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2018年04月09日

バビシュ連立内閣不成立?(四月六日)



 一月ほど前から、社会民主党が、ANOとの連立の交渉に入り、共産党も連立はしないけれども内閣の信任に賛成票を投じてもいいという姿勢を見せていたので、ANOと社会民主党の連立与党と共産党の閣外協力によって、バビシュ政権が成立しそうな状況だった。それが連立交渉に於いて、社会民主党が国会銀の数の比からすると多すぎるほどの大臣ポストと、重要な財相、内相のポストを要求して、警察の捜査の対象になっているバビシュ氏が首相になるのを認めるのとバーターだといわんばかりの交渉をした結果、交渉は決裂して、社会民主党のハマーチェク党首が交渉の終了を宣言するにいたった。
 ANO側も、バビシュ氏とその右腕のファルティーネク氏に対する捜査に介入する可能性があるから、内相の座を渡せという社会民主党の主張に対して、そんなことはありえないと断固拒否するなどかなりかたくなだった。チェコでは政治的に理由で警察に特定の人物を捜査の対象にするように注文できるというのが、例のコウノトリの巣事件に対するANOの主張だったのだから、内務大臣ほど政策捜査を指示するにふさわしい役職はあるまい。

 社会民主党が、それまでの主張を変えて、ANOとの連立に向けて動いたのは、二月の臨時党大会で新執行部が誕生し、ゼマン大統領よりの路線に舵を切りなおしたというのが大きい。社会民主党では、それに加えて、事前の下交渉でANO側が政策面で大きく譲歩したことを理由としてあげていた。そういえば信任を得ないまま積極的に、野党に言わせればその権利のないまま、さまざまな政策を実現に移しているバビシュ内閣に政策を盗まれたなんて主張をしていたのは社会民主党ではなかったか。
 その盗まれた政策というのが、確か、高齢者と学生に対する長距離バス、鉄道などの運賃補助である。これは社会民主党のというよりは、またまたスロバキアのフィツォ政権のまねで、スロバキアでは高齢者と学生は無料で鉄道に乗れるのである。自分も実際に活用したというH先生の話では、高齢者の無料化はスロバキア人だけではなく、外国人にも適用されるらしい。バスが無料化されているかどうかは定かではないのだけど、バビシュ政権では当初はこの完全無料化を検討していたらしい。

 現在でも高齢者、学生に対する運賃の優遇策は存在している。それを、高齢者の場合には割り引き幅を拡大することで、学生の場合には日本の定期券と同じで通学のための区間にしか適用できなかった学生割引運賃をどこでも使えるようにすることで、公共交通機関の利用を促すという目的があるらしい。本来の運賃との差額は、国から運営会社に支払われることになるから、その分国庫の負担は大きくなる。
 ただし、この割引制度は完全に無制限に使えるというわけではなく、割引料金を適用できる便を運営会社が指定するという形になるという。朝夕のラッシュ時の混雑する便は適用外にして、昼間のすいている便の利用を拡大しようということらしいが、会社側でも実際の運用がどうなるかはわからないというコメントを出していた。

 ANOがポピュリスト政党であるのは今更いうまでもないことだが、社会民主党もこれはうちが先に主張していた政策だなんて、ANOをポピュリストだと批判する権利があるとは思えない。次の選挙に向けてどの政党も必死なのである。市民民主党が支出が増えるだけで何ももたらさないと主張しているのに賛同する気はないが、政府が自画自賛するほどすばらしいものでもないと思う。少なくともプラハ在住の人が、最近車が増えすぎて渋滞がひどいと嘆くプラハの状況が改善されることはあるまい。
 今回の政策はプラハなどの市内公共交通機関は適用外である。適用外なのはすでに高齢者の無料化も通学定期で通学区間以外のトラム、バスに乗れるというのも実現しているからである。自治体によっては高齢者に限らず運賃の完全無料化を実施しているところもある。運賃をとっても取らなくても市の交通局が大きな赤字で市の予算からお金を出して営業を続けていかなければならないことには変わりがなく、無料にすることによる市民へのサービス向上と、公共交通機関の利用が増え自動車の使用が多少減ることを考えると、切符の販売や検札などの手間も省けるし、無料にしてしまったほうが効率的だという判断らしい。市内在住者だけを対象にした割引を導入して批判を浴びていたところもあったなあ。

 閑話休題。

 そんな、政策面では社会民主党に譲歩したといわれるANOだったが、連立の交渉ではほとんど譲歩せず、バビシュ氏以外の首相とか、社会民主党の要求にANOが飲むとは思われないようなものが含まれていたこともあって、連立交渉は頓挫した。アリバイ作り的に交渉に臨んだ面もあるような気がしてならない。これは両方ともね。ANOも他の党から、これまでまともな連立の交渉をしていないと批判されていたわけだし。
 前回の選挙の後のソボトカ内閣の成立にも長い時間がかかったことを考えると、ANOの連立の交渉というのは、1990年代からチェコの政界にはびこる交渉のやり方とは一線を画しているのかもしれない。それがまた既存の政党をいらだたせているのだろうか。社会民主党や市民民主党が、自分たちが主張しているほど、ANOよりマシだとは思えないのだけど、ANOやオカムラ党の存在で、かつては既存の政党を批判していた自らの正しさに酔いたいインテリ層の支持を集めやすくはなっているのかな。それはともかく、現時点でダントツにまともな国政政党は、海賊党だという予想外の事態が発生しているのである。

 社会民主党との連立の可能性がなくなったANOがバビシュ氏への信任を獲得するためには、共産党とオカムラ党を頼りにするしかないという状況になったのだが、オカムラ党との連立はANOとしても避けたいところだろうし、これは解散総選挙ということになりそうである。
 それに、ANOへの閣外協力を表明していた共産党も態度を変えつつあるのだった。こちらはプラハで逮捕されたロシア人のコンピュータ犯罪者をアメリカの要求によってアメリカ側に引き渡す判断を、法務大臣が下したことが気に入らないらしい。このロシア人はロシアでも犯罪者として指名手配されておりロシアからも身柄の引渡し請求が来ているのにアメリカに渡すとはどういうことかというのである。共産党の人たちは、今でもロシア革命の聖地ロシアへの信仰を捨てられないようである。日本の共産党もそうなのかね。

 とまれかくまれ、今年の秋に行われる可能性が高くなってきた下院の臨時総選挙では、ANOと海賊党が第一党の座を争いオカムラ党が第三党になると予想しておく。
2018年4月6日24時。



 チェコではないけど……。

ドイツ社会民主党の社会化論 [ 小林勝 ]







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