2018年08月01日
五日目其の二、あるいはホモウトのビールは美味しい〈LŠSS2018〉(七月廿七日)
工場見学の予約は午後4時から、われわれがついたのは15分ほど早く、しばし待たされることになった。醸造所の付属するレストランでは結婚式の後の披露宴みたいなのが行われるようで貸切で準備が行われていて、われわれが待っている間にケーキが運ばれてきたり、新郎新婦が到着したりしていた。物見高いというと怒られるかもしれないけれども、女性たちは花嫁さんの様子について、ああだこうだコメントしていたが、そういうのに関して感想を男に求めないでほしい。
待っている間、近くにポーランド人4人のグループがいて、あれこれ楽しそうに話していたので、うちのクラスのカロリーナもいたし、ポーランドのどこから来ているのか質問したら、ワルシャワ、クラコフ、カトビツェという答えが返ってきた。もう一人はというと、チェコ語でコストニツェ、より知られた名前で言うとコンスタンツの出身だという。待て、それポーランドじゃないよな。チェコの宗教改革者ヤン・フスが火刑に処された町の出身だというこの娘は、実はポーランド人ではなくドイツ人だという。
もう一度待てである。今そこのポーランド人たちと、普通にポーランド語で話していただろ。チェコ語とポーランド語の違いについてあれこれ議論していたじゃないか。ポーランド語が理解できるわけではないけど、音の響きはチェコ語ではなくポーランド語にしか聞こえなかったぞ。いや、外国人が頑張ってしゃべるスラブ語には聞こえなかったぞ。なんてことをつらつらとまくし立てたら、ポーランド人たちも、わかるよその気持ちといわんばかりの顔で、自分たちも最初に話したときには、ポーランド人だと思ったと教えてくれた。そればかりかチェコ語の授業中に発音がポーランド語なまりになっていると指摘されるらしいから、そのポーランド人化ぶりはすさまじい。
本人は、ポーランド人と間違えられることを喜んでいるようだし、ドイツ人よりもポーランド人のほうにシンパシーを感じるみたいなことも言っていたから、ポーランド語をマスターするために不断の努力をして、ポーランド人とまがうぐらいまでできるようになったのも本人にとっては当然のことなのかもしれない。語学に限らず勉強に対するモチベーションの強さと、モチベーションを維持できる強さというのは何よりも大切なのである。それとも、ドイツ人の中にときどきいる語学の天才なのだろうか。いずれにしてもうらやましいことである。
そんな馬鹿話をしていたら案内をしてくれる醸造所の人、共同オーナーの一人といっていたかなが現れて、レストランの中庭のザフラートカのあるところに接した建物の二階に招き入れられた。意外と言うか何と言うか、もう少しそれっぽい建物のを期待したのだけど、これでは田舎の民家によくある作業用の物置みたいな建物と大差がない。いや、実際にはその物置のような建物を改装して醸造所にしたというのが正しいのかもしれない。
最初に入った部屋は、ビールの原料の一つ麦芽の倉庫だった。さすがに麦芽の生産は自社ではやっておらず、ピルスナータイプの麦芽はプロスチェヨフの麦芽工場から、カラメル化させた麦芽は製造方式の違いからドイツのミュンヘン産の麦芽を使用しているという。麦芽という言葉を聴くと、漢字から麦を発芽させたものというイメージを持ってしまうが、発芽させてはならず、発芽のために、種子の中にある澱粉を糖に変える働きをする酵素は活動するけれども、発芽はしない状態にするのが大切らしい。
その後の酵素の働きを止めて麦芽として製品にする段階での処理のやり方で、麦芽そのものの味わいも変わるんだといって、全部で6種類の麦芽を「試食」させてくれた。どれもほんのりと甘く、澱粉が糖化されたんだという言葉に納得してしまう。個人的には黒ビール用の真っ黒に焙煎された麦芽が、麦茶の風味を思い起こさせて美味しかった。この黒麦芽はコーヒーの手に入りにくかった時代には代用コーヒーの原料として使われたという話である。麦芽に関してはチェコでは二条大麦を使うけれどもアメリカでは六条の奴を使うという話もあった。
以前見学したリトベルの工場では麦芽の話はまったくといっていいほどなかったし、以前麦芽を生産していた建物を改修して工場見学に来た人の試飲会場にしていた。そこにかつて麦芽を生産していた頃の様子を写した写真とか簡単な説明の文章なんかはあったかな。だから今回麦芽についていろいろ知ることができたのである。知らない業界用語が出てくるかもしれないけどと案内の人言っていたが、特に理解できないような言葉はなかった。
その後の二つの工程は特に目新しいところはなく、特に発酵の工程は雑菌が入ると困るからと外から窓越しにのぞくだけだった。しかも熟成用のタンクに移したばかりだったのか窓から見えた発酵槽は空っぽだった。
最後の熟成用の蔵は、リトベルが地下、もしくは半地下になっていたのとは違って、普通の地上一階にあった。ただ気温が2度で一定になるように保たれているらしい。リトベルは1度といっていたような記憶がある。そして、この熟成用のタンクが6つ並んだ部屋で、試飲が始まった。事前に配られたガラスコップに自分で好きなタンクから少量ずつ注いで飲み比べてみろというのである。ほぼ塾生が終わりかけたものから、始めたばかりの物まで、ビールも普通のラガーだけではなくエールタイプのものもあった。言って見れば、商品になる前の段階のビールを試飲させてもらえたというわけである。
隣の部屋にも3つタンクがあって、最初の部屋は1つからのタンクがあったから全部で8つの黄金の液体を試飲できたのだが、飲んだ瞬間には違うと思っても、その違いを言葉で表すのが難しい。グルメ系のレポートは書けそうもない。そういえばホップの味わいについても、あれこれ果物なんかにたとえて説明してくれたけど、ぴんと来なかったしなあ。
案内の人の話ではホモウトで一番評価の高いビール、黒ビールのシュバルツはちょうど熟成が終わって出荷したところで試飲できなかった。だから、言われたとおりに見学が終わったらザフラートカで一杯シュバルツを飲んでから帰ることにしよう。夕食もとるかもしれないけど、くそ暑かった一週間の終わりに美味しいビールを飲むのも悪くない。バスに乗って帰らなければならないのが少々不安ではあるけれども。
2018年7月30日12時05分。
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/7947352
この記事へのトラックバック