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2017年05月23日

バビシュ財相解任?(五月廿日)



 ゼマン大統領が中国に出かけて、南京大虐殺の記念碑を訪問したりしている間に、チェコ国内では、バビシュ財相の辞任と後任を巡って新たな動きがあった。

 まず、バビシュ財相が、辞任してもいいというか、解任されてもいいと言い出したのは、すでに書いたとおりだが、その後任として、以前から噂に挙がっていた人物を正式に候補者としてソボトカ首相に提案した。最初はゼマン大統領の次の一手を待つと言っていたのだけど、批判の声の高まりにこのままではいけないと思ったのだろうか。記者会見の声が疲れていたから、やる気をなくしたという可能性もあるかもしれない。
 とまれ、バビシュ党であるANOが、推薦したのが財務省の税務部門で二十五年以上仕事をしているという事務次官(と訳しておく)の女性シレロバー氏だった。ソボトカ首相が求める専門性は確実にクリアしているし、バビシュ氏が所有していた会社アグロフェルトとの関係も、直接の関係はないようだったので、ソボトカ首相はその提案を受け入れるものと予想していた。

 しかし、社会民主党の一部の国会議員が、この候補者に異を唱え始めた。特に声が大きかったのが外相のザオラーレク氏だった。税務担当でありながらバビシュ氏のアグロフェルト社の社債の問題について調査をしていないということは、バビシュ財相べったりだということだというのがその反対の理由だった。この国は、不偏不党のはずの官僚が政党に入党したり、政党のひも付きの外部の人間がいきなり事務方のトップになったりする国なのだから、天に唾する行為だとは思わないのかね。
 以前、社会民主党の総理大臣が、何かのきっかけで意気投合した当時は医師だったダビット・ラート氏を、強引に厚生大臣に就任させようとしたことがある。法律上だったか手続き上だったかの問題があって、大臣にできないことがわかると、厚生省で仕事をしていたわけでもないのに、いきなり事務次官の地位につけてしまった。こっちも十分以上に非難の対象になる人事だと思うのだが、ザオラーレク氏を含めて、社会民主党内部からの批判はほとんど聞かれなかったと記憶する。

 アグロフェルトに対する税務調査に関しては、アグロフェルト側は、現在数件の調査が入っているところだといってザオラーレク氏の批判を否定している。またシレロバー氏は、口にできないこともあるんだけどねえと、社会民主党からの批判が的外れであることを仄めかしていた。
 結局ソボトカ首相は、党内の反対の声を無視することはできず、シレロバー氏の財務大臣就任を拒否し、ANOに別の候補者を挙げるように求めた。ANOが次に挙げたブラベツ氏もバビシュ氏に近すぎるという理由で拒否され、最終的にはANOの下院議員ピルニーがバビシュ辞任後の財務大臣となることで、首相側とANOの間で合意に達したようである。
 ただ、ピルニー氏本人は、候補者に上げられる以前に名前が挙がったときに、財務省は自分の専門とは違っているからと言っていたはずなのだが、首相の求める専門性を満たすことになるのだろうか。とまれかくまれ、ピルニー氏をバビシュ氏の後任の財務大臣にするということで、ソボトカ首相は、バビシュ氏の解任と、ピルニー氏の任命についての書類を、ゼマン大統領が中国からの帰途につくころに大統領府に提出したらしい。

 ゼマン大統領は、木曜日にチェコに帰国したのだが、中国旅行でお疲れなので、対応するのは週明けになるという。退任するバビシュ氏、就任するピルニー氏と会談をして、解任と任命の手続きをするというのだけど、素直に手続きを進めるのだろうか。
 ここ最近の言動でゼマン大領領に反対する声は大きくなっている。憲法に記載された大統領の職務を恣意的に読み替えて、大統領の権限から逸脱したことをしているのだそうだ。一部の政治家からは、チェコの大統領としてはふさわしくないことを証明してしまったのだから、来年の大統領選挙には出馬するべきではないと言う声まで上がっている。その批判が正しいかどうかはともかくとして、ゼマン大統領がその批判を甘んじて受け入れて、立候補を取りやめるとも思えない。取りやめるとすれば、健康に問題が出てきたときだけだろう。
 追い詰められた感のあるゼマン大統領が、これからどう巻き返していくのか楽しみである。ゼマン大統領は2003年の大統領選挙で惨敗して、政治生命を失って隠棲したところから復活した人である。その基盤が、政治家よりも、一般の民衆の支持にあることを考えると、このぐらいのことで再び引退に追い込まれるとは思えない。ゼマン支持者は、ゼマン氏の主義主張、言動を鑑みて支持しているのではなく、ゼマン氏だから支持しているのである。支持者の数もそうは減るまい。

 それにしても、今回の内閣の危機に関して、疑問が一つ。首相が、もしくは政治家が、ある特定の個人の経済活動に関して、脱税かどうかの調査を財務省の税務担当の部署に命ずるというのは問題ないのだろうか。制度上問題ないとして一度処理された件の再調査を求めるということは、脱税だと判断しろと圧力をかけているに等しい。それに調査しろと求めてもいいということは、調査するなと指示してもいいということにもつながる。
 問題になっているコルナ建ての社債を発行した企業は、バビシュ氏のアグロフェルトだけではないというし、社債が発行された時点の法律に基づいて処理しているともいう。ようは、税制上の抜け穴のようなものを利用した節税策のようなものだったのだろう。とすれば、企業側の倫理的な問題はおくとして、責められるべきは政治家の怠慢である。

 バビシュ財相に功績があるとすれば、それは、本人が主張するような、財政を健全化したとか、税収を増やしたとかいうところではなく、バビシュ排除を目指した政治家たちが、粗探しをし攻撃の対象とすることで、これまで見逃されてきた問題に注目が集まるようになったところにある。コウノトリの巣で問題になったEUの補助金だって、今回の社債と税金の問題だって、関係するのはバビシュ氏だけではあるまい。
 そんなこれまで等閑視されてきた問題が、注目を集めたことで、改善されるのなら、チェコという国にとっては、バビシュ氏が政界に進出したことに大きな意味があることになる。ただし、現時点では、ほとんどバビシュ攻撃に留まっていて制度の見直しには、ほとんどつながっていないのだけれども。
5月22日20時。






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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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