2018年12月17日
海外医学部の話2(十二月十二日)
以前、ブルノに住む知り合いから、マサリク大学でも医学部に日本人の学生を受け入れ始めたという話を聞いた。その人の話では、一度に二十人以上の日本人学生が入学し、その大半は英語能力が高くなく、日常会話さえおぼつかず、これじゃ医学の勉強なんて無理だろうという状態だったらしい。これについてはすでに触れたような気もする。
その後、パラツキー大学に医学部生を送り出している日本側の事務局の人とお話をする機会があったのだが、ブルノのマサリク大学への学生の送り出しをやっているのは別の組織で、パラツキー大学とは違って、マサリク大学の医学部で直接勉強を始めるのではなく、まず予備コースに通って英語などを勉強した上で、学力的に問題がないと認められた人だけが、医学部の本科に進めるような形になっているのではないかと教えてもらった。
だから、その予備コースの一年なら一年で、英語で医学を勉強できるだけの力をつければいいということなのだが、果たしてそれは可能なのだろうか。日本でしっかり勉強して、それこそ医学部の入試に合格できるようなレベルの英語力がある人なら、一年外国で英語を使って勉強、生活することで、実践力を身につけて英語で医学を勉強するところまで行けそうだけれども、高校を卒業した時点で片言レベルの英語しか使えない人が、たった一年で英語で医学を勉強するところまでいけるのか大いに疑問である。
少なくとも中学、高校で6年間英語を毎日とは言わないまでも、週に何回かの授業を受け続けた成果を、たった一年で上回ることができるものなのだろうか。心機一転、勉強に対する態度を変えて、他にすることのない環境で集中して勉強することで、能力を大きく伸ばす人も出てくるかもしれないが、それは例外に留まるのではなかろうか。日本ではない以上、英語も日本語ではなく、直接英語で勉強することになるのである。予備コースから学部に進める人がどのくらいいるのか、そして学部に進んだ人のうちどのくらいの人が卒業までたどり着けるのかと考えると、この記事のように安易に外国で医学を勉強することを勧める気にはなれない。
ハンガリーの医学部についても、問題があるという話を聞いたことがある。すでに卒業して日本の国家医師試験に合格した医学部生がいる一方で、10年以上ハンガリーの大学で勉強したものの卒業できずに、つまりは日本の国家医師試験を受ける資格を得られないままに帰国してしまう人もかなりの数いるらしい。それは、ハンガリーの大学では、外国人向けの医学部だけかもしれないが、一度入学してしまえば、成績が悪くても在籍だけはさせてもらえるのが原因だという。
だから、取得単位が足りず、留年を繰り返し、在学できる期間の限度内に卒業できる見込みがまったくなくなった学生でも、最低限の単位さえ取っていれば、10年なら10年在学だけはできるのだという。その辺のいかにして大学に残るかというのは、代々の日本人学生が情報として受け継がれているため、本来の医師になるという目的を忘れて、途中からは大学残ることが目的になってしまう人もいるのだとか。
10年内外ハンガリーにいたのだから、少なくともハンガリー語はできるようになっているんじゃないかと、話をしてくれた人に質問したら、大学に残るためにはハンガリー語は必要ないし、外国人留学生として生活する分にはハンガリー語はほぼ不要だから、できる人はほとんどいないという答えが返ってきた。むしろ、ハンガリー語ができるようになる人は、医学の勉強でも優秀で順調に進級して卒業する人に多いらしい。学年が進むと病院での実習なんてのも入ってくるだろうから、それに向けてハンガリー語を勉強しなければならないと言う面もあるのかな。
このハンガリーの留年への寛容さと、チェコの二年生への進級が一番大変で、一年目で大学を辞める人が一番多いという現実と、どちらが学生本人のためになるのだろうか。医学の勉強に失敗しても別な分野でやり直せる、もしくは医学の勉強を別の学校で一からやり直せるという意味では、パラツキー大学の制度の方が、結果的には学生のその後の人生にはプラスになるのだろうか。はかない夢を見続けていられる、もしくは見続けている振りができるという点ではハンガリーの方がいいかもしれないけど、それはあまりに刹那的過ぎる。
最後に記事を一点だけ訂正しておくと、ハンガリーは知らず、チェコでは医師資格試験は存在しない。それに代わるのが大学の医学部の卒業の資格である。ただ、チェコ国内で医師として仕事をするためには、チェコの医師会への登録が必要で、外国人が登録するためには、チェコ語のEU規準の語学能力判定でB2レベルの試験に合格する必要があるらしい。
これは卒業して日本の国家医師試験を受ける準備をしている人に聞いた話だが、日本の厚生省が受験希望者に課す提出書類を集めるのが厄介らしい。ある程度の共通性はあるとはいえ、国によって出してくれる書類が微妙に違うので、厚生省が必要かつ十分な書類として認定してくれるかどうか、事前にわからないのが一番大変だと言っていた。
無事に大学を卒業しても、医師試験を受けるためだけにも、日本の医学部を卒業した学生以上の苦労が待っているのである。そう考えると、チェコであれ、ハンガリーであれ、医学部を卒業して日本の医師試験に合格した人の努力には賞賛以外の言葉は出てこない。今後もパラツキー大学をはじめ、外国の大学で医学を勉強する人たちが卒業まで頑張り続けられることを祈りたいと思うが、同時に、外国に行けば何とかなると安易な気持ちで外国の医学部を目指す人が増えないことを願っている。
2018年12月12日23時55分。
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