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2019年06月01日

政治という名の喜劇(五月卅日)



 先日、批判にさらされていた文化大臣のスタニェク氏が、辞任を表明したという話は書いた。まだ五月中旬だったのに実際に辞任するのは五月の末日だというので、月末なのは切りがいいからかという思いと同時に、EU議会の選挙が終わったら撤回する気じゃないかという疑念が脳裡をかすめた。さすがにそんなことはないだろうと思ったので、口には出さなかったけど。
 それが、スタニェク氏自身は、何もしなかったのだが、いや、EU議会の選挙の前に大統領のところに辞任の挨拶には行ったのかな、そこでの話し合いで決まったのか、例によって大統領の暴走なのかはわからないが、ゼマン大統領がスタニェク氏の辞表を受理しない、つまり辞任は認めないと言い出した。さすがゼマン大統領というかなんというか。

 反ゼマン派は、ゼマン大統領が云々で大批判をするのだろうが、これには前例がないわけではないのである。以前、クラウス大統領も、社会民主党主導の連立内閣が閣内でもめて、内閣改造のために何人かの大臣が辞任したところ、その辞任を認めなかったことがある。内閣改造ができなかった内閣は倒れ、確か解散総選挙になったのかな。だから、ゼマン大統領の独創ではないのである。
 問題はこの辞任の拒否が何のために行われたかということである。文化大臣の交代ができなかったからといってバビシュ内閣が倒れるということはありえないし、社会民主党のハマーチェク党首とバビシュ首相の間では、大統領が辞任を認めなかった場合には、首相権限で解任することで話がついているという。最終的には大統領の承認が必要だが、大統領の恣意で内閣が倒れないように、法律が改正されて、首相が解任を求めた場合には、大統領は拒否できなくなったらしい。

 だから、ゼマン大統領が、いかにスタニェク氏の仕事を高く評価して、辞任はさせないとかばったところで、文化大臣が交替するのは決定的なのである。バビシュ首相が前言を反故にする可能性がないとは言わないが、この内閣の協力関係というのは非常に薄いもので、バビシュ首相は社会民主党の大臣について、それは社会民主党の決めることだからANOには関係ないという突き放したコメントをすることがある。
 今回も社会民主党が決めたことだからという理由で、スタニェク氏の解任に応じる可能性は高い。同時に、ゼマン大統領と社会民主党で話し合ってくれと、責任を押し付ける可能性も否定できない。そして、ゼマン―ハマーチェク会談の結果、スタニェク氏が留任するというのも、ありえなくはなさそうである。社会民主党が支持を失っている原因の一つが、ゼマン大統領との関係にあることは間違いない。いや、今の社会民主党は、大統領に対しても、首相に対しても中途半端な対応に終始していて、それが信用ならないという印象を与えていると言ったほうがいいか。今回の件も最初からゼマン大統領と社会民主党の間で話がついていたように見えなくもないし。

 さてさて、今後が楽しみというか、うんざりというかである。現時点では、バビシュ首相とハマーチェク氏の間では、解任の方向で話がついているのだが、ゼマン大統領が首相宛に、解任を急がず、しばらく様子を見るようにという要請をしたらしい。社会民主党では後任の文化大臣候補を選出して発表したところだから、タイミングが悪いというかなんと言うか。
 今にして思うと、一期目のゼマン大統領は、再選を目指していたからあれでも控えめだったんだなあ。次の選挙には制度上出られないから、怖いものなしってことなのかね。

 ちなみに公認候補のシュマルダ氏は、これまで文化関係の仕事はしたことがないらしく、スタニェク氏の解任を求めて署名活動をしていた人たちの反応は、誰それ? というものだった。それでも大臣が交代したから評価できるなんていっているから、スタニェク氏も嫌われたものである。この嫌われっぷりには胡散臭いものも感じられて、芸術家たちが好き勝手にやっていた楽園に異物が侵入したのを排除したがっているようにも見える。こんなのは芸術家だけでなく、チェコのあちこちで起こっていることだし、他のEU諸国でも言われるほど大きな差はないような気がする。やり方の洗練の度合いが高いだけである。

 一方でシュマルダ氏に関して、バビシュ首相がANOとの連立に反対していた勢力の中心人物の一人で,
社会民主党が文化大臣に推薦してくるのがよくわからないと語っていたが、文化大臣に必要な専門性よりも党内政治を優先した人選にしか見えない。どこかの市長を務めて業績を積んで国会議員になったという人だから、組織運営には長けているのか。でも、スタニェク氏も同じような経歴だったよな、確か。
 こんな党内をまとめるために反対派にポストを与えて黙らせようという、昔の日本の自民党のようなのを見ていると、社会民主党はしばらくの間は、勢力を盛り返すことはなさそうだと思えてくる。市民民主党が党外から招聘したフィアラ氏を党首に据えることで復活への道をたどり始めたように、社会民主党も思い切った手を打たないと本当に当が消滅しかねない。思い切った手を打とうとすると、反対派がぞろぞろとわいてきて内紛に向かうのもまた、社会民主党の特徴なんだけどね。
2019年5月30日21時10分。





「環境主義」は本当に正しいか? チェコ大統領が温暖化論争に警告する / 原タイトル:Modra nikoli zelena planeta 原著第2版の翻訳 (単行本・ムック) / ヴァーツラフ・クラウス 若田部昌澄 住友進









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