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2018年02月27日

金のレデツカー(二月廿四日)



 日本のマスコミでは、末尾が短くなって「レデツカ」と表記されるようだが、形容詞型の名字であるから、正しくは「レデツカー」である。オリンピックの表彰式で韓国の人が「レデッカ」と促音化させていたのに比べればましだけどさ。ちなみにチェコではチェコ語以外のスラブ系の名字であっても、形容詞型の名字はチェコ風に女性形に変えてしまうので、混乱することがある。ポーランド系デンマーク人のテニス選手ウォズニアッキは、チェコではウォズニャツカーと呼ばれている。

 今朝も起きたら金メダルだった。もちろんアルペンスキーのスーパー大回転で衝撃の金メダルを獲得したレデツカーが、本職のスノーボードでもパラレル大回転で金メダルを取ったのである。これでチェコは今大会七つ目のメダルで、そのうち六つを女子選手が獲得している。金メダルは二つともレデツカーで、銀は二大会連続で金メダルを獲得していたスピードスケートのサーブリーコバーと、唯一の男性メダリスト、バイアスロンのクルチュマシュ、銅メダルはバイアスロンのビートコバー、スピードスケートのエルバノバー、スノーボードのサムコバーが獲得した。
 チェコで話題になっているのは、この6人のメダリストのうち、クルチュマシュ、エルバノバー、サムコバーの三人が、ブルフラビーという、リベレツの近くの山間部のシュコダ自動車の工場があることでも知られる町の同じ小学校の出身で、サムコバーとエルバノバーにいたっては同級生だったという話である。そして、レデツカーはそこから山を一つ越えたところでスキーを始めたなんて話もあって、このリベレツ地方というのがチェコのウィンタースポーツの中心であることを反映している。ウィンタースポーツってのはどこでもここでもできるものでもないしね。

 レデツカーの父親のレデツキーの話では、今大会はスノーボードでメダルを目指し、アルペンスキーは次の大会で優勝争いをするための布石だったのが、これまでのワールドカップの大会よりもいいスキーがメーカーから提供されたこともあって、優勝してしまったのだという。だから、次のオリンピックもレデツカーがアルペンとスノーボードの両方で出場し有力なメダル候補となることは間違いない。アルペンスキーの側では、スケジュールにもよるのだろうけど、出場種目を増やしてくる可能性もある。
 そして、どこまで本気なのかはわからないし、計画がどこまで進んでいるのかもわからないのだが、夏のオリンピックに挑戦する計画もあるらしい。競技は、同じように板を使うウィンドサーフィンだという。今すぐどうこうという話ではないにしても、レデツカーならいつかは実現してしまいそうな気がする。

 夏のオリンピック出場となれば、もう一人のレデツカーと対面というか、オリンピックでの共演も可能になる。それは、女子水泳の自由形の女王ケイティ・レデッキー(日本版ウィキペディアの表記)のことで、このアメリカの水泳選手は実はチェコ系のアメリカ人で、チェコでは女性形のレデツカーという名字で知られている。先祖はプラハに住んでいたユダヤ系のチェコ人で、確か祖父(曽祖父かも)が第二次世界大戦後の共産党のクーデターに際して、アメリカに亡命したのだという。
 レデツキーという名字はチェコでもそれほど多いものではなく、何らかの血縁関係はありそうだとはいうけれども、父親の歌手レデツキーがユダヤ系だという話は聞いたことがないし、せいぜいが遠い親戚ということになるのだろうか。それでも、二人のレデツカーが同じオリンピックに出場するとなると、少なくともチェコでは大きな話題になるのは間違いない。
 チェコとアメリカで、同じレデツカー(男性形はレデツキー)という名字のスポーツ選手が活躍していることを考えると、レデツキー家にスポーツ関係の才能が遺伝するのではないかと考えたくなるけれども、チェコのレデツカーの運動の才能はむしろ母がたの血じゃないかと父親のレデツキーが語っていた。アメリカも事情は同様らしい。

 レデツカーの快挙に感じさせられるのは、本人の才能と、努力に両親を中心とする周囲の人たちの支援が見事にかみ合った幸せな事例だということである。バイアスロンやジャンプなどチェコで伝統に盛んな競技の場合には、代表チームが組織され、選抜された代表選手たちが代表の監督コーチに指導を受けながら、ワールドカップや世界選手権、そしてオリンピックに出場するという形をとる。それに対して、今回のレデツカーは個人で契約しているコーチたちとオリンピックに乗り込んだ。
 スノーボード側にはアメリカ人のコーチを中心にしたチームがあり、アルペンスキーの側ではチェコのバンク兄弟を中心にしたチームがレデツカーの快挙を支えていた。その二つの支援チームの間に立って全体を統括するチーム・エステルのマネージャー役を果たしていたのが母親で、私設応援団長としてゴールで待ち受けるのは父親の役目だった。
 その父親も、キャリアの最初のほうでは資金援助をしていたはずだし、歌手としての知名度が個人スポンサーを獲得するのに役に立ったであろうことも想像に難くない。このレデツカーの存在は、結果もそうだけれども、その選手としての成長の過程、活動そのものも奇跡的な存在なのである。ちなみにユニフォームのデザインをしたのは兄だというから、家族全体でレデツカーの活動を支援しているわけである。これもまた幸せな話である。
2018年2月25日24時。




 


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