2019年02月17日
懐かしき左翼(二月十五日)
「朝の読書」運動についてあれこれ調べていたら内田樹という方のブログの記事にたどり着いた。今となってはこのブログのどの記事だったのか、探し出せなくなっているのだけど、自分自身を活字中毒者だと規定して、活字中毒者は瓶詰のラベルに印刷された文字までなめるように読んでしまうものだというようなことが書かれていて、思わず嬉しくなってしまった。
自分にも思い当たる節があるのである。今はそこまででもないけど、以前日本語で読むものに不自由していた時期には、日本語で書かれたものであれば、それこそ隅から隅までなめるように読みつくしたものである。日本にいたころも、新聞の場合は、記事をすべて読むのはもちろんのこと、本や雑誌の広告まで読まないと気が済まなかったし、本の場合は巻末の目録、奥付なんかにまで目を通したものである。だから、今の電子書籍に不満が大きいのだけど、それはまたちょっとべつのお話し。
そんなので大喜びしてしまって、肝心の「朝の読書」運動に関しては、どんなことが書かれていたのかほとんど思い出せないのが情けない。「朝の読書」運動は、真の活字中毒者は生み出せないということだったか、形だけの読書になってしまっていて将来の読書につながっていないということだったか。
その記事が面白かったので、この方のブログの記事をあちこち拾い読みしていたら、さらに嬉しいことに、この人、左翼の人だった。本人が自分のことをどのように考えられているかは知らないが、今のわけのわからないリベラルがどうだこうだ云うような連中とは一線を画した、かつての正統派の左翼のにおいを文章のあちこちに嗅ぎ取って、懐かしくなってしまった。
日本をアメリカの属国として位置付けているのは、その当否はおくとしても、80年代にはしばしば耳にした言説である。すごいと思ったのは、アメリカの属国だと主張する理由の一つに日本の英語教育の在り方を上げているところである。政治家の発言とか日米交渉の在り方とかそんなどうとでも解釈できるものではなく、教育という国家の根幹にあたる部分を理由として挙げられると、説得力は大きくなる。個人的にはさらに日本だけでなく、世界中の国々が英語という言葉を通じてアメリカに従属させられつつあるような印象を持ってぞっとしてしまった。我が英語嫌いも故無しではなかったのである。
その記事がこれで、外国語教育、特に英語教育の在り方について文部省のやり口を植民地の語学教育だと強く批判されているのだが、最後には返す刀で国語教育にまで触れている。そうすると、外国語教育に関しては、話すことが過度に重視されるようになった1980年代ぐらいから、日本の植民地化、属国化が進んできたと理解していいのだろうか。それはともかく、読み書きを伴わないしゃべれるだけの外国語というのは、少なくとも大学に進学する学生に求められるものではないだろう。しゃべることだけに傾斜した最近の日本の語学学習の傾向に辟易している人間としては、もろ手を挙げて大賛成である。
そして、さらにこの方に共感してしまったのは、根本の部分では左翼でありながら、現実感覚を失わずに、日本には天皇制が不可欠であることを理解して、「天皇主義者」を宣言されているところである。上にかつての正統派の左翼と書いてしまったが、80年代までの左翼にはこんな日本の現実を見据えて天皇主義者宣言なんてできなかったはずである。左翼の理論的後ろ盾だったソ連が崩壊した後の思想的な混乱を乗り越えてなお、左翼であり続けるというのはこういう強さを必要としたのだろうという感慨を抱いてしまう。ただし、左翼、左に分類される人たちのすべてが、特にひよって左翼的な言説ではなくリベラルなんて方向に逃げている人たちが、こんな強さや現実感覚を持ち合わせているわけではないのは言うを俟たない。
この記事はキリスト教関係の雑誌に掲載されたインタビューらしいが、不満を言えば、キリスト教のローマ法王の存在に対しての考えが見えてこないところか。天皇制に批判的な日本のキリスト教関係者が、天皇主義を標榜する人物にインタビューするのなら、天皇以上に問題のあるローマ法王についてもコメントを求めるのが筋だと思うのだが、キリスト教関係者はローマ法王に関しては思考停止して所与のものであるかのように扱うからなあ。天皇制を疑うのなら法王制も疑うべきであろうに。もしかしたら、ブログにキリスト教やローマ法王に関する意見があるかもしれないから、暇なときにさがしてみようかしらん。
もちろん、内田氏が書かれていることすべてに賛成するわけではない。だけど、この人なら主義主張が違う相手ともちゃんとかみ合う議論ができそうだという印象を持った。最近の自分の言いたいことだけ言って相手の話を聞かないのを議論と称する風潮がはびこる中では貴重な存在である。ある意味理想の、かくあれかしの左翼ということになるのかな。あれこれこちらの勘違いの可能性もあるけど。
2019年2月16日22時15分。
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