『All I Do』五曲目、「Only You」です。シングル「All I Do」カップリングでもあるこの曲は、しっとりあっさりのバラードになっています。
アレンジはRandy Kerberさん、Wikipediaでみるとクラクラするくらい一流ミュージシャンです。格付けチェックに出たら(出ませんけど)ガクトさんが恐縮するだろうレベルの一流です。セレブのパーティーでワイングラスもちながら、腕利きのミュージシャンとして紹介されグラミー俳優とかと乾杯しているに違いありません。よくこんな人のスケジュールを押さえられたものです。キーボードは曲ごとのクレジットがありませんが、きっとKerberさんが弾いたことでしょう。このアレンジといったら!ビリー・ジョエルとかリッキー・マーティンを聴いているんじゃないかと思うくらいの洗練度です。
こんな曲を聴かせられたらさすがに、BAnaNAさえいれば日本でもレコーディングできたじゃん、というわけにはいきませんね。ハードロック・ポップテイストなChris Cameron、変な曲のBAnaNA、しっとりポップスのRandy Kerber、泣かせ担当の星さんと、役割分担ができていて、そりゃBAnaNAと星さんだけいればいいなら日本でやればいいんですけど、クリスやランディ、その他ミュージシャンやスタッフがレコーディングに参加できるとなると、選択肢はロスやロンドン近辺に限られてくるわけです。うーむ、なんと贅沢な……いや、クリスもランディもミュージシャンもスタッフも全員スケジュールを押さえて機材もみんな日本に運んできてレコーディングしたほうがずっと贅沢ですけど(笑)、さすがにバブル前夜の日本でもそんな無茶はできません。
さてこの曲、キーボード主体で作られたサウンドです。イントロは高く薄いストリングスをバックに、メインとオブリの鍵盤を絡めつつ、歌の世界へとわたしたちを誘ってゆきます。メインのキーボードに伴われ、玉置さんのボーカルがささやくように始まります。とぎれとぎれにベースを、ごくさりげなく入れながら、すぐに最初のサビに突入するのです。え?もう?なんという展開の速さ!
前曲の「Hong Kong」でもそうでしたけども、サビを覚えやすい曲名のフレーズにして、コーラスを入れて印象付けるというパターン、これ以前の安全地帯だとあまり多くないですよね。「じれったい」「Friend」「ど−だい」「悲しみにさよなら」「Lazy Daisy」「Happiness」……あとは『リメンバー・トゥ・リメンバー』にいくつか、くらいでしょうか。安全地帯の曲は「あーたぶんこの曲〇〇ってタイトルだよなー」と思えることがあまりないのです。そりゃ「じれったい」は、じつは「心を溶かして」というタイトルだったらコケちゃうくらい「じれったい」ですけど、「悲しみにさよなら」は「泣かないでひとりで」でもギリギリ通用する……すみません、書いててつらくなるくらいムリがあるかもしれません(笑)。要するに、よくある黄金パターンにとらわれずに作っているため、なかなか難しくて複雑なのだよフフン、とかそんな気分にあやうくなりかけましたが、玉置さんや安全地帯はよくある黄金パターンにとらわれていないがために、かえってその黄金パターンでもあまり気にせず使うことさえある、というほうが正確でしょう。
さて歌は二番に入りまして、ドラムが入ります。そしてストリングスもだんだん大きくなってきています。二回目のサビはもうすべての楽器が全開で入って曲を盛り上げるのです。うーん、アレンジもよくあるパターンなんだとは思うんですけども、こりゃ日本人には無理なんじゃないかな?と思えるくらいスッキリしているのです。日本人だともっと凝っちゃうような気がするんですね。シンプルさが無理というか。あ、いや、もちろん凝ってるんですけど、歌の魅力を引き立てる要素以外は極限まで削って、歌を前に出す効果のある要素はふんだんに盛り込む方面に凝っているというか……もちろん日本人のアレンジャーだって歌モノならそう思ってアレンジするんですけど、ものの考え方が違うように思えるのです。日本人アレンジャーが幕の内弁当だとするなら、ランディさんはステーキをメインにしたコース料理というか……相変わらずよくわからない喩えです。
そして歌に替わって物悲し気なホーンが主旋律を担う感想を挟み、曲は最後のサビに向かいます。最後のサビで、Only Youの意味が明らかになります。いや、はじめから明らかなんですけど、「この心にあなたがいるだけ」と日本語で歌いますので、いわば公式の翻訳が示されるわけです。この手法、かなり手垢の付いた手法なんですが、玉置さんが歌うとすごく新鮮ですね。「Rain 雨の街で〜」いや、それRainか雨かどっちか要らないじゃん、今日のゲストは内山田洋さんと、内山田洋とクールファイブのみなさんです、みたいな感じじゃん、あ、クールファイブなら内山田さんじゃなくて前川さんか、いやそれだって内山田洋とクールファイブの皆さんです、だけでいいじゃん!みたいな気持ちがムカムカムカとわいてくるのですが、この曲は別なんです、玉置さんと松井さんだから(笑)。
後奏も悲し気なホーンで、一瞬だけストリングスを入れるものの、基本的にはメインの鍵盤による伴奏だけでリードしていきます。鍵盤による最後の和音が消えていくなか、ストリングスが鳴っていたことに気づきます。うーんさみしい!恋をしてるんだから気分はルンルンハッピーじゃん!おじさんなんかすっかり枯れはててそんな気分になれないよ!老いらくの恋とかしたら「失うだけしかない」からさみしいかもしれないけど、そもそもそんな気にならないよ!とまあ、若いころの思い出はすっかりルンルンハッピーばかりだったような気がしてならないんですが、けっしてそうじゃないんですよね。若いころは若いころなりに悩んで苦しんで、たいした理由もなく「失うだけしかない」ような気がしたかもしれません。単純に横恋慕だったとか、浮気だったとか不倫だったとか、もしくは自分がへたれで声すらかけてないとか……ぜんぶロクでもない理由ばかりですが(笑)、それでも真剣だったような気がしなくもありません。そんなつもりはなくとも、思い出は美化されていくもの、正確にいえば、イヤなことを忘れていくものなんですね。
順序が前後しますが、歌詞の話をしますと、これは自分から声をかけられない類の失恋でないことは明らかです。「夢みてる」の夢は、赤い屋根の家でふたりで暮らそう的な夢ではありません。彼女の夢はアメリカでダンサーになることレベルの、叶うとふたりがバラバラになる類の夢でしょう。だから逢いたいんだけど、そして逢えたときはもう少しだけでいいから抱きしめさせていてほしいんだけど、二人とも忙しいのです。たのむからアメリカなんていかないで、ダンスなんかもうエエやろ、あきらめてワシんとこに嫁に来んかい!……とはもちろんなにひとついえなくて(笑)、せめて今だけの「恋」を満喫するしかできないのです。ああ切ない。
そうですねー、「失うだけしかない」理由は、おそらくですが、自分のサイドにもあるのでしょう。たとえ彼女がダンサーもアメリカもあきらめたとしても、自分の生き方が彼女と一緒にいることを許さないような……それこそ玉置さんレベルに売れっ子すぎて忙しいとか、不倫だったとか、あるいはその両方だとか(笑)、何かしらあやうい事情を抱えているのです。玉置さんはそんなのばっかりですから、すでに普通すぎていまさら驚きませんけど。もし安全地帯の世界を知らずにこの曲をふつうに美しいバラードだなーとしか思えないとしたら、それはソロ活動で新しいファンを獲得したということですから喜ばしいことではあるんですが、背後からわたくしみたいな邪悪な古参ファンがククク……はたしてそれだけかな?とか言いながら余計なお世話を焼きたくて忍び寄ってくるかもわかりませんので、ご注意が必要でしょう。
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白ラン?それはヤンキーすぎる、というか、あの時代から見ても時代錯誤すぎます。しかもHONG KONGと同じ女性とドーバー?ぬう!これは思ったよりもかなり「失うだけしかない」恋のようです。全国制覇を争う番長とレディースの頭同士が実は恋に落ちていて、日本では逢引できないから海外でコッソリと逢瀬を……とかじゃないですよね(笑)。
なるほど、「LA LA LAND」のイメージだったのですね。秀逸な例えで、しかもツボに入ってしまい大笑いしました!
でも私の感想もトバさんに近いかな。お互いに、あの映画の対象年齢じゃ無かったのです(笑)。
因みに、二人の白い衣装というのは、二人とも白い学ランのようなやつなんです。ヤンキー仕様と言いますか、「教祖」の様なと言いますか(笑)。女性は「HONG KONG」のPVに出てた女性に似てたように思います。(同じ女性?)
アメリカのダンス修行は、われながらバカすぎました。そうかー欧州路線かー、これはアメリカの話でしたが、わたしはこの曲で『LA LA LAND』的なストーリーを妄想してたんだなー、と、コメント頂いて気がつきました。ちなみに『LA LA LAND』は少しも面白く感じられず、人間じゃない扱いをされてしまいました(笑)。だって似たのをさんざん観てるもん!だてにトシとってないもん!
薬師丸さん、「コール」がよほどお気に召したのですね。旦那(当時)が主題歌唄って感動、しかもその後も歌うというのは余程です。まあー、その旦那が玉置さんですから、かなり特別なケースであるわけでして。これが平々凡々な歌手の奥さんですとそうもいかないでしょう。パッと思いつく範囲で同じことが起こりうるのは藤圭子さんくらいですが、圭子さん絶対感動したとか言わなそうですね。
最初に聴いたのは動画サイトで、多分PVだと思うのですが、イギリスのドーバーの白い崖で、玉置さんと女性が白い服で歩いている映像でした。
で、何となく欧州と日本と遠距離恋愛のイメージでしたが、この記事読んだ後には、すっかりアメリカへのダンス修行の物語になってしまい大笑いしました!
まさに玉置さんの恋愛は何かしら事情のあるものばかりでしたよね。
何日か前に、テレビ(BS)で薬師丸さんのコンサートが放映されていました。曲のリストに玉置さんの『コール』があり、丁寧に歌っておられました。石原さんとはドロドロでしたけど、別れても薬師丸さんとは、何か見えない絆?みたいなものを感じて泣けました。
選んだ理由は、自分の映画の主題歌はいつも自分が歌ってきたけど、初めて他の人が歌い、凄く感動した曲だったから、という事でした。
話が脱線してすみません!