2019年06月04日
チェコの危うい外交(六月二日)
すでに、半月以上前の話になるのだが、これまでにも騒ぎを起こしている共産党の下院議員のズデニェク・オンドラーチェク氏が、ウクライナに、ウクライナはウクライナでも東部の、ロシアに支援された分離派が支配している地区のドンバスを訪問して公式行事に参加したらしい。この問題に関して単純にウクライナ=善玉という評価には組みしないが、さすがにこれはまずいだろう。日本も確か元首相がロシア占領下のクリミア半島に出かけるなんてことをしていたけど、それと同じぐらいの愚行である。
当然、ウクライナ側からは公式の抗議が届いているようで、外務大臣はチェコの恥だと強く批判している。国として認定されていない紛争地域に、国の外交的立場を無視して、国会議員が出かけていくというのは、非難されて当然である。本人は個人的な旅行で出かけたと主張しているようだけど、個人的な旅行を、独立を目指す武装勢力に悪用されたのが問題だということがわかっていないようだ。式典ではチェコの国歌まで演奏されたというから、宣伝目的としか思えない。我々を支持するチェコの国会議員がいるのだなんてね。
理解不能なのは、オンドラーチェク氏が共産党の党首にもドンバスを訪問することを知らせていなかったことで、さらに理解できないのは、共産党の党首がそれを批判する気はないと公言していることである。その結果、共産党の指示なしには政権運営が不可能な与党ANOと社会民主党も、オンドラーチェク氏の起こした問題について、国会で取り上げる気はないようである。社会民主党のハマーチェク氏は、連立内閣で話し合うべきことは山のようにあって、その中にオンドラーチェク氏の件を入れる余裕はないなんてことを言っている。
しかし、よく考えてみれば、これって、バビシュ氏の息子がクリミア半島に出かけた、もしくは出かけさせられたのより、大きな問題である。クリミア半島に関しては、国際的な問題をおけば、ロシアではすでにロシアの領土として組み込んでしまったわけだから、自由にとはいかなくても外国人でも入れるようになっているだろうことは予想できる。
それに対して、ドンバスはロシアに併合されたわけでも、ロシアによって独立国として認定されたわけでもない。そうすると、入国に際して特別な方法が必要になったはずである。戦闘継続中のウクライナ側からは入国できそうもないから、ロシア側から入ったのだろうが、ロシア政府の特別な許可、特別な支援なしには不可能だったに違いない。その不可能を可能にしたのが、オンドラーチェク氏のチェコの国会議員という肩書だったということを考えると、個人的な旅行だというのは、個人的な旅行に国会議員としての職権を悪用したと自ら認めているに等しい。だから、ただの非難だけでなく、何らかの罰が与えられてしかるべきだと思うのだけど……。
どうして共産党は、共産党のソ連帝国が倒れた結果成立したプーチン朝ロシア王国を支持するのだろうか。極右のチェコ民族主義を掲げる連中がネオナチとつるむのと同じぐらい疑問である。そんなところも極右と極左の共通点なのだろう。
それから、これももう先月の話だが、社会民主党のザオラーレク元外務大臣を中心とする国会議員のグループが、北朝鮮を訪問していたことが発覚した。アメリカと北朝鮮の交渉が決裂して、国際社会が北朝鮮への制裁を強めようとしている中、のこのこと出かけていくのは、EUやNATOの外交姿勢に反するのではないかと、問題にする人がいたようだ。
これに対してザオラーレク氏は、北朝鮮がアメリカをはじめとする国際社会の要求である核の廃棄を受け入れるように説得したというのだが、具体的に金王朝三代目に会えたのかどうかとか、誰と会合したのかなんて話は全く出てこない。北朝鮮側では、アメリカとの交渉がうまくいくことを前提にチェコの外交団を受け入れたものの、うまくいかなかったために当初の予定とは違って、あれこれキャンセルになったんじゃないかという気もする。ちゃんとした会談が行われていればその時点でニュースになったはずだけど、後日になって実は行ってきたんだという話が漏れてきただけだし。
何をしにかわからないけどチェコの代表団が北朝鮮に出向いた甲斐はあったのだろうか。チェコは、旧共産圏でも珍しく北朝鮮との公式の国交を維持している国の一つである。だから、ドンバスに出かけていくよりは、はるかに根拠のあることなのは確かだが、時期がよくなかったということだろうか。トランプ大統領の逆鱗に触れなければいいけどねえ。
これもよくわからないのが、外務大臣とこの件について相談した結果、チェコの外交活動の一環として北朝鮮訪問をしたのか、国会議員の特権の一つである外遊として外務省とは関係なく出かけたのかということである。何か、今のチェコの政界って、大統領も含めて、それぞればらばらに外交しようとしているようなところがあって、いずれ大問題になるような気もする。
そう考えると、EU側がチェコ政府に鈴つけようとしてあれこれちょっかい出してくるのもわかるというものである。
2019年6月3日22時。
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