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2023年01月30日

ワシ考



 チェコ語で小型の猛禽類を表わす言葉がsokolなのに対して、大型のものはorelと呼ばれる。こちらは、幸いなことに、日本語のワシと、意味だけでなく使い方でもほぼ対応している。つまり、一般的には「ワシ=orel」で、具体的な種名を表わすときに、日本語ではワシの前に、チェコ語では後ろに言葉を付け加えるのである。

 だから、お気に入りのテレビドラマ「チェトニツケー・フモレスキ」に、大きなワシの剥製が出て来て、それを盗んだ犯人が誇らしげに、「単なる鳥じゃなくて、orel mořskýなんだ」と叫ぶのを聞いたときに、何も考えずに、ああウミワシ(mořskýは「海=moře」からできた形容詞)かと思ったのだけど、今回調べてみたら、ウミワシというのは、「海岸や水辺にすみ、魚を主食としているワシ類の総称」(『日本大百科全書』)だというではないか。
 では、orel mořskýの日本名はというと、オジロワシのようだ。これが「mořský」ではなく、「běloocasý」(「白い=bílý」+「しっぽ=ocas」)だったら、直訳できて最高なのだけど、世の中、そううまくはいかない。その点、ハクトウワシは、orel bělohlavý(「白い=bílý」+「頭=hlava」)なのでありがたい。問題は、北米の鳥なので、チェコ語日本語の通訳で使う可能性がほぼない、あっても動物園に行ったときぐらいだということだろうか。動物園、植物園で通訳したいかと聞かれたら、答えは否だけど。

 他に日本語とチェコ語がほぼ対応しているものとしては、今回辞書を引くまで知らなかったけど、「カンムリワシ=orlík chocholatý」がある。orelではなくて、指小形っぽいorlíkなのはおくにしても、後ろに置かれている形容詞「chocholatý」は「冠羽のある」という意味である。問題は、形容詞も、そのもとになった名詞「chochol」も今まで存在を知らず、これからも使う機会がなさそうなことだ。普通「カンムリ」で思いつくのは、通貨名としても使われる「koruna」なのだけど、こちらは本来「王冠」を指すもので、形容詞は王権に結びつくような意味が出てくるから避けられたのだろうか。korunní princなんて皇太子になっちゃうしさ。
 それに対して、直訳すると「王のワシ」となる「カタシロワシ=orel královský」というのもあるけど、こちらは「ワシの中の王」、つまりは「最大のワシ」もしくは「最強のワシ」とでも解釈するべきだろうか。
 対応の仕方が、惜しいのが、「オナガイヌワシ=orel klínoocasý」で、形容詞「klínoocasý」は、尾が楔(klín)のようになっていることを意味しているから、「オナガ」に似ていると言えなくもない。ただ、単なる「ワシ」ではなく、「イヌワシ」になっているのも減点で、イヌワシ自体は、orel skalníなので、日本語からすると「イヌ」はどこに行ったと言いたくなる。ちなみに「skalní」は岩(skála)からできた言葉なので、岩場に多いワシということだろうか。

 以上、ワシはタカよりはわかりやすいというか、日本語と対応させやすいということはおわかりいただけるだろう。せっかくなので、最後にウィキペディアなどで確認できたワシの仲間の日本名、チェコ名の対応を、上に出てきたものも含めて挙げておく。

  アシナガワシ orel křiklavý
  イヌワシ orel skalní
   コシジロイヌワシ orel damaní
   オナガイヌワシ orel klínoocasý
  オオワシ orel východní
  オジロワシ orel mořský
  カタシロワシ orel královský
  カラフトワシ orel volavý
  カンムリワシ orlík chocholatý
  ハクトウワシ orel bělohlavý


※『日本大百科全書』の引用は例によってジャパンナレッジより。





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