう一本トランペットを重ねてきますが、トランペットは歌のサビとまったく同じメロディーを吹きます。とてもシンプルですが、妙に効果的であるように思えますね。玉置さんのボーカルだけだとホリデーって感じがしない……ように思えるからです。ここにこのボーカルラインのテーマをなぞるトランペットが入ったことによって、ホリデー感がでるのだと、わたくしは考えています。
歌詞を読んでみれば、べつに休日でも祝日でもないんですが、ビートルズの「ペニー・レーン」を思わせるホリデー感……いや、「ペニー・レーン」だってべつに休日でなく、消防士が消防車を磨いてたり看護師が花売りをしてたりと、たぶんおかしな日常・平日なんだとは思うんですけども、ほのぼの・のんびり感がホリデーを思わせるのです。それでなんです。Randy KerberさんとJerry Heyさんはきっと曲名のHolidayだけをきいて、ホリデー感を出そうとしたんじゃないかな?なんて思うわけです。松井さんの歌詞は、ほのぼの・のんびりの皮に隠れた強烈な悲しみを表現するものなんですが、実はそういうレトリックは洋楽の世界ではなじみがないもので、アレンジャーは曲名だけ聞いて雰囲気を決定した……いや、すみません(笑)、これはおかしいですね。星さん金子さんがついていながらそれはいくら何でもないでしょう。星さん金子さんが雰囲気を決定してアレンジャーに指示を出したと考えるほうが自然です。つまり、洋楽邦楽の文化的相違や言葉が通じていないことによる誤解が原因なのではなく、星さん金子さんがこういう演出(アレンジでほのぼの・のんびりの皮、歌詞と歌で悲痛な悲しみというギャップ)にしたんでしょうね。
歌に入りまして、基本的にギターとキーボードによるアルペジオ、クリーンなベース、シンバルをチリチリン鳴らすだけのドラムで伴奏し、玉置さんがほのぼのなメロディーに悲しいことばをのせるボーカルを切々と歌っていく、という、なんとも寂しい曲です。サビから薄くホーンが鳴り始めオブリになっているところなんか、寂寥感が高すぎてどう表現したものやら困るくらいです。のちの「ともだち」で、寂しそうなアレンジに「悲しくて悲しくて」というド直球な歌詞を入れた気持ちがよくわかるくらい、ここの寂寥感演出は手が込んでいて、それがひどく辛いのです。
歌詞は基本的にシンプルで、短いことばを重ねて絵のパーツを一つひとつ描いてゆく過程をみせるような手法です。シャツの匂い、髪の匂い、君が消えてく……ああ、つらい(笑)。匂いってわかるじゃないですか……久しぶりに開けた衣装ケースから、君がいたあの頃の匂いを一瞬感じる……オーノウ!これはたまらん、一発KOです。たぶん体臭とか使っていた洗剤とか柔軟剤とか、正体はそんなものなんでしょうけど、これほど切ない感覚もありません。五感のうち、いちばんフラッシュバック効果が高いかもわかりません。
そうか、いまは恋がホリデーなんだ……きっとそうだ……いつかこのホリデーは終わるんだ……というのはもちろん妄想なんですけど、一瞬だけ感じたあのころの匂いが消えるのと同じくらいの速さで、あっさり現実に引き戻されます。そうだそうだ、電話でもためいきばっかりで、もらった絵葉書も住所を塗りつぶしてしまった(捨てろよ、というツッコミはナシで。そういうものは、ホリデーが終わって別の日常が始まったころに、パーフェクトに隠滅するのです)。ああいう険悪な時期と、そのあと訪れた最悪の展開を思い出し、これはホリデーなんかじゃなく、いわば失業期間なんだと思い出すわけです。
思い出すんですが、でも一瞬感じたあの頃の匂いと思い、ホリデーという錯覚に、なんだか可笑しくなったのでしょうか、玉置さんは「いつかおいで 忘れないで」と、ひとときあえて錯覚を見続けようとするかのように歌うのです。錯覚だとわかっているのに!なんという高度な切なさ演出!これは「Friend」を超えたかもわかりません。すごくわかりづらくて「Friend」を超える名声は得られそうにもないですが(笑)。
曲は間奏へと続きます。アップテンポのまま、切ないストリングスに楽し気なホーンをかぶせるという、この錯覚を増幅させるかのような見事なアレンジです。もし、Randy KerberさんやJerry Heyさんが星さん金子さんの意図がわからないまま、注文されたようにアレンジ・演奏したのだとしたら、なぜこんなミスマッチなことをするんだ?日本人はわけがわからん!とか思っていたかもしれませんね。
曲は最後の局面に入ります。風でドアが鳴り、もしかして君が帰ってきたのか?と思わせる演出があります。もちろん「ただの思い過し」です。世の中そんなにうまいことありません。そして月日は無情に移り行き、窓には自分以外の影は映らず、それが見慣れた光景になってゆくのです。その間、あの匂いはどんどん薄まり続けてゆきます。開ける衣装ケースも減ってゆき、まるでタイムカプセルを開けつくしたかのような空虚感に襲われます。
そして後奏は、前奏と同じく、サビのボーカルラインをなぞるホーンを繰り返し、フェードアウトしていきます。終わりのないホリデー、実は出口の見えない失恋期間を暗示するかのように……。
これほどまでに切ないボーカルが、ルンルン気分とまでは言わないまでも、穏やかな伴奏に乗せて歌われた例は、古今東西そんなにないんじゃないでしょうか。この曲は、安全地帯・玉置浩二随一のギャップ演出ソングなのです。そこまで深読みする(そして当然、一人よがりに妄想しまくっているので、当然間違っていそうなわたくしのような)人もそんなにはいないでしょうから、この輝きは手垢が付きにくいものであり続けるのです。
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一億はかけすぎです。あのビデオならなおさらです(笑)。たぶんレコーディングにかかった費用でしょう。それにしたって一億回収できたんですかね?一枚あたり千円儲かるとすれば二億くらいは入ったと思いますが……アマゾンズはノーギャラでロンドンまで呼びつけられてますし、決して大儲けって感じではなかったことと思いますがね。
とはいえ、バブルの発想はほんとによかったのです。そうです、いくら使っても、回収できればいいんですよ。英語できない?いいよいいよ通訳雇うから!子供の歌を入れたい?いいよいいよ現地で雇うから!ランディのスケジュールがタイト?いいよいいよこっちからロンドンいくから!それもこれも、バブルだからこそです。それこそ一流ギタリストから、玉置さんの衣装係に髪型セット係まで、仕事が発生して多くの人がそれで口に糊することができていたのです。
それにひきかえ現代日本は……これからは英語だ、コンピュータだ、インターネットだ……と、とかく現代日本は若い連中に使い勝手のいいスキルを身に付けさせようとする圧力で溢れてるんですが、それは経営者がタダでそういうスキルを利用するため、つまり節約のためなんだとどこかで気づかないと、みんな都合よく使われてしまいます。なにがリスキリングだ恥を知れ、おれたち当時の若者たちから奪ったホリデーを返せと切に思います。
サビがやはり、素晴らしくポップでキャッチーで、あまり重すぎずタイトルとおりのホリデーですね。ホリデーと、おいでをかけてたりするのもイカしてます!
このオールアイドウのアルバムには確か、ビデオだかレコーディングに一億!かかったそうで、わお!です。
それから2枚目のあこがれまで、寝かせて寝かせてついにバラードアルバムに繋がるという。そういう次の波が来るのを知っていたのか、狙わずに待っていたのか、
もう売れようとか考えずにあこがれ、カリント工場は作っていましたから、全然他の大勢とは覚悟といいますか、音が違って私なんかには聴こえてしょうがありません。
昔はあんなに上手だ器用だと言われたものを、もっと深く求めていった姿勢に感動しました。
以上、いつもどおりにホリデーから外れて失礼します。