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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2020年07月08日

悲しきコヨーテ


安全地帯VI 月に濡れたふたり』二曲目、「悲しきコヨーテ」です。

冒頭、異常にカッコよいリフが耳について離れません。かつてわたしのバンドメンバー、わたし以上のハードロック馬鹿が来訪時に偶然このリフを耳にし、なにこれ格好いいじゃん!安全地帯?嘘だろ?と言っていたことを思い出します。その後おもむろに『月に濡れたふたり』のCDをプレイヤーから取り出し、自分のもってきたザックワイルドの『PRIDE & GLORY』に取り換え、エンドレスでガシガシとかけまくっていたことも忘れておりません(笑)。

で、その異常にカッコいいリフは、各小節に一拍目だけにバスドラ、四拍目だけにスネアを打つ田中さん、階段をコケるような「ダガダガダッ!ダガダガダッ!」という重低音が六土さん、「ジャカジャカジャカカッカッカ!ジャカジャカジャカカッカッカ!」と武沢トーンでキメるもちろん武沢さんの三人で作っているように聴こえます。これにBanaNaのチャカポコチャカポコと玉置さんのシャウトで味付けをし、それと鍵盤でうすくストリングス的な音を出し厚みを出している、という仕組みでしょう。矢萩さんは、わたしの聴こえる範囲では、サビでディストーションギターを「ギューン、ギュイギュイギュイーン(ペレレペレー)」と鳴らし、ソロを担当しているように思われます。これはMIASSツアーの映像を観れば明らかですね。では、サビまで矢萩さんは何をしてるのか?どうも、何もしていないような気がします(笑)。MIASSツアーの映像ですと、マントを着て叫んだり歌ったりする玉置さんと、悩ましい衣装で踊るコーラスのお姉さんばかりが映り、矢萩さんはサビとソロ以外ちらっとしか映らないのですが、そのチラッとだけでも、だいたい矢萩さんの右手が弦の上にないのがわかります。効果音的な「ギュイーン」以外は手持無沙汰だったのではないでしょうか。ギタリストが二人いると、どうしてもそういうことが起こります、というか、我慢できずに二人ともガシャガシャ弾く初心者にありがちな誤りはもちろん犯さず、プロとしての役割分担をきっちり守ったということでしょう。

曲はリフをそのまま続け、玉置さんの歌を入れます。アルバムではバービーボーイズの杏子さんをコーラスに迎え、ひたすらエロい情熱を演出します。そう、まるでコヨーテが獲物を狙うかのように……ところでコヨーテってどんな生き物?(笑)。

Wikipediaによりますと、北米大陸に生息する、オオカミに近縁の犬ですね。イエイヌ以外で唯一のいつも吠える犬だそうで、オオカミのいないところではオオカミの代わりにというかなんというか、群れで大きな獲物を狩ることがあるそうです。これだけだと松井さんが「悲しき」という形容詞連体形をつけた理由がよくわかりませんが、他の資料の力も借りながら、頑張って推測してみましょう。

コヨーテは、害獣かどうかよくわからないそうです。家畜を襲うこともあったりなかったり、ひどくその場しのぎ的で、だいたいはネズミ等の小動物を食べているそうで、害獣として大規模に駆除されることもあれば、生態系を守るために必要だからと保護されることもあるらしいのです。狩りの能力は優れており、スタミナも十分、ピューマ、オオカミ、イヌワシには狩られてしまうものの、おおむね無敵に近いです。ポーカーでいうとフルハウス並みの強手です。ですが、フォーカードやストレートフラッシュのような真の強者ではないわけですね。そして、さかりの季節には、メスに対し大勢で求婚するものの、一対一でしかつがいになれません。ほとんどの雄コヨーテは恋に破れるのです。おっ、だんだん、核心に迫ってきましたね、つまり……(笑)。

野暮なので短くしますが、多くの男たちは雄コヨーテなのです。つまり、ほとんどは失恋します。失恋したあげく、他の強敵に命を脅かされているのです。人間社会では殺されるなんてことはめったにないとはいえ、ブラック企業のような明白な悪意をもった組織に人生を蹂躙されることもあれば、薄ーい悪意をもった組織に頑張りを長期にわたって吸い取られつづけることもあります。ですから、基本的にビビリです。あーWow Wow Who! (笑)。

そして玉置さんも、一介の雄コヨーテにすぎない……というのは穿ちすぎでしょうか。「じれったい」をヒットさせ放ったこのアルバムで、「狂いそうだ」「壊れそうだ」「叫びそうだ」と叫ばせるのですから、玉置さんの苦悩を松井さんはコヨーテになぞらえ表現することで発散させたのではないか、と思えるのです。

Aメロでは攻撃的な言葉と、それに対する女性コーラスの返答、いや、内容的には返答になっておらず、攻撃的な言葉の目的をつづけるだけです。Bメロに入って、武沢さんがアルペジオに切り替えるのに呼応するように、「結ばれていたいのに」(そうはできていない!)とか、「縛られていたくない」(のに縛られている!)といったような弱気な嘆きが漏れてきます。それに対する女性の返答は、ビビっている男性を煽るようなささやきなのです。どうしたのもっと愛して!浮気なんかしたら許さないわよ!なんと自信たっぷりな!失恋ばかりの雄コヨーテですから、「はいーー!そんなことできませんともー!」と答えるしかありません。こころを暴かれていますので、泣かされ、苦しくても、歯を食いしばって頑張るほかないんですね。ああ……身につまされる……。

そんな悲痛なやり取りを、一番二番と、サビなしで続けます。サビまで長いんですけど、長く感じません。この異常に張り詰めた雰囲気と強烈に迫りくるやるせなさとが、わたしたちに緊張状態を維持させるのです。嘘つきにも、意地悪にも、泥棒にだってなれる……と、さらに歌詞は悲痛度を増しますが、当然彼女はそんなの当然でしょとでもいわんばかりに、はぐらかします。うーん、なんという報われなさ。

そして鮮烈なリズムブレイクを経たサビでは、Wow Wow Who!と矢萩さんの獰猛な野獣の唸りを思わせるディストーションギター、武沢さんの切れ味鋭すぎるカッティングにのせて叫ぶのです。わかりますわかります、こんな現実に気づかされたら叫ぶしかありません。

ところで、ドラムの音ですが、これが玉置さんがいう「ドゴドーガー!」と加工された音なんでしょうね。MIASSツアーのCDやDVDで聴くとわかりますが、ふつうの生ドラムと音が違いすぎます。カッコいいからわたしは好きなんですけども、生音でないとイヤな人は当然いますし、玉置さんはそのタイプだったのでしょう。当の田中さんが何もコメントしてないのがなんとも……。

そして間髪入れずに強烈なリズムのブレイクのあと間奏、矢萩さんの光るギター(笑)でソロを拝んだ後、最後のBメロ、サビに入ります。いつでもやさしさが怖い……それはきっと何かを要求するやさしさであって、高くつくやさしさなのです。そして彼女は誰にもやさしくするなと、独占契約をもちかけます。「はいーーー!もちろんですーーー!」と答えるしかないじゃないですか。もう!ひたすらWow Wow Who!と叫ぶしかありません。

そして曲は、玉置さん、杏子さんの獣を思わせるシャウトのかけあいを聴かせながら、間奏の手前に聴かせたような大きくストリングスを入れ、曲を一気にエンディングへと導きます。このストリングスが、次の「Juliet」前奏のエレガントなストリングスとのコントラストで、異常に不穏に聴こえるわけです。それはもちろん「Juliet」が始まってからでないと気づかないんですけども。

「悲しきコヨーテ」は、余裕たっぷりの色男でなく、『All I Do』でかいま見せた三枚目的な男でなく、ひたすら苦しみ続ける、まさに悲しいコヨーテのような男像を描いた曲でした。歌詞はもちろんですが、杏子さんのコーラスとかけあいを見せる玉置さんのボーカル、これでもかと切迫感を演出する楽器陣とは一体となって演出された像なのです。どこまでいくんだこのバンドは……と、恐怖にかられるほどカッコいい緊張感に満ちた曲だといえるでしょう。

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