『安全地帯VI 月に濡れたふたり』九曲目、「月に濡れたふたり」です。
どんな曲でも作れる玉置さんと、どんな曲でも演奏できそうな安全地帯によるボサ・ノバふうポップスですね。レコード会社側もすでに彼らにはほとんど全幅の信頼を置いていたのでしょう。こんな風変わりな曲でも売れないということは安全地帯にはすでにない、と踏んでいなければ、こんな大胆な変化は起こせません。ましてや先行シングルにするなど……アルバムリリース一か月前の1988年3月にこのシングルは発売され、JTのメンソールたばこMIASSのコマーシャルソングになったのでした。
そういやそんなタバコがありましたね、サムタイムMIASS!MIASSツアーのMIASSとしか思ってなかったけど、よくよく考えたらMIASSは商品名なわけです。いわゆるネーミングライツってやつですね。ツアートラックにでかでかとMIASSと書いてましたもんね。同じように、安全地帯IVのツアーが大王製紙エリスツアーとかになっていてもおかしくなかったわけですが、どうもそうではなかったようです。
当時は……わたくし中学生でしたもので自分で買っていたというわけではないのですが、タバコは学校の職員室でモウモウと煙を上げており(全国のどんなオフィスでも同様でした)、いろいろなタバコが机の上に置いてあったものです。インテリのタバコといわれた「セブンスター」とかブルーカラーのタバコといわれた「ハイライト」とかは今でもありますが、珍しいところでは「ジタン」とか両切り「ゴロワーズ」といった百花繚乱なパッケージが机上を彩っていたものです。MIASSなんておつかいの自販機では見たことありましたけども、そうしたオフィスでは見たことがありませんでした。当時飛ぶ鳥を落とす勢いの安全地帯とタイアップしたにもかかわらず、あまり知名度は上がらなかったのでしょう、1995年に販売が終了されています。そのころは自分でタバコ買える年齢になってましたけど、90年代にはもう見た記憶がありません。なお、YouTUBEではいまでも玉置さんの出演なさったこのCMをみることができますし、「MIASS JT video clip」というやや長尺のビデオクリップもみることができます。
さて、この曲、風の切るようなストリングスで始まり、なにやらラテンアメリカを思わせる打楽器と低く抑えたドラムでリズムが続きます。エレピで印象的なリフが始まり、ベースが思い思い音でズーン、ズーンと何かけだるいムードを演出します。そこにシャリーンと潜むアコギの音がまた、バリバリ弾く曲じゃないんだぜといわんばかりに、静かな存在感を発揮しています。
歌に入り、ボーカルとギターの掛け合いで曲は進みます。私事になりますが、わたくしこのような歌とギターの掛け合いは、この曲で初めて意識したと思います。安全地帯の曲には過去に同様のものがもっといくらでもあるはずなんですが、なにしろ耳と心がけがよろしくないもので、気づかなかったんです。
また、このような曲調をボサノバ調ということも知りませんでした。オトナになってから、音楽知ってるふりしたくていろいろなものに手を出し始めて、はじめて「イパネマの娘」とかを聴いて、あ!これ!「月に濡れたふたり」じゃん!そうかー、あれはボサノバ調だったのか……などと衝撃を受けたわけです。そこでわたくし、心がけが悪いうえに、なにしろ音楽知ってるふりしたいものですから、この曲のことを語るときにはボサノバ調を80年代のメジャーシーンにやってるんだから、安全地帯ってのはすごかったよネ……などと訳知りふうに話す誘惑にかられ!その機会を!虎視眈々と!伺っているわけです!リアルの世界でこんな態度とる人がいたら、それはわたしか、もしくはわたくしと同じような誘惑にかられてしまったちょっと気の毒な人ですので、どうかひらにお許しください(笑)。
さて曲は、泣きのストリングスを加え継ぎ目なく短いBメロに進みます。軽いキメを入れてすぐサビ、前奏に用いられたエレピによるリフに、高音のストリングスを加えた形になります。
曲は淡々と二番に進みます。ストリングスをオブリに入れたくらいで、とくに変化はありません。
そして間奏も、矢萩さんと思しき甘いトーンのギターソロが入ります。これが身も心も焦がす……感じじゃなく、情熱的なんだけどどこか冷めたような……「ワインレッドの心」に冷や水を浴びせたような感じといえばいいでしょうか、なにか悲し気なソロなんです。強く抱きしめても届かない思いと、今以上それ以上愛されるんだよ君は、とでは、そりゃ曲想が変わりますし間奏もそれに応じて変えて当たり前ですが、ほんとうに見事です!わたしだとどんな曲想だろうと引き出しはこれっきゃないさと同じようなソロを弾くに決まってますから、尊敬するほかありません。街が破壊される恐怖を演出するヘビメタとラブソングのバラードとではさすがのわたしでも頭をひねっていくらかは変えますけども(笑)、こんな、なんというか、どれもラブソングじゃん!というバンドの曲でこれほどの違いを表現できるとは……冷静に考えて脱帽ものです。アマチュアは案外そういうことが全然できないのにギター弾ける顔していがちなものです(ズバリ、アチキです)。
さて歌詞なのですが……簡単にいうと、恋愛に暗雲が立ち込めてきた様子です。
言えない胸のささやきは、「あれ?なんか変だぞ。君もしかして……冷めた?」なんですよね、無理やりことばに直すと。もちろんそれを口に出すと、一気に破局が来るのは目に見えてますので、なんとかやり過ごすべきか?でも、自分の心にちょっとだけウソをつくことなんですよ、それは。だってラブラブでいたいじゃないですか!ラブラブでなくなってきたのに、それに気づいているのに、このまま乗り切ろうと少しは思ってしまうわけです。古今東西、とことん、弱いですねー惚れた側だと(鼻ホジホジ)。
彼女は遠い瞳をして、ためいきをつきます。これは訊けん!いや危険!自分は惚れた側、あるいはまだ惚れている度の高い側ですし、ウソをつくのはイヤなので、傷つくこと、すべてをなくすことさえ覚悟で思いを届けようと、いろいろな手に打って出ます。もちろん言葉にすることもあるでしょうし、行動、態度に表すこともあるでしょう。
彼女はどのような態度をとったのか?実はそれはわからないんです。涙よりもはやく、つまり泣いちゃうような修羅場の前までしか書かれていないのです。まさに一瞬、刹那、ジャケットや歌詞カードの裏に描かれた三日月は夕方から晩の早いうちにしか空にいませんので、その月の空にあるうちに、冷や水を浴びせられて「濡れた」格好になってしまっているふたりの、月が沈むまでくらいの短いストーリー、一場面が描かれた歌なのです。
こうなると、以前のラブラブな二人にはもう戻れません。わたくし自分一人の人生しか生きていませんから、他人様のことはもちろんわからないんですが、おもに観察等にもとづく経験則でいうと、ここから逆転する可能性は、まあー打率一割もないでしょう。なつかしい昨日に戻る事すらムリです。月に濡れてしまったふたりは、もう濡れていなかったふたりには戻らないのです……ああ、なぜかわたくし、寝込みたくなってきました(笑)。
たしかないまは、いくらほしくても、きっと手に入らないんです。彼女はそこにいるのに……彼女が欲しいんじゃない、いやほしいのかもしれませんけど(笑)、本当にほしいのは昨日までの何にも心配のなかった、月に濡れていなかったふたりという状態なのです。
曲は最終盤に移調し、「夢のように消えていかないで……」「wow....wow...」と切なさ爆発のボーカルが、悲しいまでに淡々と続けられる演奏に乗せて発せられ、そして演奏もフェードアウトしていきます。
君との日々は、夢のようだったよ、ありがとう、とわたしは(何も恋愛のそれとは限らず)別れのときに、何度か言ったことがあります。もちろん向こうは「いま言う?」って顔をしていることもありますし、ニコニコと照れた顔をしていることもありますし、こちらが拍子抜けするくらい無表情なこともあります。それでいいんです。どんなに月に濡らされたって、その前までは濡れていなかったし、濡れる前の日々がたしかにあったんですから。そもそも濡れる前に別れることもありますし、別れた後で濡れてたことに気づいたりもしますけども。
さて、大晦日に更新するのは何年ぶりでしょう。2016年だと思うのですが『安全地帯IV』の何かを書いていたときにご挨拶を書いた記憶がございます。せっかくですんで、ご挨拶させていただきます。
2020年もありがとうございました!なかなか進まないブログですし、ときに一年とか休むこともありますが、今年のようにとつぜん復活するようなこともありますし、いつかは完全制覇を目指しコツコツと書いていきたいと思いますので、どうぞ2021年(とそれ以降)もよろしくお願い申し上げます。
トバ
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ボーカル色の強い安全地帯の曲の中で、ギターの方が耳に残り、気付くとギターの旋律を一緒に追っている曲が、消えない夜です。この曲は、私にとってはギターの方が主役なのではと思える曲です。
月に濡れたふたりも、掛け合っているんですね。
言われて気付きました笑。