玉置浩二『CAFE JAPAN』九曲目「愛を伝えて」です。シングル「メロディー」のカップリングでした。NHKの「バラエティーざっくばらん」1995年五月のテーマソングだったそうです。ということは、アルバムが出る一年以上前からこの曲はすでに聴かれていたことになります。うーむ全然知りませんでした。
さて曲は何やら鈴の音で始まります……あっ!Cat Bellsってこれか?猫鈴!じゃあ、"CAFE"&"JAPAN"って猫の名前なんじゃないのか?即席チームとかどこかの記事で書きましたけど、即席も即席、下手すると猫のチームです。これはまいった!玉置さん猫好きですから、チャチ、フラッグみたいな猫がたくさんいて、このときはCAFEとJAPANがいたのかもしれません。メロディーももともと猫の名前だという話があるくらいですし、ありそうな話です。
猫鈴に続けてストリングスがフェードイン、シンバルが鳴り響き、すぐにアコギのアルペジオ、ボーカルが入ります。ほぼギターのみの伴奏でAメロを一回、そして繰り返しのAメロにベースとストリングスを重ねます。さらにシンバルのシュワアアアアン!という音……これは『カリント工場の煙突の上に』でもしばしば聴くことができますね。同じシンバルじゃないでしょうか。玉置さんはシンバルにもかなりこだわりがあるようですから、選び抜いたものを愛用なさっているんでしょう。わたくしなどスタジオにあったシンバルを全部叩いてみて(たいがい数枚しかありません)、ああこれでいいやってくらい適当に音を録ります。玉置さんは音色へのこだわりがまるでレベル違い、いちボーカリストを完全に超えた領域まで自分の音を作りこんでいることがわかります。
壮麗なストリングスをバックに玉置さんがサビを切々と歌います。この箇所、ポクポクポク……と何かリズム楽器が鳴っている……パーカッションだろうか?と思うんですけど、よくよく聞いたらこれは玉置さんのアコギによるアルペジオであることがわかります。いままでもこうしたことは何度かあったのですがわたしが確信したのはこの箇所です。アコギのアルペジオがリズム楽器のような役割を果たしていたのでした。むう!こんな手法は思いもよらなかった!もしかしてアルペジオと一緒に同じタイミングで音色のよく似た打楽器を鳴らしているのかもしれませんが、わざわざそんなことをする意味がよくわかりませんので、さしあたり名前を付けておいて、いずれ他の曲でも検証をする際のために書きやすくしておきたいと思います。「パーカッシブ・アルペジオ!」どうだ!(プロレスの必殺技を命名するアナウンサーの気分)。そのパーカッシブ・アルペジオとベースによるリズムキープ、壮麗でスローなストリングスをバックに、「おやすみ」「おはよう」という日常の会話にあるようなことばが歌われていきます。「花のように」「風のように」……これは!「Honeybee」の記事でわたくしが書いて完全にハズした妄想の世界じゃないですか。蜂さんと花が邪念なくただただ自然に自分の役割を果たすという尊い世界!というか玉置さん!ほんとはこの曲がHoneybeeだったんでしょ!蜂と花の夜と朝を歌う尊い歌だったんでしょ!ところが途中で「Yes!Honebee!」とか歌いだしちゃって、いつのまにか入れ替わったんでしょ!いやこれ、もちろん何のソースもなくわたくしが思い込んでいるだけなんですけど、わりと自信ありますよ!真相は玉置さんとごくごく限られた人しか知らないから好きなこと言ってます(笑)。たんに当時この歌を聴いてその歌詞の世界に感銘をうけたわたくし、朝になったら風のように自然に会う……蜂と花のようだなあ……なんて妄想をしていて、その前曲がたまたま「Honeybee」だったから、むう!これは曲名を取られてしまったに違いない!なんて思っただけのような気がします。でもまあ、この「愛を伝えて」が一年以上前から存在していたんですから、この曲のモチーフが蜂と花なのは当たっていたとして、それをもとにあとから蜂の歌を作ったということなのかもしれません。もちろんそうでないのかもしれませんねえ。さてストリングスが途切れシャアアアアアン……とシンバルが鳴り、アコギのアルペジオのみでゆっくりと玉置さんが「君だけを愛してる」と歌います。Cat Bellsもチリチリと……蜂とか花とかでなく猫のことだったのかもしれない……(笑)。
アルペジオがひときわ目立ち……ああいい音だ……と思っているうちにストリングスとベースが再開、歌は最後のパート、Aメロに入ります。ストリングスとベース、パーカッシブアルペジオ、ときおり「ガタン!」と響く低音のパーカッション、フル構成で歌の最終局面を盛り上げます。最後の「愛を伝えて」あたりからCat Bellsも聴こえてきます。Cat Bellsが大きめに響き続けるなか、玉置さんのソロが入ります。ポロロポロロと、これまたいい音です……ガットギターを指で強めにはじきながら一音一音丁寧に弾いたのでしょう、ストリングスにベース、キラキラキラ……とこの曲で何度も用いられてきた(のにいままで言及していなかった)ウインドチャイムにも似たシンセの音……そしてシャアアアアンというシンバルが遠くで響きCat Bellsだけを残して曲は終わってゆきます。
この当時はまだ『カリント工場の煙突の上に』における玉置さんの詞の世界をあまり理解していませんでしたので、実はこの「愛を伝えて」の歌詞がはじめてわたくしがハマりこんだ玉置さんの歌詞になります。それこそ松井さんの「La-La-La」とか「風」のように、何度も書いてでも覚えようとしたのは、玉置さんの歌詞では初めてです。書くだけでなく、コピーして歌おうとしていました、歌ヘタなのに(笑)。もちろん酷い弾き語りで悦に入っていたんですけども、いまでもガットギターを抱えるとこの曲をポロポロと自動書記的に弾いてしまうことがあります。それだけ、当時のわたくしに染みたのでした。人はなぜわざわざ争ってまで仕事をするのか?人はなぜ駆け引きしてまで異性を求めるのか?そこまでして何が得られるというのか?それで得られたとしてそれがなんだというのか?……こうした今となっては青臭い青年の悩みに苦しめられていたのだと思います。青臭いなどと上から目線で書いておきながら、実はいまだに答えはわからないんですが。わからないままにしておくことにガマンできるようになっただけです。そういう、子どもなんだか大人なんだかよくわからない精神状態と、玉置さんの猫への思いと(笑)、世の中の行き詰まり感が絶妙にマッチングすることによってこの曲にハマりこんだのだと思います。玉置さんは相変わらず猫がお好きでしょうし、悲しいことに世の中も26年前と同じように行き詰っていますから、この曲はいまでも同じ輝きを放っているものとわたくし確信しております。あとは青年期の悩みだけ!(笑)
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日本兵のドラマか映画か、あったらしいですね。マタギの玉置さんがボルネオでオーストラリア兵と終戦後まで戦い続けるやつ。『プルシアンブルーの肖像』の時代もそうでしたが、玉置さんは音楽に興が乗ってくると俳優もやりたくなってくるんじゃないかって気がします。
95年の歌唱映像を見たことがありますが、日本兵時代(?)の短髪の玉置さんがバスカリーノを爪弾きながら、やや低めのキーで歌っていました。歌詞もリリースされたものとは少しだけ違っていたように記憶しています。