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2017年04月23日

森雅裕について、再び(四月廿日)



 四月に入ってからのブログのページ別のアクセス数を見ていたら、何でこんなページにと言いたくなるページに、たくさんのアクセスがあることに気づいた。一つは、去年の三月か四月にネタがなくなってきたので、備忘録的にあれこれ記入したメモ書きのような記事で、もう一つが、まだブログというものに慣れていなかった頃に書いて、何度か書き直そうと思ったこともある森雅裕についての記事だった。
 なんで今頃になってと不思議に思って検索をかけてみたら、「森雅裕」で検索した一ページ目にこの記事が出てくるのだ。一時期森雅裕情報を求めて覗いていた「森雅裕を見ませんか」より先に出てくるのは間違っているような気がする。ただ久しぶりに行ってみたら、2007年以来更新されていないという。そうか更新されないのにがっかりして、閲覧しなくなって存在すら忘れていたわけだ。最後に入手した『トスカのキス』と『雙』の刊行はこのサイトがきっかけだったはずなのだから、いわば恩人の存在を忘れるとは、ヤキが回ったものだ。

 それで、ついでなのでアマゾンの森雅裕の著者ページを見たら、新刊で手に入るものが、最新刊の『高砂コンビニ奮闘記』だけで、他は軒並み中古の本の出品になっていた。最後に出版社から商業出版した小説となると『化粧槍とんぼ切り』になるわけだから、すでに四半世紀以上たっていることになる。仕方がないと言えば言えるのか。復刊ドットコムで2015年に復刊された『モーツァルトは子守唄を歌わない』も『ベートーベンな憂鬱症』もすでに新刊本の取り扱いはないようだし。
 この手のページを見たときに、ついついやってしまうのが、読者が書いた書評を呼んでしまうことで、こんかいも時間がないとおもいつつやってしまった。本の内容について感想を書いている人だけではなく、出版社や編集者とぶつかって仕事が来なくなったとか、干されたとかいうことを書いている人が多いのは、やはり森雅裕の熱心な読者が書いているからだろう。

 ただ、気になったのが、喧嘩した相手として名前が挙がるのがいつでも講談社であることだ。講談社の編集者との確執は有名なところだけど、その前に、この人、横溝正史賞の佳作か何かをもらって出版デビューした角川書店とももめているはずである。
 実は、乱歩賞を取って出版された『モーツァルトは子守唄を歌わない』が、デビュー作だとずっと思いこんでいたのだが、古本屋を巡りに巡ってやっとのことで発見した『画狂人ラプソディー』の「著者の言葉」を読んだら、「この作品でデビューするのが念願だった」とか何とか書いてあってびっくりしたのを覚えている。どうも、出版社側でこの作品を出版するかどうか決めかねていたところ、乱歩賞受賞という話が出てきて、乱歩賞の作品が刊行される前に出版することになったようだ。
 角川書店二冊目の『サーキット・メモリー』には、「本来ならもっと早く出版されるはずだったのだが、諸般の事情で遅れた」というようなことが書かれていた。だから、『歩くと星がこわれる』に出てきたデビュー当時の事情は、講談社だけではなく、角川で出版したときの経験も混ぜられているのではないかと推測する。

 業界暴露本なんて言われることもある『推理小説常習犯』にも、この辺りのことはあまりはっきり書かれていないので推測するしかないわけだけれども。講談社なんてデビューから六冊は毎年一冊以上出版したわけだから、二冊でやめてしまった角川に比べれば、まだましな扱いだったんじゃないだろうか。「期待の大型新人」とか書かかれた作家の本の出版を、作家をやめたわけでもないのに、二冊でやめるというのは、何か特別な事情があったに違いない。

 森雅裕の読者にとって一番ありがたい出版社である中央公論社の場合には、社長一族のやりたい放題で経営が悪化しなければ、もう少し出版し続けてくれたのではないかと思う。噂によれば父親の跡を継ぐことになっていた御曹司の出来が悪くて経営は悪化をたどる一方だったというし、そんな中で、読者を選ぶ森雅裕の小説の出版を続けることは難しくなったのだろう。『推理小説常習犯』では、いきなり手のひらを返されたと書いていたけれども、あの時期の森雅裕の本の刊行状況を見ると、大量に売れる本を出すように求められた編集者が頑張り切れなくなったというのが真相じゃなかろうか。

 出版社にとって、森雅裕の作品の扱いが難しくなる要因の一つは、露骨なまでに実際の事件や、実在の人物などをモデルにしてしまうところだろう。それはそれで一つの作品の作り方だとは思うけれども、そして読者にとっては面白ければいいわけだけれども、出版社の側が二の足を踏んでしまうのも理解できる。フィクションとは断ってあっても、モデルにされた側がそれで納得するとは限らない。
 初めて『サーキット・メモリー』を読んだときには、正直、いいのかこれと思ったしね。だから森雅裕のバイク小説としては、『マン島物語』のほうが安心して読めるのだ。これにも最後のほうに実在の人物をモデルにした人物が出てくるけど、せいぜい狂言回しの脇役だから、気になるというほどではない。

 そういう気になる部分があってなお、森雅裕の小説は、我が人生に欠かせないものになっている。最近ソニーのリーダーを持ち歩くばかりで、紙の本を読む機会が減ったとはいえ、折に触れては読み返してしまうのである。また『モーツァルトは子守唄を歌わない』から読み返しつつ、思い浮かぶことどもを、うまく書けるかどうかはともかく、いずれ書いてみようか。
4月21日18時。



 古本屋によっては定価よりも高くなっているところもあるようで、変な言い方だけど安心した。4月22日追記。

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posted by olomoučan at 06:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 森雅裕
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