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2019年04月30日

日記風に昨日のことを(四月廿八日)



 所用で今年二回目のプラハ行きである。七時半にうちを出るのに、五時半なんて時間に起きてしまうのは、日本にいたころを考えると信じられない早起きである。かための服を着ていったほうがよささそうだったので、例のOPプロスチェヨフのスーツを引っ張り出した。十年以上前に買ったものとはいえ、ほとんど袖に手を通していないので、まだまだ問題なく着られる。体形が変わっていないのは、この年になると喜んでいいんだよな、多分。
 どうせならということで、ワイシャツも、下着代わりのTシャツも、上に重ねたハーフコートも全部、よれよれになりつつあるOPプロスチェヨフのものにしてみた。知人に自慢するつもりだったのだけど、危惧していたとおりわかってもらえなかった。ほとんどみんなスーツを着てネクタイを締めている中、自分だけネクタイをしていない理由として、OPプロスチェヨフのネクタイがなくてという言い訳を準備していたのだけど、披露する機会もなかった。残念。

 朝のプラハ行きに利用したレギオジェットは、普段より長めの九両編成で、八号車に席を取っていたのだが、事前に八号車と九号車を入れ替えて、八号車が末尾の車両になるという連絡がメールとSMSで届いていた。駅についた時点で10分遅れの表示。15分ぐらい遅れそうである。チェコの鉄道は、駅での表示では5分までの遅れはなかったことにするから、5分の遅れと表示があれば、5〜10分の遅れだということになる。ネット上のidosに示される遅れ時間は正確なことが多いけど。

 いつもどおりビジネスのある車両の2番の座席を予約してあった。この入ってすぐのコンパートメントは、ティハー・ゾーナとして、大声で喋ったり電話したりしないことが前提の席なのだが、先に入っていた二人連れが、ときどき電話で話し始めて正直迷惑だった。この車両担当のお姉ちゃんがいるときにも電話してたのに注意しないのはどうなのかねえ。文句言わなかったのは、二人が外国語で喋っていて、チェコ語が通じるかどうかわからなかったからである。その外国語日本語じゃなかったし。
 サービス担当の人はなれていなかったのが手際がよくなく、乗ってすぐに、ジュースとスパークリングワインのどちらがいいか聞かれたので、ジュースをくれと答えたら、どちらもくれなかった。水ももらえなかったし、紅茶とコーヒーはもらえたけど、コーヒーを飲んだ後に、喉が渇いて水が飲みたくなったんだけど、飲むものがなかったんだよなあ。

 一番近くのトイレに行ったら、故障中で使えなかった。車両間のドアを開けて隣の車両のトイレを見ると、こちらも故障中。最近レギオの電車はこの手の整備不足のことが多いような気がする。一番快適であるはずのビジネスの席に近いトイレが使えないってどういうことだよ。仕方がないので同じ車両の反対側のトイレに言ってみた。一番後ろの車両になっていたので、後に伸びる線路が見えてちょっとぎょっとしたのはおくとしても、こちらのトイレは使えたけど、床に大きな木の板が落ちていて、大丈夫なのかと心配になる。
 用を足して流すためのボタンを押したら、流れるまでに長々と時間がかかった。こわれているのかなと思ったら、上のほうにふたをしてから流すようにと書いてあった。使い方を間違えてしまったようだ。こんなのが積み重なっての故障だったら、乗客の責任でもあるのかな。申し訳ない。

 プラハはオロモウツよりも少し気温が低いようだった。もう少し厚着をしてくるべきだったかと嘆きながら、目的のルツェルナへ。大戦間期のチェコスロバキアの映画界の大立者の一人だったハベル大統領の父親が所有していた宮殿様式で建てられた建物で、通り抜けの通路の真ん中に、聖バーツラフ象のパロディがぶら下がっているのが、観光名所になっている。そう、うじゃうじゃと観光客がいて歩きにくいことこの上ない。東京に住んでいたころは、こんなの人ごみとも認識しなかったはずのレベルなんだけど。レギオでクッキーがもらえなくてお腹がすいていたので、途中でビラによってサンドイッチを買う。最近ビラの小規模な店舗があちこちに増えている。便利というべきか。

 所用は夕方までかかったので、その後、プラハ在住の知人に会う。こちらが本来の目的で、所用は交通費を出してもらうためにサボらなかったというと関係者に怒られるか。夕食を一緒にと約束していたのだが、帰りの電車のことを考えて駅に入っている飲み屋にさせてもらう。ちょっと申し訳なかった。いかにプラハ‐オロモウツ間の便が増えているとは言え、プラハで9時10時まで飲んで、適当に駅につけば電車に乗れるというわけにはいかない。
 S先生からの言付けの著書を三冊いただく。そもそもそのうちの二冊は昨年夏にS先生がチェスケー・ブデヨビツェから送られたのに届かなかったというものである。ということで、チェスカー・ポシュタ(チェコ郵便)の悪口で盛り上がってしまった。最近の日本の大学のわけの判らなさについても、人間学部って何を勉強するんだろうとか、大学改革って高校生の知識レベルが下がってるだけやんとか、気の合う人とお酒を飲みながら話すってのはやっぱり楽しいねえ。電車に乗る関係上、一杯しか飲めなかったのが残念である。
 今度は八月にブルノ一週間ぐらい滞在するという話なので、ブルノで飲めるかな。S先生もサマースクール、ブルノって言ってたよなあ。都合のスリ合わせが必要である。

 帰りのレギオは何の問題もなく快適だった。ただ、ビールを飲んだせいか何もする気になれず、ネットであれこれ文章を読むことで時間をつぶしてしまった。だから、土曜日の日記めいた文章を、日曜日の日付で月曜日に書く破目に陥っているのである。一度は自転車操業から脱出したと思ったんだけどねえ。
2019年4月29日24時。











2019年04月29日

地名と形容詞の関係(四月廿七日)



 S先生の著書だったか、ブログだったかを読んでいたら、コメンスキーという名字は、出身地とされるコムニャという地名から作り出された名字だということが書かれていて、あれっと思った。

 チェコ人の名字の中には、形容詞形のものがかなりあって、地名からできた形容詞を名字にしている人も少なくない。日本でも知られている人名だと、未だに年配の方々にとってはチェコの象徴であり続けている「チャスラフスカ」氏の名前が挙げられる。この東京オリンピックで活躍した体操選手の名前は、当時は英語を経由して日本語表記がなされていたからか、長音を無視した形で表記されているが、実際のチェコ語の発音に近いのは「チャースラフスカー」である。
 この名字は、中央ボヘミアの空軍の基地があることで有名なチャースラフという地名にちなんでいる。地名「Čáslav」に接尾語をつけて作られた形容詞「Čáslavský」の女性形が「Čáslavská」で、チャスラフという地名が存在せず、形容詞の女性形であることを考えると、「チャスラフスカ」という表記は定着してしまっているけど、言いにくいし正しいとは言いがたいのである。

 だから、コメンスキーも地名からできた形容詞を名字にしたものだという指摘には、なるほどと納得することはできた。それでもあれっと思ったのは、コメンスキーよりもコムニャに似ているコムニャツキーという名字が存在することを知っていたからである。チェコ語の特徴に基づいて、よく考えれば、コムニャからコメンスキーというのもありうることはわかる(後述)のだけど、どちらの形が、コムニャから作られる形容詞としては、一般的なのだろうか。
 ということで、地名から作られる形容詞についてちょっと考えて見る。チェコ語の文法書なんかには結論が書かれているのだろうけど、それをそのまま書いても面白くないので、経験に基づいて説明する。

 まず、一番簡単なのは、チャースラフのように、子音「V」で終わる地名である。そのまま形容詞の語尾である「ský」をつけてやればいい。「Přerov → přerovský」「Břeclav → břeclavský」がその例である。「V」意外でも子音で終わる地名の多くはこのグループに属する。例えば、「Plzeň → plzeňský」「Tábor → táborský」の類である。ターボルスキーって、サッカーの解説者とか俳優の名前に見かけた記憶がある。末尾の子音によっては、例の子音交代が起こる可能性もあるけど、そんな地名が思いつかないので、保留にしておく。
 それに対して、オロモウツのように「C」で終わる地名の場合には、「ký」だけをつける。オロモウツスキーなんて言いにくいし、オロモウツキーで十分なのである。他にも「Liberec → liberecký」なんてのがある。似ているのが、子音二つの「st」で終わるもので、「ecký」をつけて、「Most → mostecký」となる。「mostcký」なんて発音しづらいしね。また同じ子音が二つでも「RK」で終わる地名の場合には、「K」を取り去って、「ský」をつける。「Šumperk → šumperský」とかね。

 次は、母音で終わる地名の場合だが、これは母音を取り去ったあとの末尾の子音によって決まる。ルールは子音で終わる地名の場合と同様である。つまり「Ostrava → ostrav → ostravský」「Svitvy → svitav → sviavský」「Veselí → vesel → veselský」「Pardubice → pardubic → parudubický」「Ústí → úst → ústecký」などなど。
 注意する必要があるのは、「Praha → prah →pražský」のように、形容詞化する際に子音交代を起こす地名と、母音を取り去った後に、子音が二つ残る地名の場合である。前者はそれこそプラハぐらいしか存在しないし、特に気にすることもないのだが、後者は懸案のコムニャとも関係してくるので、ちゃんと考えなければならない。

 母音を取り去って子音が二つ残る名詞で、思いつくのはブルノ、クラドノ、ズノイモと中性名詞ばかりなのだが、形容詞化すると、「Brno → brněnský」「Kladno → kladenský」「Znojmo → znojemský」と発音をしやすくするためか、子音二つの間に「e」が出てくるのである。「a」で終わる女性名詞は思いつかなかったのだが、形容詞型の地名レトナーがあった。これも長母音の「á」を取り去って「e」を入れた結果、「Letná → letenský」となるのである。
 ということは、コメンスキーの出身地とされる「Komňa」もこのグループに入ると考えてよさそうである。ただし一つだけ疑問があって、普通に考えれば「Komňa → komeňský」となりそうなのに、ハーチェクが消えて「komenský」になってしまったのはなぜなのだろう。「eňský」という文字の並びには、「plzeňský」という例があるわけだから、特に忌避される理由もなさそうである。

 最後にもう一度冒頭の疑問に戻っておけば、母音で終わる地名にそのまま接尾辞をつけて形容詞化する事例は見つからないので、コムニャツキーというのは、コムニャから作られた形容詞であるのは間違いないにしても、チェコ語の正しいとされる文法からは外れた方言形か何かなのだろう。とはいえ、コメンスキーのほうも、微妙に音が変わっているからなあ。ブルノの形容詞も方向が逆だとは言え、音が変わっているから、コムニャからできる形容詞はコメンスキーでいいのだということにしておこう。
2019年4月27日22時。










2019年04月28日

春は名のみの(四月廿六日)




 今年の冬は寒かったので、これにあの懐かしい歌のように「風の寒さよ」とつなげれば、二月初めの立春の後、ずっと感じさせられていた気持ちになるのだが、暦の上での春の終わりも近づいた今日など、「気温の高さよ」とつなげたくなる。最高気温が25度を超えて30度に近づくというのである。これまでも、5月の時点で30度を越えることはあったから、4月末で30度近くという気温自体には、とやかく言うつもりはない。幸いまだ建物が熱を持っていないので、部屋の中はそれほど熱さを感じないし。

 問題は気温の上がり下がりが例年以上に激しいことで、天気予報によれば明日の朝の最低気温は5度前後で、最高気温は今日の最低気温と同じぐらい15度前後までしか上がらないらしい。日本に比べて日ごとの寒暖の差の激しいチェコでも、ここまで急激に上がったり下がったりが繰り返されるのは珍しい。実は日本の気候を説明するものではなかったらしい四字熟語「三寒四温」の三寒と四温の間が最低でも10度以上あるというのが、これまで何度も繰り返されてきたのである。
 その結果、慣れているはずのチェコ人でも、どの服を着ればいいかわからないとか、着る服を間違えるということがしばしばあるようである。今日も10時過ぎに街を歩いていたら、半袖半ズボンの完全に夏の格好をしている人もいれば、冬物と思しき上着を羽織ったり、抱えたりしている人もいて、季節感のないことこの上なしだった。長袖のワイシャツに上着なしという格好でも、暑くて汗をかいたから、上着を着ていた人は大変だったろうと思う。明日は逆に半袖半ズボンの人が寒さに震えることになりそうである。

 チェコ人ですらこうなのだから、外国人が混乱するのも当然のことで、去年の終わりから上着の選択に失敗して寒さに震えたり、逆に歩いている途中で暑くなって上着を脱いで小脇に抱えるなんてことを繰り返してきた。天気予報で予想気温はチェックしているのだけど、風のせいで体感温度がぜんぜん違うことも多いし、ベランダに出て感じるのと、家を出て感じる寒さに大きな違いがあることもある。
 春物の上着を着て震えていたのは、あちこちほつれ始めているので、新しい春物を買うぞと自分にプレッシャーをかけるためにあえて着ていた部分もある。だから自業自得ではあるのだけど、ワイシャツの上に春物の上着を重ねて快適という日がほとんどなかったため、買おうというモチベーションは完全にスポイルされて、ズボンとベルトは買えたけど、秋にも着られる春物、もしくは春にも着られる秋物の上着の買い物は、秋に持ち越しということになりそうである。この春で買い物の季節はおしまいにして、しばらく服には目を向けない生活をするつもりだったのに……。

 そんな今年の春に、以前日本で会った韓国の日本研究者の言葉を思い出した。「最近韓国では秋が短くなった感じがするんですよ」と言われて、いわゆる地球温暖化の結果が、単に気温が上がるという単純なものではないことを改めて認識したのだった。極端な天候が増えて、春らしい、秋らしい、夏と冬の中間の過ごしやすい日々が減っているのが、温暖化というものの気候に与える一番の弊害なのである。その結果、暑さに疲れ、寒さに疲れ、一年中疲労が抜けないということになる。
 昔は、「チェコには夏がない、本当の夏がない」と言っていたのだが、今年はチェコの春がなくなったと言いたくなる。そして「私の春はどこに行ったの、誰が盗んでいったの」なんてことをチェコ語で言ってしまうのである。

 さて、日没も近い夕方、昼間の熱気の残る道をうちに向かって歩いていたら、フローラの展示会場の入り口近くで、妙に熱気を感じさせる集団がいるのに気づいた。春のフローラの開催期間中だから、植木を買って盛り上がった集団かとも思ったのだが、集団で写真を撮ったりしていてどうも毛色が違う。よく見たら、近くにオロモウツ事務所を構えるオカムラ党SPDの人たちが、EU議会選挙のための選挙運動の一環だったのか、テントの片づけをしていた。盛り上がりの中心にはオカムラ氏らしき人の姿もあるじゃないか。
 暑過ぎたり、寒すぎたりして、春らしさはあまり感じられないけど、やっぱり春なんだなあ。うん。
2019年4月26日23時50分。











タグ: 愚痴

2019年04月27日

安部首相スロバキアへ(四月廿五日)



 一部の大学なんかを除くと、日本中がお休みモードに入るゴールデンウィークは、首相が日本を離れて、外遊するにはいい時期なのだろう。今年は少し早いような気がするが、四月廿二日から廿九日の予定で、欧米諸国を歴訪することになっているようだ。それだけなら、このブログでわざわざ取り上げるようなことでもないのだが、フランス、イタリアに続いてスロバキアにも来るというので、ちょっとばかり情報を集めることにした。

 スロバキアに何日に入るのかがわからなかったので、こういうときには外遊を仕切っている外務省が一番情報が詳しいだろうと考えて、見つけたのがこのページ「安倍総理大臣の欧米訪問」。今でこそ、情報が増えているけれども、最初は、最初の訪問国であるフランスのところにしか記事も写真もなかった。何日にその国を訪問するという予定すら書かれていなかったのは、テロ対策でもあったのだろうか。
 それで、現地でコーディネートしているはずの日本大使館なら情報があるかもしれないと、スロバキアの日本大使館のページを覗いた。大使館のHPというのは、外務省指定のフォーマットがあるのか、たまに情報を求めて開くチェコの日本大使館のものと似たような印象を受けた。だから情報が書かれていれば見逃すはずはないのだけど、首相の訪スロバキアについては、何の情報も出てこなかった。職員総出で準備していて、こんなところまで手が回らないのかな。見逃したのかなあ。

 ただ、求めていた情報が得られなかった代わりに、こんな面白いものを見つけてしまった。「HOTスロバキア、ホッとスロバキア〜スロバキア小さな旅〜」というコーナーで、駐スロバキア大使が御自ら筆を執ってブログ的な記事を書かれているのである。これが大使にまで上り詰めた外交官の自慢話なら歯牙にもかけないのだが、内容はむしろ個人的なスロバキア人との交流や、スロバキア語学習の苦労、スロバキアの名物、名所紹介などが中心で、安部総理大臣のことを忘れて読みふけってしまった。現時点では題名から面白そうだと思ったものを読んだだけだが、いずれ通読したいと思う。

 さて、今日になってもう一度外務省の外遊に関するページを確認したら、スロバキアの国名の下に記事が増えていた。首相がスロバキアに入ったのは廿三日のことだったらしい。その夜、ポーランドの首相と会談したのは、スロバキア側の都合がつかなかったのだろうか。スロバキアで最初に会談するのがポーランドの首相というのは、普通ではないような印象を与える。

 二つ目の情報は、安部首相のインタビュー、ただし、書面によるものがスロバキアの日刊紙「プラウダ」に掲載されたというものだった。我々の世代の人間にとって「プラウダ」というと、タス通信とならんで、ソ連共産党の印象が強いのだが、日本語に訳すと「真実」となるこの紙名は、旧共産圏の諸国では一般的だったようである。チェコまで来ると「プラブダ」と読み方が変わるんだけどね。
 それはともかく、「プラウダ」紙がネット上で公開している安部首相のインタビュー記事がこれ、それを外務省がPDF化して紹介しているのはここに置かれている。せっかくなので、スロバキア語で読んでみようと考えた。考えて読み始めたのだけど、一行目で挫折した。「チェコ語ができればスロバキア語は問題なく理解できる」とのたまう黒田師は、やはりただのチェコ語学習者ではないのである。仕方がないので日本語版を読んで情報収集である。

 気になったのは、来年2020年が、日本とスロバキアの国交樹立百周年に当たることを強調している部分で、チェコスロバキア第一共和国の後継者を自認しているチェコではなくてスロバキアに行くことにしたのはなぜなのだろう。今年はスロバキアで、来年はチェコに来るというのなら、とやかく穿鑿する意味はないが、そうでないなら何か特別な事情がありそうである。
 考えられるのは、スロバキアが独立してから三十年近くたつのに、これまで日本の首相が訪問したことがないという事実である。スロバキアに日本大使館が設置されたのもそれほど昔のことではないし、そろそろという機運が政府、外務省内で高まっていたのかもしれない。このまま放置しておくと外交的に忘れられた国になりそうだしさ。
 観光ツアーでも、チェコ、オーストリア、ハンガリーをめぐることが多く、スロバキアは忘れられている印象が強い。だから大使もブログで名所の紹介なんかをなさっているのだろうけど、ウィーンから程近い首都ブラチスラバはともかく、交通の便が悪いのがネックなんだよなあ。いや首都が西に偏りすぎているのが、そもそもの問題か。

 閑話休題。
 今回安部首相がチェコには来ずに、スロバキアだけを訪問すると聞いたときに最初に思い浮かんだのは、中国に擦り寄って日本を軽視する現在のチェコ政府に対して不満を表明するためではないのかということだった。ゼマン大統領、またまた中国に行くらしいし、日本には一回も行ったことがないのに、何回目だよ。
 とまれかくまれ、安部首相はチェコのバビシュ首相とも会談をして、当たり障りのない話をしたらしい。この首相のスロバキア訪問のおかげで、大使のブログを発見できたのだから、中国の国家主席のチェコ訪問に比べたら、何倍も意義のある訪問だったと断言しておく。
2019年4月26日15時30分。







 




2019年04月26日

今度こそチェコの服を買う(四月廿四日)



 ベルトをめぐる状況が多少マシになったので、全面解決ではないけど、先送りすることにして、再びズボンである。この冬は何とか乗り切ったし、多分春も大丈夫だろう。秋も何とかできるとは思うが、冬は絶対に新しいのが必要になる。それなら今の買い物の気分が続いている間に、まとめて買ってしまえと考えた。最低でも二本、できれば三、四本一軒のお店で買いたいところである。あちこちお店を回って、一本一本探す気力はない。
 前回、OPプロスチェヨフの後継ブランドと目していたところで失敗したので、是非ともチェコのものを買いたいところである。プロスチェヨフ系のお店は、ネット上でどのぐらいの値段かチェックできないし、製品の情報もあまりないので、ネットショップも運営しているところにしようと考えた。候補となったのは二つ。

 一つはシャントフカで見かけていて、名前から恐らくチェコのブランドだろうと思われる「ブラジェク」というお店。ハーチェクのつく名前がチェコ以外にあるとは思えないし、ブラジェクといえば、ちょっと前までサッカーのスパルタ・プラハで活躍したゴールキーパーの名字だしね。あれアイスホッケーのスパルタにもブラジェクという選手がいたかな。
 もう一つは「ピエトロ・フィリッピ」というあまりチェコっぽくない名前のお店。これについてはこの前プラハに行ったときに、知り合いが似非イタリアのチェコブランドとか教えてくれて、チェコのものであることを知った。HPによると、ペトルとフィリップというチェコの名前をイタリア語っぽく変えてブランド名にしたらしい。こっちもシャントフカに入っているんだけど、女性物しかないお店である。

 ネットショップで確認してお店に買いに行くのは、リュックとか靴でもやっているのだけど、服の場合には、見つけた商品がお店になくて、結局何も買わずに帰って来てしまうことが多い。だから、これまでなかなかズボンがかえななったのだ。靴屋だとCCCやバテャは、HP上で支店の在庫の確認ができるようになっているのに対して、服屋の場合には確認する機能がついているところでも、可能性大、中、小なんて表示になっているところが多い。

 二つのうち、結局「ピエトロ・フィリッピ」を選んだのは、知り合いに「ヘレ」と自慢してやろうと思ったのも理由の一つだけど、ネットショップで買ったものを支店に送ってもらって、店頭で受け取って直しをお願いできたというのが一番である。おまけに、大きく値引きされたズボンが何本も並んでいて、ネットショップで初めての買い物する人に対しては、割引クーポンを提供していたから、一本ではなく、何本かまとめて買うのにちょうどよかったのである。
 ズボン一本2000コルナとか、3000コルナというのは、二、三年に一回一本ずつ買うのならまだしも、今回のようにまとめ買いするときには心臓によくない。できれば一本当たり1000コルナまでに抑えたいと考えながら、よさげなのを探した。問題は、ネット上で見ても色がよくわからなかったり、商品の説明がよく理解できなかったりしたことだけど、とりあえず、洗濯機で選択できるズボンを選ぶことにした。最悪店頭で受け取る際に返品できるようだったし。

 割引クーポンを使うのに、登録しなければいけなかったのだが、それが何とかクラブの会員になることなのかどうかわからなかった。それに2000コルナ以上の買い物にしか適用できないというのだけど、割引後で2000コルナ以上なのか、割引前の金額でいいのかもよくわからなかった。ネット上の買い物というのは日本語のサイトでも手探りになることが多いのである。チェコ語のサイトの場合には手探り度がさらに高くなる。
 ネットショップで売られている一番安いズボンが800コルナ弱だったから、四本買えば2000コルナは余裕で越えてしまう。7割引のものだけだと申し訳ないと日和って、一本5割引のものを入れたから、合計4000コルナ近くになった。それに割引クーポンを使って、3000コルナちょっと。これなら裾上げにお金を取られても、一本平均1000コルナ以下という目標が達成できる。ということで思い切って四本注文してしまった。この辺はもう勢いである。

 オロモウツのお店から届いたと連絡があったのは、最初の三本は同日で、四本目は何日か遅れた。そのせいで一回余計に足を運ぶ必要があって、二回に分けて試着用の部屋に入ってズボンの長さの調整をすることになったのだけど、女性物しか置いていない店だけあって、ピンク色のカーペットとかきらきらしい空間でちょっと入るのにためらってしまった。まあ、これから数年はズボンを買う必要はなくなるんだと考えれば、なんてことはなかったんだけど。
 ネットショップで見て想像していたのとは、違うタイプのズボンだったり、色が光の関係もあって微妙に違って見えたりなんてのもあったけど、冬用のコーデュロイの暖かそうなズボンが色違いで二本、春秋用のズボンが薄めのと厚めのとで二本と、想定していたよりもいい結果になった。試着したときの履き心地もよかったし、ネット上で手探りで買い物したのに、お店で現物を見て選んだときよりも成功したといえるかもしれない。次もここでと思ったけど、しばらくズボンは買う必要はないのだった。

 肝心のチェコ製のズボンを買うという目標は当然達成された。ネットショップに特に何もかかれていなければチェコ製で、スロバキア製の場合だけ注記がされているようなので、買ったのは全部チェコ製だと思っていたら、チェコ製は一本だけで、他はスロバキア製だった。ネット上の情報に不足ありである。もちろん、スロバキア製に文句をいうつもりはない。チェコスロバキアの片割れだし。

 今週の土曜日はプラハに出かけてピエトロ・フィリッピを教えてくれた知人に会う予定なのだけど、自慢のために履いて行こうかなあ。いやシャツを買って上下とも揃えてからのほうがいいか。それに、その前にOPプロスチェヨフの自慢をしておかなければなるまい。最後の機会になるかもしれないし、上から下までOPプロスチェヨフにしよう。わかってもらえないかもしれないけど。
2019年4月25日24時。


 










posted by olomoučan at 06:36| Comment(0) | TrackBack(0) | チェコ

2019年04月25日

もらってしまった(四月廿三日)



 長年買い物を放り出してきた弊害は、服だけに現れるのではなかった。春になって暖かくなってきたこともあり、残り少ないOPプロスチェヨフの製品でも薄めの春秋用のズボンを引っ張り出したのだが、このズボン、ベルトを通す穴が小さめなのである。普段使っているベルトでも何とかならなくはないが、引っかかってすんなり動かせないので、日本から持ってきた古い古い細めのベルトを使うことになる。
 このベルトが、例によってもう寿命寸前というか、寿命を越えているという代物で、細いんだけどあちこち引っかかって使いづらい。絶対に去年の秋に最後のこのズボンをはいたときにも状態は変わらなかったはずである。当時はズボンが優先だったこともあって、先送りしてしまったのだが、すでにズボンは二本新しいのを買った。それでもまだ足りないんだけど、ズボンはひとまず置いて、ベルトを買うことにした。

 ベルトを売っているお店はオロモウツにもいろいろあるのだけど、とりあえず最近行きつけのおっちゃんの店に足を向ける。ここに適当なものがあれば、ここで買うのが一番楽である。ベルトにまでチェコ製を求めるつもりもないしね。ということで、お店に足を踏み入れたら、レジのところに、お客さんがいたので、挨拶して店の奥に向かう。この前来たときよりは製品も増えているけど、春を通り越して夏物が多い印象である。あとはアウトドア用の、普段着にはちょっとという製品とか。

 お客の相手が終わったおっちゃんが「今日は何さがしてんの」と言うので、上着を上げてベルトを見せて、
「こんなベルトさがしてるんだけどないかなあ」
「そんなベルトはないけどねえ」と言いながらおっちゃんはカーテンで仕切られた奥の商品置き場に入って行った。出てくると、「そんなベルトはないけど、これをあげよう。常連のお客様へのサービスだ」と言って、折りたたまれて、袋に入ったベルトらしきものを二本手渡してくる。
「ちょっと待ってよ。もらえないよ、お金払うよ」
「いいよ、いいよ、いつもいろいろ買ってもらっているから、これぐらいはサービスだ」と言って、店内にいた他のお客さんたちと、常連へのサービスの話を始めてしまう。「一つ買うなら10パーセント引きで、二つなら20パーセント、十個買ったら100パーセントだ」なんて冗談を言っている。

 このお店、確かに二回目の買い物からは値札よりも安い値段で売ってもらっていたからなあ。そういうサービスもやっているのかもしれない。値札も今時信じられない手書きだしさ。レジの機械は年代物の木製で、例のEET(レジのオンライン接続)なんかできそうもないという代物である。一応カード払い用の端末があって、それでレシートは出してくれるけど、バーコードでピッとやるなんてことはありえない。この時代遅れ感も、何か買うとなったらまずこの店で聞いてみるようになった理由の一つである。
 もらったベルトは、一本は長すぎてこちらの胴回りでは使用不可能だったので人にあげてしまったけど、もう一本は使っている。問題は、ベルトの太さが、普段使っているのよりも太いということで、そもそもの問題は全く解消されていないのだった。いやそれでも万年同じベルトを使い続けるという状態は解消されたから一歩前進である。

 しかし、ベルトもらえるほどこの店で買い物したかなあ。最初に入ったときは半ズボンを買おうとして適当な大きさのものがなくて買えなかったんだけど、サマースクール中にポシェットというか何というか小さな肩掛けのバッグを買ったのだった。その後ズボン、ハーフコート、シャツ、セーターなんかを次々に買ったから、まあいいのかなあ。
 それでも申し訳ない気持ちは残って、何か買える物はないかと探したのだけど、こちらが求めるズボン、春物の上着なんてのは置かれていなかったので、また暖かくなったら買いに来るねと言い残して店を出た。次に買うのは、去年サマースクール用に何枚か買ったけど、同時に古いのが何枚かヘロヘロになってしまっているポロシャツかなあ。

 お店の名前はわからないんだけど、共和国広場からホルニー広場の方にトラム通りの左側を歩いて行って、歩道がちょっと広がって、「Ztracená」通りに入る手前にある小さなお店である。オロモウツに来て服が必要になったら行ってみない? 目印はオレンジ色の「Nordblanc」の看板だから、アウトドア用のは結構充実してるよ。それ以外の男物の品ぞろえはあんまりよくないけどね。
2019年4月24日22時。









タグ:お店 買い物
posted by olomoučan at 06:43| Comment(0) | TrackBack(0) | チェコ

2019年04月24日

Česko〈私的チェコ語辞典〉(四月廿二日)



 チェコ語の言葉の中には、一般にはよく使われていて、意味もよく知っているけれども、いろいろな理由で個人的には使わないようにしている言葉がいくつかある。このチェスコもその一つで、使わない理由は、モラビアのオロモウツに住んでいるからである。と、これではよくわからないだろうから、少し詳しく説明していこう。

 チェコのチェコ語における正式名称は「Česká republika」だが、英語で正式な略称として国連に申請したらしい「Czechia」当たる言葉が存在しない。現在一国となっているチェコは、歴史的にはボヘミア(Čechy)、モラビア(Morava)とシレジア(Slezsko)の一部から成り立っている。「Česko」は、そのうちのボヘミアから派生した言葉でなので、ボヘミアだけを指すのかチェコ全体を指すのかわかりにくいところがあった。
 具体的には「Čechy」の形容詞形「český」が、他の形容詞と結びつくときに、例えば「českomoravský」「česko-japonský」などの形で使われるのだが、その最初の部分が独立して使われるようになったのが、この「Česko」だと考えられる。ただし、かつてのチェコスロバキアを表す名詞として、「Československo」という名詞が使われていて、その前半部分が独立したと考えたほうがいいかもしれない。そうすると「Česko」はボヘミアだけよりも、チェコ全体を指す言葉だということになる。

 形容詞「český」がボヘミアだけではなく、チェコ全体を表すものとして使われる例は、そもそも「Česká republika」という例があるのだから、特に目くじらを立てる必要はないと言われればその通りなのだけど、少なくとも2000年ごろまでは、「Česko」について、ボヘミア臭が強すぎて使いたくないという人は、特にモラビアに多かった。モラビア、シレジアの地名でも「Český Těšín」という地名もあるから、国内のほかの地域とではなく、他の国と対比した場合には、「český」がチェコ全体を意味するのはわかる。わかるんだけど……。
 このわかるんだけどの「けど」の部分が言葉を使う上では重要で、日本語のら抜き言葉も、受身形から可能形が独立する過程にあると理解することはできるんだけど、自分では使いたくない。ということは、チェコ語の「Česko」は、日本語のら抜き言葉と同じような位置づけになるのか。チェコ人の間でも、使わない人は意識的に使わないのに、使う人はほとんど何も考えないで使っている点も、ら抜き言葉に似ているし。

 ただ、ちょっとだけ通時的なことを言えば、2000年前後の段階では、使う人はいても使い方が限定的というか、状況に応じて使ったり使わなかったりしていたものが、次第に状況を問わず使われるようになり、最近ではチェコテレビのニュースでも普通に使われるようになっている。これがいいことなのか悪いことなのかはともかく、毎回毎回「Česká republika」と言っていられない事情はよくわかる。わかるんだけどと、またまた「けど」がついてしまう。
 いつまで頑張れるかはわからないが、「Česko」は使わずに生きていこうと思う。なくても何とかなるし、自分で使うと何とも言えない違和感をぬぐえないしさ。同時に「Česko」を使うことを否定する気もない。

 なんだか今まで書いてきたことの繰り返しで中途半端な内容になってしまった。昨日も夜更新するのを忘れて寝てしまったし、なんか最近たるんでるなあ。春バテの復活かもしれない。
2019年4月23日22時。














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2019年04月23日

cukr〈私的チェコ語辞典〉(四月廿一日)



 この言葉は、前回の「clo」のところで、発音に関してちょっと触れたけれども、カタカナで表記すると「ツクル」になる。ただ日本語の「作る」とは違って、アクセントが語頭の「ツ」にあるため、日本語で「ツクル」というときよりも、強めにそして長めに「ツ」を発音する必要がある。長音符をつけるほどではないと思うけど。
 繰り返しになるが、「C」で、「ツァ・ツィ・ツ・ツェ・ツォ」の音を表記するのがチェコ語の特徴の一つである。この読みかたをとっさにできるかどうかが、チェコ語の発音がわかっているかどうかの境目になる。慣れすぎるとチェコ語以外の言葉でも、チェコ語風に読んでしまって、何のことやらわからないなんてことになる。

 ところで、この言葉ツクルの意味は砂糖で特に問題はないのだけど、派生語がいろいろあって面白い。チェコの街を歩いていて、「cukrárna」の看板を見かけたことのある人も多いだろう。日本のケーキ屋、もしくは洋菓子屋みたいなものなのだが、ケーキを意味する「dort」ではなく、砂糖の派生語が使われているのは、甘いものという意識が先に来るからだろうか。ちなみにケーキ屋でケーキを作っている職人は「cukrář」で、女性は「cukrářka」となる。
 ツクラールナの多くは、喫茶店と同様にケーキだけではなく、お茶やコーヒーなんかも飲めるようになっている。喫茶店でもケーキを出すところが多いことを考えると、その境目がよくわからない。個人的には甘いものは苦手なので、喫茶店でケーキを食べることはないし、ケーキ屋なんか入らないけどね。昔、生まれて初めて喫茶店だったか、ケーキ屋だったかで、ケーキを食べたときには妙に感動したのを覚えているけど、所詮甘いものは甘いものである。
 普通の「cukrárna」は甘いものを作って売っているお店なのだけど、オロモウツには特殊なチーズであるトバルーシュキを使った「cukrárna」が存在する。チーズケーキ屋ということなのだろうか。ただあのトバルーシュキで甘いケーキを作るのはあまり想像できない。しょっぱいケーキに需要はあるのかな。

 不思議な言葉は、「cukrovka」である。辞書には、まず「砂糖大根」と「ビート」が上がっていて、その後に医療用語として「糖尿病」が上がっている。砂糖の原料となるものと、砂糖をとりすぎた結果起こるものが同じ言葉で表されるのである。もっとも、普通にこの言葉を聞くと、糖尿病が頭に浮かぶのだけどね。
 それに対して、砂糖大根、もしくはテンサイのほうは、「řepa」という一般に蕪を表す言葉を使うことが多い。形容詞をつけて「cukrová řepa」と言った方が確実かな。ちなみに大根は「ředkev」で、「řepka」はアブラナである。
 同じく砂糖の材料となるサトウキビは、チェコでは栽培されていないが、「cukrová třtina」と呼ばれる。その「cukrová třtina」を材料にしたお酒が「rum」なのは世界共通だが、チェコでは「cukrová řepa」から造ったお酒も、「rum」と呼ばれていた。同じ砂糖の原料だし大差ないよねで、チェコ国内では済んでいたのだが、国際的には問題だったのか、「rum」という名称は使えなくなってしまった。その後は「tuzemák」という国産であることを強調した名前で売られていたのだけど、最近は見かけない気もする。念のために書いておくと、「rum」はラムではなくて、「ルム」と読むのが正しい。

 サトウキビやテンサイに使われていた形容詞の「cukrový」と発音が全く同じ言葉が「cukroví」である。こちらは中性の名詞で、辞書には「キャンデー類」「菓子」と書かれているが、真っ先に思い浮かぶのは、キャンディーではなく、クリスマスのときに家庭で焼くクッキーなどの甘いお菓子である。チョコレートを丸めたものから、チーズの入ったあまり甘くないものまで、クリスマスの24日の日中に昼食の代わりに口にする甘いものをまとめて「cukroví」と呼ぶのである。お店で買えなくはないけれども、自分のうちで焼くことが多い。

 砂糖を使って甘いお菓子を作るところは上に書いたように「cukrárna」だが、砂糖を作るところはというと、その通り、「pivo」→「pivovar」から予想できるように、「cukrovar」である。オロモウツの辺りだと、ハルバートキの砂糖工場が有名である。H先生の住んでいるブロデクにもあったけれども、EUのあれこれで廃業して、フランスかイタリアの企業に買収されて工場は解体されてしまった。
 ちなみにこの接尾辞の「-var」は結構便利で、工場だけでなく機械にも使うことがある。一番よく使うのは「kávovar」、つまりコーヒーメーカーと、炊飯器を意味する「rýžovar」だろうか。
2019年4月22日24時30分。










2019年04月22日

ヤーグル復活(四月廿日)



 チェコのアイスホッケーが誇る英雄といえば、1998年の長野オリンピックで優勝したメンバーになるのだが、中でもドミニク・ハシェクとヤロミール・ヤーグルの二人が別格で、ハシェクも現役生活が長かったけれども、ヤーグルにいたっては47歳の現在もなお現役を続けている。現役とは言っても、アメリカのNHLでもロシアのKHLでも、チェコの一部リーグのエクストラリーガでもなく、チェコの二部リーグで、自らがオーナーを務めるクラドノでだけれども。
 そのクラドノでも、怪我の影響でシーズン初めから欠場を続けていた。だからというわけでもないのだろうけど、クラドノは、もしかしたらオーナーのヤーグルの決定で、代表で一緒にプレーしたことのあるプレカネツを奇妙な契約で獲得していた。奇妙なというのは、クラドノだけでなく、エクストラリーガのブルノでもプレーすることになっていたからで、週代わりなのか、一試合おきなのか、よくわからないけど、両チームの選手として試合に出場していた。

 アイスホッケーは特に興味があるわけではないので、しかも二部リーグのことで、詳しい情報が入ってきたわけではないのだけど、シーズン当初ヤーグルの欠場が続いたころのクラドノは苦戦しているようだった。ただ、二部は15チーム中8位までに入ればプレーオフに進出できるというレギュレーションなので、よほどのことがない限り、エクストラリーガ昇格を目指すチームがプレーオフにも進出できないということはない。
 クラドノも最終的には4位に入ってプレーオフに進出した。一回戦の相手は5位のプシェロフで、二回戦の相手は1位のイフラバで、どちらも4勝1敗でクラドノが勝ち抜けた。このプレーオフではヤーグルも得点を挙げていたけど、一番大活躍したのはプレカネツで、全10戦で、13ポイント(得点+アシスト)も挙げたらしい。

 二部リーグのプレーオフでは決勝は行われず、準決勝で勝った二チームが、エクストラリーガの下の二チームと入れ替えのリーグ戦を行う。それぞれの相手とホーム、アエウェーとも2試合ずつで全部で12節のリーグ戦である。エクストラリーガから入れ替え戦に回ってきたのは、パルドルビツェとホムトフで、ホモウトフは、これも長野オリンピックに出場していたルージチカが監督を務めるチームである。

 クラドノは最初の二試合で対戦したこのエクストラリーガの二チームに連敗したのだけど、ヤーグルの言葉によればそれがよかったらしい。その後は勝ちを重ね、第十節でエクストラリーガへの昇格を決めた。その試合を一人で決めてしまったのがオーナーのヤーグルで、4ゴールも決めたのである。さすがというか何というか。入れ替えリーグの10節終了時点ではヤーグルがもっとも多くポイントを獲得した選手なのだとか。
 オーナーのヤーグルの言葉によれば、クラドノが昇格できたのは、レギュラーシーズンでの優勝は諦めて、二部のプレーオフ、入れ替えのリーグ戦に向けて調子をあげていくような調整をしてきたのが最大の理由だという。単にチームを入れ替えるのではなく、入れ替え戦が行われる以上、そこで勝たないと意味がないのはその通りである。ちなみに降格が決まったホムトフは入れ替えリーグの開始前に、チーム全体がサルモネラの食中毒に襲われて、肝心なところで必要になる体力が失われていたのが最大の敗因だという。

 これで、クラドノのエクストラリーガ復帰は確定だけれども、それがそのままヤーグルのエクストラリーガ復帰にはつながらないようだ。ヤーグルは現時点ではすべては未定だと言っているけれども、怪我さえなければまだまだエクストラリーガでも十分通用するはずである。もしかしたらNHL復帰を狙っているのかもしれないけどさ。

 このまま50歳ぐらいまで現役生活を続けていると、次の大統領選挙が行なわれる年になる。ヤーグル大統領というのも悪くない気がする。少なくとも噂されるクラウス元大統領が再出馬して当選するよりははるかにましである。ということで合言葉は「ヤーグル・ナ・フラット」である。
2019年4月21日23時50分。


 





2019年04月21日

法務大臣も交替(四月十九日)



 運輸大臣、産業大臣に続いて法務大臣も交替することになるようだ。これまでの法務大臣はバビシュ党ANOのクニェジーネク氏、新しく大臣になるとうわさされているのがベネショバー氏である。実現すればまたまた国会議員ではない民間大臣の誕生ということになる。ただ、このベネショバー氏が、かつて市民民主党のネチャス氏が、無責任に政権を投げ出したときに、ゼマン大統領がごり押しで任命した暫定内閣の法務大臣を勤めた人物で、大統領に近いと思われていることから、あれこれ批判が巻き起こっている。

 曰く、「コウノトリの巣」事件でバビシュ氏が起訴されるのを防ぐために、検察の長官を解任するためじゃないかというのだけど、その論理がいまひとつ理解できない。仮に、検察の長官の任免が、法務大臣の専権事項だというのなら、その解任のためだけに法務大臣を交替させる必要はあるまい。現職はバビシュ党の国会議員なのだから、民間人の新大臣よりも強制しやすいはずである。だから、この大臣の交替に、単なる交替以上の意味があるとすれば、検察の長官の解任以外の目的があると見る。バビシュ氏は起訴されても辞任する気はないと言っているし。
 バビシュ首相自身は、現職のクニェジーネク氏は、そもそも暫定的に選出したものだから、適任者が見つかった以上、交替するのは当然だと説明している。これに対しては、特に司法界から、司法の軽視だとして反発の声が上がっているけれども、自らの業界を特別視するような言動はどうかと思う。バビシュ政権では、外務大臣も一時期暫定的にハマーチェク氏が勤めていたわけで、暫定的な任命が、その役職を軽視しているというのは、短絡的にすぎる。

 法務大臣に関して、少し長期的なスパンでながめると、社会民主党のソボトカ氏が首相を務めていた時代も法務大臣はANOに属していた。記憶に間違いがなければ、当時はペリカーン氏が民間人大臣として登用され、その後の総選挙でANOから立候補し、下院議員になったこともあって、来るべきバビシュ内閣でも継続すると考えられていた。それが、内閣を成立させるための交渉の中で、バビシュ氏のやり口に愛想をつかして辞任してしまった。
 それでバビシュ氏が起用したのが、女性のマラー氏なのだが、学位をとった論文の盗作疑惑で辞任を余儀なくされた。バビシュ氏に倣って頑張れば特に辞任するほどの疑惑でもなかったような気もするのだけど、ANOのイメージを落とさないようにとか言って辞任してしまった。この人の疑惑でANOを見限るような支持者は、バビシュ氏の疑惑が表に出た時点で見限っているはずだから、大きな影響はなかったと思うのだけどねえ。

 とまれ、このマラー氏の辞任という緊急事態に際して、暫定で選ばれたのがクニェジーネク氏だというのである。法務大臣の地位にあって一年ほどなのだが、ほとんど目立つことはなかった。実質的な前任者のペリカーン氏が、司法関係であれこれ問題が起こるたびに、適宜コメントを出したり、テレビ局の取材に応えたりしていたのに対して、クニェジーネク氏はほとんど表に出てこなかった印象がある。だから、暫定的な任命だったといわれると納得してしまいそうになる。
 不思議なのは、これまで沈黙をまもることが多かったせいで、批判の対象になることが多かったクニェジーネク氏を高く評価する声が、突然司法の世界から上がり始めたことである。坊主にくけりゃ袈裟まで憎い的に、ありとあらゆることがバビシュ批判のためなら許されるという印象を与える。バビシュ氏がオウムのように、これは政治化された事件だと繰り返すのも見苦しいし、目くそ鼻くその争いにどちらが勝ってもろくなことになるまいという感想しかもてない。

 チェコの司法の最大の問題は、誰が大臣になるか云々にはなく、警察、検察という事件捜査に当たる組織も、裁判かんたちも、内部抗争に熱心でライバルを追い落とすためなら政治家やマスコミと組んで恥じないという点にある。もちろん政治家やマスコミの側も、その内部抗争を利用して情報をリークさせたり、事件の鎮静化を図ったりしている。そこを何とかしないと、法務大臣が誰であれ、首相が交代しようがしまいが、チェコの司法界が現状よりよくなることはあるまい。
 バビシュ批判は正しい。バビシュ氏が辞任すべきだという意見にも同調する。ただ、バビシュ氏が辞任したからといって、状況がマシになるとはいえないのが、残念なチェコの現状なのである。その点、日本の政情と似ているよなあ。
2019年4月20日18時30分。
 











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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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