2017年09月09日
大学無償化追加(九月六日)
もう一点ふれておくべきことがあった。高校や大学の無償化の目的の一つは、学歴によって固定化されつつある富裕層と貧困層の格差を減らそうということであろう。三十年以上も前から、過度の学歴重視というものが、批判され問題視されていながら、改善されたようには見えないし、最近では問題視すらされていないように見える。
問題は、この大卒を重視しすぎる風潮への対策として(対策ではなかったのかもしれないけど)、大学の入口も出口も広げてしまったことにある。その結果、大卒の肩書を持つ人間が増殖し、それにふさわしい知識、能力を身につけていない者がいるという事態が起こってしまった。
すでに三十年ほど前のバブル期に、学生側の売り手市場だったせいで企業が焦って学生の確保に走った結果、使い物にならない新入社員を大量に抱えて困っているなんていう話が学生にまで聞えてきていた。大学の数が今ほど多くなく、大学に入るのも卒業するのも今ほど簡単ではなかった当時にしてこうだったのだから、現在の状況も推測できそうである。
就職活動に関するノウハウが研究され、マニュアル本が大量に刊行され、多くがそれに従って就職活動をするというのも、正直いいことだとは思えない。それに、底辺ランクの大学の学生が就職活動で、上位の大学に伍していけるとも思えない。となれば、大学の数を増やしたことは何の対策にもなっていないことになる。
ならば、文部省、いや国のやるべきことは、大卒という肩書を判断基準に使わないことである。かつての司法試験のように、あらゆる国家試験から学歴条項を取っ払ってしまえばいい。そうすれば、経済的な事情で大学に行けなくても、勉強しようという強い意志さえあれば、官僚にだって医師にだってなれるようになる。実際に独学で医師試験に合格するのは難しかろうが、門前払いになっているよりは、はるかにましである。
医師資格について言えば、現在パラツキー大学の医学部で勉強している学生たちは、大学を卒業して、チェコで医師として働けるという登録が許可されてからでないと、日本の国家医師試験を受けられないことになっている。問題はその日本側が求める資格、書類が、チェコ側のどれに当たるのかがわからないことで、卒業してチェコの医師会に登録をしたはいいものの日本の医師試験を受けられるのかどうか不安がっている人もいた。
そこで、学歴条項を取っ払ってしまえば、パラツキー大学の医学部を卒業した時点で、いや、卒業する以前にも国家医師試験を受験することができるようになる。合格するかどうかは、ただただ本人の努力次第である。
パラツキー大学もそうだが、外国の医学部に通うという決断をした人たちの多くは、経済的な理由による。日本の医学部に支払わなければならない金額を貯めるのは不可能だったから、日本に比べれば廉価に済むチェコの大学に来ているのだ。こういう経済的な問題を抱えながらも、自分の意志で勉強しようと考えるだけでなく、実行している人たちにこそ支援は与えられるべきである。
学歴による規制をなくすという支援が行われれば、無理して大学に、場合によっては日本の大学に行く必要はなくなる。大学で四年間みっちり勉強した人のレベルに、独学で到達するのは至難の業であろうが、学生という身分を盾に遊び暮らした連中を追い抜くぐらいなら、仕事をしながらでも大して難しいことではあるまい。もちろんちゃんと意欲を以て独学できる人に限るわけだけれども。
そうなると、将来的には、一般企業の採用からも大卒の条件を外したほうがよさそうだ。現在は大卒というのが一つのフィルターになって、応募者の数を減らしている面があることを考えると、共通一次的な就職のための試験を導入してもいいかもしれない。一般教養と外国語、それに専門的な知識を問う専門分野別の試験を準備して、受験生は必要な物だけ受ければいいということにする。企業の側は志望者に対して、この分野でこれ以上の成績の人の中から選抜するなんてことにすればいい。分野は一つにしないで組み合わせてもいいし、大学入試で使われた傾斜配点なんてのをやってもいいだろう。そうすれば、膨大な数の学生が押し寄せる現状よりはましにはなるまいか。
問題は、文学とか実際の企業での仕事には役に立たない専攻の人気がますますなくなることだろうか。まあ、文学なんてものは、昔っから何の役にも立たないごくつぶしのやる贅沢だと決まっているのだし、就職を棒に振ってでも文学やりたいっていう酔狂な輩はどんな時代にも一定数いるものだ。そんな連中は、いい会社に就職したいなんてことは考えもしないから、まともな就職ができなくても実害はない。
本気で貧困と、貧富の格差の固定を何とかしようと考えているのなら、学歴がその原因になっているというのなら、これぐらいのことはしてほしいものである。コネしかない無能な学生を排除することもできそうだし、そんなのは親の金を食いつぶしていけばいいわけだしさ。政治の世界でも二世議員、三世議員には、能力をチェックするための試験を課すぐらいのことはしてもよさそうだなあ。
以上、所詮は異国の地からの妄言の類ではあるけれども、久しぶりに日本語で日本について頭を使って書いたので疲れてしまった。
9月8日13時。
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