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タグ / 習一
記事
習一篇草稿−5章 [2018/12/13 00:00]
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夕飯後は小山田手製のクッキーを食べ、習一は満腹になった。この菓子は教師も「おいしいです」と言ってよく手をつけた。彼の夕飯の握り飯と糠漬けは二つとも小山田の手作りであり、そのことを習一が指摘すると小山田が笑う。
「先生はね、わたしの手で作ったものがおいしいんだって。味付けが失敗してても『おいしい』って言うんだから、味オンチなのかな」
聞きようによるとのろけ話だ。習一は教師に疑いの眼差しをそそぐ。教師は苦笑いした。
「オヤマダさんの手料理は私の舌に合っています..
習一篇草稿−4章 [2018/12/12 00:00]
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正午を過ぎたころ、習一たちは動物を見終えた。近くの公園に行くと手ごろな木陰に銀髪の少女が待機していた。二メートル四方の敷物の上にバスケットと水筒、そして彼女が常用するリュックサックがある。習一たちは膝を抱えて座る少女に合流した。
「今日のお昼ごはん、手作りのサンドイッチだよ」
バスケットの蓋を開けると、中はラップにくるんだサンドイッチがすし詰め状態になっていた。エリーは水筒のコップに飲み物を注ぎ、習一に渡す。
「これ、ふつうのお茶。ぜんぶシューイチのものだ..
習一篇草稿−3章 [2018/12/11 00:00]
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習一は外気の熱にうだりながら、黒灰色のシャツを見失わないように歩いた。銀髪の教師は進行方向を見つつも習一を置き去りにしない歩調を保つ。朝、ともに歩いた時の速度を正確に覚えたのか。あるいは他人の気配の遠近を察せるのだろう。どちらも常人離れした技能ではあるが、過去に習一を武力で凌駕したという男にはできそうな気がした。
教師はめぼしい飲食店の前を通り、和風な店へと近づく。その店の分類を習一は知らない。教師は引戸をがらがらと開けた。屋内の喧騒が解き放たれ、入店客への挨..
習一篇草稿−2章下 [2018/12/10 00:00]
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掛布団の上に寝た習一は薄く目を開けた。日はもう上がっている。いまは何時だろう、とうつろな目でベッド棚の上の置き時計を見る。針は七時半を指す。次に窓の外を眺めた。青い空に浮かぶ白い雲同士が折り重なる。その下部に太い灰色の筋ができた。
(銀色……)
灰の帯が銀髪の教師と少女を連想させた。彼らは今日も習一の監視を続ける。本日は男の方が終日同伴するとも聞いた。今日はどこへ行かされるやら、と取りとめもないことを考え、まぶたを落とした。二度寝は数分を経たずして阻害される..
習一篇草稿−2章上 [2018/12/09 00:00]
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習一は授業の終わりまで座席に残った。久々の学校の風当たりと病み上がりの体力の乏しさゆえに、放課後は疲労が蓄積する。寄り道せずに帰宅し、体を洗ったあとは自室で休んだ。食欲はわかず、そのまま朝になる。起床を促したのは窓を叩く音だった。銀髪の少女が窓の縁におり、習一は窓を開ける。少女がまたも土足で部屋に踏み入れる。
「今日も学校にいこう。終業式なんだって」
「そうか。もう、夏休みになるのか」
「半日でおわるから、プリントをいくつかえらんで、すずしいところでとこうよ..
習一篇草稿−1章 [2018/12/08 00:00]
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わずかにオレンジ色の入った白い壁。それが天井だとわかるのに幾らか時間がかかった。無心になじみのない景色を眺めるうちに、男の声が聞こえた。
「目が覚めてくれたね。これで一安心できる」
声には他者を気遣うやわらかさがあった。視界にない声の主をさがすと長い鉄の棒が見えた。天井に向かった先には透明なパックが吊るしてある。液体の入ったパックには管が通り、その管は自身の腕に繋がる。点滴だ。そう認識するとこの場は病院なのだと察した。
「習一くん、気分はどうかな?」
..
習一篇草稿−* [2018/12/07 15:03]
*
街灯が照らす夜道に男がいた。彼の足元には地に伏す少年もいる。少年はほんの少し前、男と一悶着を起こした。おもな非は少年にあったが、男の要求が正当だとは言えなかった。
男が少年の口に手をあてる。規則正しい呼吸を手のひらに感じた。──彼も生き残った。
「『外野は黙ってろ』と言ったな。それはこちらのセリフだ」
男には長年さがし求めてきた人物がいる。少年はそれに手を出そうとした。男の勧告を無視したために現在眠り続けることになった。何時間も、何日も、何週間も。何ヶ月、..
習一篇に関連する設定 [2018/12/06 23:55]
地理状況は拓馬篇と同じ。
雒英高校
習一が所属する高校。学校名はラクエイと読む。
(おもに校長が)自由な才穎高校とは反対に保守的な学校。
地域の才子才女があつまる進学校でもある。
勉強第一な校風だが、一部の部活は強豪を誇るという文武両道な面をそなえている。
生徒はほぼ全員が優等生なので、教師たちは習一のような突然変異不良児の処遇に困っている。
習一の家庭状況
父,母,妹の四人家族。父親が地方裁判所で勤める裁判官で、お金の羽振りはよいほう。
習一は父親と犬..
習一篇の登場人物 [2018/12/05 01:10]
習一篇に登場する人物の簡単な紹介です。
主要な登場人物
◇習一
姓は小田切。雒英(らくえい)高校の二年生。一年留年している。
拓馬篇にて謎の人物に襲撃されて以来、病院で目が覚めないまますごしていた。
露木と名乗る警官の紹介で、シドという男性教師としばらく行動を共にすることになる。
猜疑心が強い性格なのでなにに対しても斜に構える。
ただし妹がいるせいか女子への接し方には良心的なところがある。
◇シド
シドはあだ名。才穎高校の英語教師。
過去に習一に無礼を..
拓馬篇−7章◆ ★ [2018/07/02 03:00]
使い古された音楽が流れる。閉館の合図だ。利用客を追い出そうとする曲を、金髪の少年は不快に感じながら聞いた。少年は仕方なく、机に突っ伏した上半身を起こす。何十分ぶりかに周りを見てみると、図書の貸し出し手続きをする人が受付へ集まっていた。少年は自分に注目する者がいないの確認し、空調の利いた施設を出た。
外は日が落ちたが、完全には暗くなっていなかった。日長な季節なのはいい。だが少年はこれ以上気温が高くなるのを憂鬱に思う。
(涼しいところ……他にもさがさねえとな)
屋外は..
拓馬篇前記−習一3 [2017/10/15 23:50]
習一は目的地のデパートに着いた。だが仲間は定位置のフードコートにいない。
(今日はべつの場所で集まってるのか?)
場所替えは好都合である。このフードコートは習一には居心地が良くない。無料で利用可能な場ゆえに設備にケチをつける気はないが、習一個人の不快感がある。それは他言できない内容だ。幼少期に母とともに訪れたことを思い出すのだ。あの頃はもっと売店があって賑やかだった。それに父はまだ冷酷でなかったように思う。現在との落差をまざまざと見せつける場所は、一人でいると殊更苦し..
拓馬篇前記−習一2 [2017/10/14 23:58]
習一は他校の不良を仲間にしている。彼らはおよそ一か月前、打ちしおれた習一の前に立ちはだかった。その目的は金品。のちに事情を聴くと、彼らの目には習一の顔つきや身なりが金持ちの子に映ったらしい。事実その見立ては間違っていない。習一の父は高給取りだ。そのため母が子に与える品物はどれも値が張った。安い粗悪品をたくさん買うよりは、高くても良い品を買ったほうが快適かつ長持ちするという父の意向に従った結果だ。
彼らの思い違いは一つあった。習一が殴り合いに強かったことだ。事の発端は彼ら..