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タグ / 習一

記事
習一篇−3章5 [2020/09/11 06:40]
 習一は昼食を食堂で食べた。昼休みがもはや終わりにちかづいていたせいか、盛況なイメージのある食事処はすいていた。  その後の習一は授業の終わりまで座席に居ついた。途中で授業を抜ける選択もあったが、やはり暑い外を出歩くのは気が引けて、すずしい屋内ですごすことにした。  放課後はだれとも口をきかぬよう、さっさと帰る。弱った体では生徒から向けられる冷たい視線が思いのほか心に刺さり、その視線からはやく外れたいと感じた。習一がこう感じた要因はおそらく、いまの自分に自衛の手段がないか..
習一篇−3章4 [2020/09/03 00:00]
 習一は教室を出た。目下の移動先は校舎の外である。おそらく外に、今朝、習一を学校へ導いた少女がいる。彼女は習一の昼食を用意すると言った。だが部外者が校内へ入ることは一般的にはばかられる。事務所に話を通せば許可は得られるだろうが、相手は習一の家でさえ玄関を通らずに侵入した少女だ。正攻法で食事を届けてくれる期待はできない。 (オレが校内にいたらあいつ、また壁をのぼってくるかもな……)  変身物のヒーローか忍者まがいの登場をされては目立ってしょうがない。ただでさえ自分が校内で悪..
習一篇−3章3 [2020/08/02 02:10]
 午前の授業がおわった。生徒たちは昼食をとりにかかる。その際、習一の席の周りにいた生徒は自席を離れるか、別室へ逃げていった。皆、問題児との関わり合いを避けている。習一はそれが当然のことだとし、気にしなかった。以前の優等生であった自分も同じ状況下なら同じ行動をしただろうと思ったからだ。  反対に、午前最後の授業を担当した教師は習一に寄ってくる。彼は四十代の中年男性で、意志の固そうな太い眉毛が印象深かった。姓を掛尾という。習一は掛尾をこの学校の教師の中では珍しい真人間だと認めて..
習一篇−3章2 [2020/07/01 01:00]
「出席日数をかせいだほうがいいんだって」  その提案は銀髪の教師が言い出したのだろう。教職に就く者らしい意見ではあるが── 「いまから? 遅刻確定じゃねえか」 「ケッセキよりはチコクがいいんでしょ?」  たしかに内申書ではそういう扱いだろう。まして一か月間入院したとなれば今期の出席日数は足りていない。だが退院日に出席しなくても咎めは受けないはずだ。 「ねえ、制服にきがえて」  まごつく習一に対して、少女は強硬な姿勢をとる。 「お昼ごはんはわたしが用意する。授業の..
習一篇−3章1 [2020/06/12 21:50]
 光葉と名乗る男が現れた翌日、習一は退院となる。先日もらった花束は結局家へ持ち帰ることにした。習一としては花なぞ余計な荷物になるだけだと思うが、院内で花束を捨てられる場所が見つからず、家で処分することにした。  子を迎えにきた母は花束を見てすこしおどろいていた。だが「気前のいい方がいらしたのね」とすぐに贈答品を受け入れる。習一は生返事で肯定したものの、この花束をくれた人物のアウトローじみた雰囲気を思い出し、母の言葉には素直にうなずけなかった。  病院を出るときに看護師らが..
習一篇−2章7 [2020/05/06 04:30]
 習一は明日には退院である。この病棟へくることはもうない。これで見納めだと思い、内部の様子を散歩ついでに見てまわった。  壁にかかった油絵の絵画を鑑賞したのち、片側一面がガラス窓で覆われた廊下へ出る。ここからは院内の庭が見える。そこでガラス越しに、緑の映える空間を見物する。  現在は真夏の昼過ぎ。外は日差しが燦々と照っており、実際の空気に触れなくても炎天下だと想像がついた。暑さのためか庭に人はいない。ただ庭の木の枝には白い物影があった。習一はそれを鳥だろうと推測し、種類は..
習一篇−2章6 [2020/04/01 02:00]
 次の日も習一は空調のととのった病棟内で運動と休憩を繰り返した。散歩をしたのちに寝台でクールダウンし、柔軟体操をする。そういったサイクルをこなすうちに疲れが出てきて、習一は横になった。床頭台のほうへ寝返りをうつと、習一のものではない文具が目につく。 (そういや、まだあの医者に返せてないな)  若い医者の落とし物を本人に返却する機会がこない。あの医者は昨日おとといと連続で非番だったようで、昨日は一度も姿を見なかった。 (オレ、明日に退院だと昨日言われたけど……)  看護..
習一篇−2章5 [2020/03/19 22:55]
 入浴後、習一は寝台の上で一休みした。することもないので借り物の電子端末を操作する。昨夜から端末に内蔵されたパズルゲームでちょくちょく遊んでおり、その続きにいそしもうかとした。だがまだ電子書籍のラインナップを確認していないことを思い出す。 (タイトルくらいは見てみるか)  電子上の書棚を開く。気になる本をさがし、画面を切り替えていく。そしていまの習一にちょうどよい書籍を発見する。病み上がりの人向けの易しいトレーニング本である。かなりピンポイントな需要に特化した書籍であるが..
習一篇−2章4 [2020/03/12 01:00]
 翌日、習一は点滴痕に絆創膏を貼り、院内の散歩をした。この散歩は体力作りのためである。また、点滴の除去を担当した看護師の発言も多少は関与する。管の入っていた部分の血が固まるまで、入浴は待ったほうがいいと言われたのだ。病院の浴場は不特定の患者が利用する場所だといい、傷口からなんらかの病気を移されかねない。そのリスクができた習一は看護師の指示にしたがうことにした。ただでさえ自分の体は弱っている。被らなくてよい危険は避けようと判断した。  習一は看護師の助言を「傷口をぬらしてはい..
習一篇−2章3 [2020/03/08 01:50]
 習一は薄くてかるい布団で自分の視界をおおっていた。徐々に寝苦しくなり、布団をかぶってから数分も立たないうちに布団をどける。 (あー、むしゃくしゃする)  だれへ向けた怒りなのかわからない感情に突きうごかされ、体を起こす。起きてみると気分転換によい道具が手近なところにあった。教師が習一のためにのこした電子端末である。 (……中身、見てみるか)  習一は自分がつっぱねた相手の厚意に甘えることにわずかな歯がゆさを感じつつも、面白そうな遊び道具を手に取る。 (これはあいつ..
習一篇−2章2 [2020/02/29 22:50]
 習一は教師がもってきた端末をさっそく操作してみようと手をのばした。だが物でいいように操れる男児だと見做されるのが不服だ。教師が去ったあとで操作しようと思い、まずは教師との話をおわらせようと思った。  教師は黄色のサングラスをかけた双眼で、点滴を見上げる。 「まだ点滴が取れないのですね」  習一も自分の腕から管でつながる容器を見る。 「これは栄養剤なんだとよ」 「食事では充分な栄養が摂れませんか」 「そうらしい」 「元気になるのには時間がかかりそうですね」  ..
習一篇−2章1 [2020/02/22 23:35]
 銀髪の教師はひととおりの自己紹介を習一の母に行なった。西洋人らしきフルネームと、才穎高校の教職員という身分と、露木という警官と知り合いであることを述べる。名前以外は習一が事前に知りえていた内容である。 (そういや、名前は聞かなかったな)  別段必要ではない情報だ。習一は彼と親睦を深める意思はない。このへだたりをたもつには相手の名前を呼んではいけないと考えている。ただあの警官は一般的に最優先で伝える事柄を言っていなかったと、いまさらながらに気づいた。  紹介がおわった直..

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