2019年03月20日
スロバキア大統領選挙第一回投票2(三月十八日)
承前
チャプトバー氏が第一回投票の結果どおり当選すれば、スロバキアでは初の女性大統領ということになる。もともとは弁護士でブラチスラバ近郊の町のそばにゴミ処理場という名の、ゴミを積み上げて放置するだけのゴミ捨て場が設置されそうになったのに対する反対運動から、政治の世界とかかわるようになったらしい。
この手の活動家から政治に転身した人たちというのは、日本の場合、既存の政治家たち以上に身内意識が強くて仲間をかばい倒す傾向があって、その面では既存の政治家と同じじゃないかと言いたくなることもあるのだが、ヨーロッパの場合はどうだろうか。チェコの緑の党の体たらくを見ていると、あんまり変わらないかな。あそこは喧嘩別れした後の展開もまた見物だったけど。
チャプトバー氏はまた、キリスト教の信者が多くチェコよりも保守的なところのあるスロバキアの社会では、急進的に過ぎる意見が警戒されているらしい。同性婚の問題なんかが例として挙がっていたが、本人は自分の意見を変えるつもりはないが、同時に大統領として自分の意見を社会に押し付けるつもりもないという発言をしている。スロバキアもチェコと同じで大統領の権限は、それほど大きくないはずだから、これで安心した人たちもいるのかもしれない。
話は変わるが、スロバキアでは、すでに女性大統領が誕生しそうになったことがある。それは、前々回2009年の大統領選挙のときのことで、キリスト教系の政党から推薦されて立候補した元厚生労働大臣のイベタ・ラディチョバー氏が、一回目の選挙で二位に入り、決選投票に進んだのである。このときには現職だったイバン・ガシュパロビチ氏に、10パーセントほどの差を付けられて当選することはできなかった。
ラディチョバー氏はその後2010年に、ガシュパロビチ氏の指名で首相に就任して、スロバキア初の女性首相になっている。2012年に国会で信任案を否決され、それに続く解散総選挙に負けて下野した後も評価の高い政治家だったから、2014年の大統領選挙にも出馬するのではないかと思っていたのだが、立候補はしなかったようだ。
この件と直接関係があるかどうかは記憶が定かではないのだが、ラディチョバー氏が国会の議場でとんでもない失敗をやらかしたニュースは覚えている。議案の採決に際して、スロバキアの国会では、一人一人、賛否を言うのではなく、議席につけられた賛成と反対のどちらかのボタンを押すことになっているらしい。ラディチョバー氏は、あろうことか自分の席のボタンだけでなく、他の議員の席のボタンまで押してしまったのだという。流れとしてはこれで大統領選挙の出馬をあきらめたとなりそうなのだが、どうだったかなあ。個々の事件は覚えていてもその前後関係を覚えていないのである。
このラディチョバー氏と、今回のチャプトバー氏が、実現の可能性のある最初の女性大統領候補なのだけど、個人的にはこの人になってほしかったという候補がいる。それは、マグダ・バーシャーリオバー氏である。スロバキアの政治に詳しくない人でも、映画好きなら知っているはずだ。チェコスロバキア映画の名作の一つ、最後の文豪フラバルの原作をもとにして製作された「ポストシージニ(邦題は「剃髪式」だったかな)」で、主役のビール工場の雇われ社長(と理解しておく)の妻を演じていたのがこの人なのだ。こっちのほうが主役かもしれないけど。
ビロード革命後は、チェコスロバキアの駐オーストリア大使を務め、外交の世界に飛び込み、その後もスロバキアの駐ポーランド大使を務めて、2006年だったかに国会議員に選出されている。この人なら、外国での知名度も高く、外交の経験もあるなど、スロバキアを代表するにふさわしいと思うのだけど、今回の選挙には立候補しなかった。所属政党としてはラディチョバー氏と同じキリスト教系の政党で保守層の支持は期待できるし、女性だという点でリベラル層の支持もある程度は期待できるから、スロバキア社会を一つにする存在になれると思うんだけどねえ。
とまれ、このままでは、チェコの大統領選挙と同じで、どちらの候補者が勝ったとしても、社会を一つにまとめる大統領ではなく、分断を深化させる大統領が誕生しそうである。チャプトバー氏のような存在、つまりは女性候補が、既存の政治を守ろうとする側から登場していればなあと思わなくもない。リベラルの側から出てきた進歩主義的な意見を持つ、しかも前例のない女性の大統領というのを、スロバキア社会全体が支持できるのか興味深く見守ることにしよう。
2019年3月19日19時。
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