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2018年10月17日

拓馬篇後記−6

 拓馬は道場の男子更衣室にて、空手着に着替えた。久々の白い道着だ。これを着るからといってどうという感慨は湧かない。むしろ緊張感が生じた。教わる立場だった自分が教える側に立つことに関心があつまったためだ。
(部活は同じ年ごろの人ばっかだったからいいけど……)
 体験会のメインターゲット層は夏休みのある子ども。だが社会人の参加も可能としている。それにくわえ、自身の子どもを入門させようかと考える親が子どもに同伴する。拓馬が注意するのは大人の目だ。
(俺がいちばん、たよりないよな……)
 大人の客が拓馬を見て、どう思うだろうか。年少ゆえに指導力不足を案じられるのではないか。
(客にとっちゃ俺が代打の指導員だなんて、わかりっこない)
 拓馬が指導とよべる指導を実施する予定はない。だが客にそんなことを弁明する機会もない。大畑や神南と同じ、指導者のひとりとしてかぞえられるにちがいない。
(俺がいたせいで門下生が増えなかった、ってことがないようにしたいな)
 大畑は拓馬の技量を高く買っているようだ。それは大畑の希望観測ではないという証拠がある。現に拓馬は高校一年生のときにどうにか初段を修得している。これは大人に混じっての試験を合格した結果だ。しかし初対面の者にはそのような事情は伝わらない。ただの若輩者にしか見えないはずだ。拓馬の体格がさほどよくないのもあり、最低限の段位保持者には到底思えないだろう。
(ヘタなことをしないように……)
 あまり目立たぬよう、黒子のような補佐役に徹する──そう決心した。
 準備がととのった拓馬は更衣室を出た。受付場に人がきているか気になり、玄関のガラス戸の奥、つまり道場の外を見る。受付の座席には二人の女性がすわっていた。ひとりは大畑の妻。グラマーな体型の人だ。今日は体のラインが出ない、ゆったりした格好でいる。もうひとりは大畑の長女。現在は小学校の高学年だ。この長女はむかしから顔立ちが父にも母にも似ず、まるでよそから美形の遺伝子を引っ張ってきたかのように端正である。そのため過去に、娘は大畑の血を引いてないんじゃないか、という指摘があがった。
 その旨を表沙汰にした者は当時、無邪気な子どもの門下生だった。人生経験のとぼしい子どもにありがちな、他者の心情をかえりみない、ぶしつけな物言いである。その指摘に対して、大畑は「いやワシの子だ! ワシの母親がすごい美人だったんだ」と断言した。つまり長女は親でなく祖母似だということになる。
 拓馬はそういった大畑の主張を是としている。実際に大畑の母親を見たことがあり、ぱっちりした目元は彼女の孫娘と似ていたおぼえがあるからだ。
(ちょうどいい看板娘になってるな……)
 母親と談笑中の娘の顔を見て、拓馬はひそかに思った。大畑の道場で唯一宣伝力の高いものといえば大畑の長女かもしれない。そんなことを口に出せば「娘に気があるのか?」と大畑に誤解されかねないので、だまっておくことにした。
 練習場へもどろうかと拓馬が思ったとき、受付に人がやってきた。男女の二人のようである。まだ受付開始の時刻には早いはずだが、大畑親子は客になにかをしゃべった。すると客人は受付の者におじぎ──ではなく、机上にある紙に自分の名前を書くために前かがみになった。彼らの服は拓馬が所属する高校指定の運動着。拓馬と同学の者が二人きたのだ。
(え? あのヒョロ長い感じ……)
 拓馬は男子のほうに着目した。あの貧相な痩せっぷりは、よく体育の時間で見かけた。彼は最近、体を鍛えているらしい。まだ目に見えた成果は出ない。
(椙守か……で、女のほうは?)
 椙守と友人関係にある女子は何人かいる。そのうちの、格闘技に興味のある女子はひとりだけ。だが彼女は今日の体験会に参加できないと言っていた。
(店の都合がついたのか?)
 拓馬がじっと外を見ていると「知ってる人がきた?」と神南に聞かれた。拓馬は視線を恰幅のよい女性へ移す。彼女も白い道着を着ている。
「たぶん、友だちが」
「拓馬くんがいるから遊びにきた子?」
「ひとりはそんな感じですけど、もうひとりは本気かどうか、知らないんです」
 神南は受付のほうを見る。拓馬の友以外に客はいない。
「……ほかの人がこないうちは、友だちとおしゃべりしてていいよ」
「はい、客がきたらやめます」
「うん、そうしてね。なにも知らない人がおしゃべりを見たら、公私混同してると思うだろうから」
 現在の拓馬は勤務中に相当する。友人と談話をするなら私的な場でするべき、という意見は拓馬も同感だ。礼節も教える道場において、私語歓談はふさわしくない行動である。
 同級生が受付をおえた。高校の運動着を着た二人は拓馬の予想通り、椙守とヤマダだ。玄関をくぐってきた彼らは拓馬を見て反応してくる。
「タッちゃん、おはよう!」
「はやく来すぎてしまったが、迷惑かけてないか?」
 ヤマダは威勢がよくて椙守はどこか腰が引けている。二人の温度差に拓馬は若干戸惑いつつも、なるべく落ち着いたトーンで対応する。
「ああ、おはよう。練習場に入ってくれ」
 拓馬は立ち話を簡単にすませて、友人らを練習場へ案内した。

タグ:拓馬
posted by 三利実巳 at 00:10 | Comment(0) | 拓馬篇後記
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