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2017年05月27日
ゼマン大統領暴れる、再(五月廿四日)
ソボトカ内閣のバビシュ財務大臣の解任を巡る問題で物議を醸す言動を繰り返していたゼマン大統領が、ようやく本日バビシュ氏を解任し、ピルニー氏を任命した。その儀式に際して、バビシュ氏の功績を絶賛し、チェコでは成功者はねたまれ足を引っ張られる運命にあるのだとか何とか、首相に対する当てこすりをしていたのは、大統領の面目躍如といったところか。
首相の社会民主党では、来年の大統領選挙に向けて、独自候補を擁立することを考えているらしいが、地方組織を中心にゼマン親派が根強く残っていることを考えると、擁立はできても当選させるのは難しいだろう。上位二位が進む決選投票にコマを進められるかどうかも怪しいものである。
特に、現在社会民主党の中央の指導部が、秋の下院の選挙を前に、清廉潔白な政党であることを強調しようとして、候補者リストからバビシュ的なところのある候補者を排除する決定を下したことで、地方組織の反発が高まっている。バビシュ的、つまりは金銭的なスキャンダルが表ざたになっている政治家というのは、大抵は地方のボス政治家なので、地方組織全体が反指導部になりかねない。
かつて社会民主党としのぎを削った市民民主党は、創設者のクラウス氏が去った後、地方のボスたちの跳梁を許し中央で制御できなくなったことが原因となって党勢を凋落させた。社会民主党も、このまま行くと、地方組織の反乱で瓦解の可能性がなくはない。スキャンダルで知事を辞任したボスを候補者リストから外すように求められた南ボヘミアの組織では、候補者リストの提出を取りやめることさえ検討しているというのだから。
さて、暴れる大統領に話を戻そう。大統領は、帰国当初から囚人のカイーネク氏に恩赦を与えると発言していたのだが、財務大臣の件を処理するのと前後して恩赦の書類にサインをしてしまった。それで、カイーネク氏は収監されていた刑務所から釈放された。まるで、財務大臣の解任、任命よりもこちらのほうが大切だと言わんばかりである。
カイーネク氏は、一箇所の刑務所に長期間収監されていたわけではなく、一定の間隔を置いてチェコ中の刑務所を転々としていたらしい。それは、オロモウツ地方にある最も脱走が難しいといわれていたミーロフという山の中のお城を改築した刑務所から脱走を果たしたという実績があるためで、同じ場所に長期間収監し続けると、また脱走の方法を見つけ出すのではないかと警戒されたらしい。
因みに、カイーネク氏については、ハベル大統領も恩赦を与えることを検討したことがあるようだ。事件が起こったのが、確か九十年代の初めのことで、当時は様々な面で混乱があり、警察も多分にもれずで、カイーネク氏の事件についても捜査上、手続き上の不備が指摘されている。それが、そのまま冤罪につながるわけではないだろうが、疑われる余地が残ってしまったのは確かなことのようだ。
そして、これは中国にいた頃の話になるのだけど、ロシアのプーチン大統領との会談で暴言を吐いてしまった。気持ちはわからなくはない。バビシュ氏の解任を巡る問題で、あれこれ付きまとわれて質問されてウンザリしていたところに、チェコから遠く離れた中国にいることで開放感を感じてしまったのだろう。おまけに相手が同じような問題でウンザリしているはずのプーチン大統領だったから、つい口が滑ってしまったというところか。
ゼマン大統領、プーチン大統領に、「記者という奴らが多すぎると思いませんか」と声をかけたらしい。ここでやめておけば、不穏な香もしなくはないけれども、特に大きな問題にはならなかったはずだ。それなのに、ゼマン大統領、続けてしまったのだ。
「(多すぎる記者は)処分する必要がありますよね」とかなんとか。
さすがこいつはまずかった。記事を書くのも、ニュースを作成するのも記者である。こんなことを言われたら反発しないはずがない。言論の自由とか報道の自由とか、そんな話まで持ち出してゼマン大統領を、民主国家の大統領失格だと批判していた。
この件に対して、ゼマン大統領自身の反論は聞こえてこないのだが、大統領府の広報官オフチャーチェク氏が例によって大統領の主張を代弁した。それによるとあれは単なる冗談だったのだという。
ちょっと待てである。冗談を言われた側のプーチン大統領の気持ちを想像してみよう。欧米を中心にロシア国内で反対派を弾圧していると批判されている人物である。弾圧されて命を失ったとされる犠牲者の中には新聞記者もいる。
言う人によっては、冗談ではなく皮肉、当てこすりの類だと思われかねない。幸いにして、もしくは不幸にも、ゼマン大統領はヨーロッパの中でも親露派として知られる人物で、プーチン大統領とは個人的な関係も悪くなく、皮肉だと理解してチェコに対して抗議をするなんて騒ぎにはならなかったけど、冗談として受け取ってもらえたのだろうか。本音だと思われているような気がしてならないのである。どっちにしてもプーチン大統領も反応に困ったことだろう。
ゼマン大統領の発言を、単に失言として片付けるのは危険である。日本もそうだと思うが、インターネットの存在もあって既存の大手のマスコミに対する信頼性は、地にとまでは行かないが、かなり落ちている。それにもかかわらず、自分たちこそが社会の代弁者であり、何かの権力でも持つかのように振舞うマスコミ関係者は多い。それに嫌悪感を感じている人たちの中には、ゼマン大統領の発言に共感してしまう人もいるのではないかと想像してしまうのである。
5月25日23時。