2021年03月06日
スロバキアがロシアのワクチンを(三月三日)
スロバキアの政府がロシアから輸入することを決めたワクチン、スプートニクVが東スロバキアのコシツェの空港に到着した。今後、このワクチンを実際に接種するのか、するとすれば、どのような形で接種するのかに注目である。チェコでもゼマン大統領がプーチン大統領と交渉して、必要であれば輸入が可能な状態になっているのだが、現時点ではバビシュ政権はロシアのワクチンを使用する決断は下していない。一時は積極的な姿勢を見せていたのだが、国内で反対の声が強く挙がると態度を翻した。
ゼマン大統領とは協力関係にあって、中国やロシアに対する配慮を見せるバビシュ首相のこと、同じくロシアのワクチンを導入したハンガリーやセルビア、スロバキアなどの状況が劇的に改善すれば、チェコでもロシアのワクチンを使おうと言い出すに違いない。さすがに中国のワクチンとは言わないけど、ロシアのを使い始めて問題がなければ、中国もと言い出しかねない。
現在の問題は、欧米の製薬会社のワクチン生産量が想定したほど大きくなく、当初の予定よりもはるかに少ない数のワクチンしか納入されていないことにある。とチェコ政府は主張しているのだけど、実際は納入されたのに使用されないまま、保存されているものがかなりの割合にのぼり、チェコ国内のワクチンの配布体制にも大きな問題があるのである。その結果、ある地方ではワクチンの接種を完全に停止しなければならなくなったのに、別の地方ではあまっているので現時点で優先的な接種の対象になっていない人たちにも接種を進めていたりする。
現在最悪な状況にあるとされるカルロビバリ地方にドイツからワクチンが提供されると言うニュースを聞いたときには、チェコ国内で納入されたけどまだ使用されていないとされるワクチンは行方不明になっているのではないかとまで疑った。横領とか横流しとかチェコの政治家やら官僚やらの得意技だしさ。国内のどこにどれだけ保管されているのかわかっていれば、必要な場所に運ぶのはそれほど大変ではないはずだ。それなのにカルロビバリ地方には追加のワクチンは国内からはほとんど提供されていなかった。
話をスロバキアに戻そう。いかに現在のバビシュ政権がめちゃくちゃだとは言っても、それが現在の野党に政権を取らせたら状況が劇的に改善することは意味しないということをしばしば書くわけだが、その根拠になっているのは、1993年以来の日本の非自民党政権の、自民党政権と大差のないでたらめ振りと、現在のスロバキア政府の有様である。
昨年長期にわたって政権を握ってきたSMER党が総選挙で負け下野し、マトビッチ氏を首班とする新政権が誕生したときには、スロバキアの世論は希望にあふれていた。その希望が、疑いに変わり、やがて失望になるのにそれほど長くの時間は必要なかった。バビシュ政権と同様に中国からの感染症の輸出がなければ、馬脚を現さずに住んだのかもしれないが、感染症対策だけでなく、警察や裁判所などのいわゆる「浄化」も、根拠が乏しいものもまとめて根こそぎ摘発していると批判する人もいる。拘留されていた警察の元長官に自殺を許し汚職の全体像の解明ができなくなったことも批判の対象となった。
感染症対策にしても、チェコでは行なわなかった大規模検査を行うなど、意欲的な試みはやっていたけれども、それが継続しないと言うか、努力が空回りしている印象を受ける。いや、正直に言えば、野党として政権を批判するのに慣れすぎて、自分たちが批判される立場になったことを受け入れられず、批判をかわすために焦っているようにしか見えない。その結果、対策が場当たり的で混乱したものになっているという印象である。
スキャンダルもあって連立与党内の政党間の対立も激しく、政権内の首相の求心力も低下しているのだが、このワクチン問題が連立政権に止めを刺す可能性もある。ロシアのワクチンの導入に積極的なのは、批判をあび続けているマトビチ首相で、他の連立政党は厚生大臣も含めて反対の立場をとっていたようだ。ロシアとのワクチンの購入交渉は厚生大臣の頭越しに首相が行ったようだ。そのため、厚生大臣が辞任し、所属する政党が連立解消を考えているという話もある。
また、国内の医薬品などの承認を担当する役所に承認するように圧力をかけているとも言うが、同時にロシアのワクチンの接種は、希望者のみを対象にして、接種の前に危険性は認識しているから副作用が出ても政府の責任は問わないとかいう誓約書に署名することが求められるらしい。大規模検査のときに希望者のみと言いながら外出許可と絡めることで実質義務化したのと同じように、承認させるということは国家の責任で接種するということになるはずなのに、責任を問わないという誓約書を出させるのは、姑息としか言いようがない。首相就任以後のマトビチ氏にはこの姑息というイメージが付きまとう。
最後に、マトビチ氏の渾身の冗談を紹介しておこう。これもまた、政権崩壊につながるかもしれない。ロシアのワクチンを輸入したことをさんざんに批判されたマトビチ氏は、記者から、「ロシアから何かもらったんじゃないですか」という賄賂を疑うような質問をされて、「ポットカルパツカー・ウクライナをもらうことになっている」と答えて、ロシアだけではなくウクライナも怒らせたらしい。これは、「ポットカルパツカー・ルス」とほぼ同じで、大戦間期にチェコスロバキア領だったルシン人の居住区域をさす。当然現在ではウクライナ領になっている。新聞の一コマ漫画のネタだったら秀逸だと思うけど、首相がインタビューで言っていい冗談じゃねえよなあ。
2021年3月4日21時。
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