アフィリエイト広告を利用しています

広告

この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
posted by fanblog

2018年02月04日

拓馬篇−2章3 ☆

3
 本日は授業が午前中で終わる土曜補習。平日より早く放課になる。その開放感により、生徒らは活気づくのが常だった。しかし拓馬がいつも通りに登校すると、室内に異質な空気がただよっていた。話す生徒同士の顔には不安の色が出ている。楽しげな雰囲気はまるでない。
(テストでもやるのか?)
 成績にかかわる授業がこれから始まるのであれば、彼らの心がざわつく状況はもっともらしい。しかし拓馬はそんな事前情報を聞いていなかった。そこで拓馬は会話中のヤマダと千智に、変事の有無を尋ねた。
「今日はなんかあったっけ?」
 一番に反応したのは千智だ。彼女はにらむように拓馬を直視する。
「あったのは昨日! 昨日の夜に襲われた生徒がいるんだって」
 凶悪な事件とは無縁な地域らしからぬ出来事だ。拓馬は半信半疑で問う。
「襲われたぁ? 誰が?」
「うちのクラスのスケコマシよ。転校してきたばっかりなのに運が悪いわね」
「襲われて、どうなったんだ? 学校には来れるのか」
 被害にも程度がある。軽傷ですむ場合から心に深いトラウマを植えつけられる場合まで。成石の被害状況がいかほどか、拓馬は被害者に思い入れは無いながらも心配になった。
 噂をすれば問題の本人が入室してきた。成石は教室にいる生徒の視線を一身に集める。その注目が快感なのか、成石は得意気に笑んだ。
(なんだ、元気そうだな)
 拓馬はあきれ、数秒前に感じた情をかなぐり捨てた。お騒がせなやつだと、かるい怒りすら芽生える。拓馬は彼の不興を買えるであろう無視を決めこんだ。
 拓馬の反抗とは反対に、ヤマダがどの生徒よりも先に動く。
「ナルくん、ケガはないの? 昨晩に一悶着あったらしいけど」
「なあに平気さ。いままで僕のことを心配していたのかい?」
 ヤマダは素っ気なく「ううん」と言う。
「それよか、どんな相手に襲われたのかが気になる」
「そこは余計なことを言わずに『心配してた』と言ってくれてもいいじゃないか」
 成石は大げさに落胆してみせた。しかしヤマダは成石をまったく案じなかったわけではないと、長年の交流のある拓馬にはわかっていた。あまり情けを見せては気があると勘違いされる、と考えたすえの応対だろう。
 本摩が定刻より早く教室に入ってきた。担任の教師が成石の姿を認める。
「お? 成石が来ているな。遅刻すると聞いたんだが、その様子じゃ大丈夫そうか」
「僕は体を鍛えていますから、なんてことありませんよ」
「トレーニングもほどほどにな。危険な目に遭ってまで体力作りをするもんじゃない」
 本摩は成石の身をいたわったあと、教室全体を見渡し、神妙な顔を見せる。
「あー……実は昨晩、ランニング中の成石が何者かに気絶させられてな。今後、同じ被害が続くかもしれん。みんな、夜の一人歩きは控えるよーに」
 言い終えると本摩は須坂を見た。須坂は顔をそらす。教師の視線はたしかに女子生徒へむかったはずだが、その隣席にいる三郎が大きなリアクションをとった。
「先生! この襲撃事件は今回が初めてでしょうか?」
 挙手しながらの質問だった。本摩は首をひねる。
「わからん。前例があれば警察が知ってるだろうが、そんなことを聞いてどうする?」
「もちろん、不届き者を成敗して──」
「まえに不良連中とモメたのを忘れたか?」
 拓馬たちは以前、デパートの一画を占領する不良たちを立ちのかせるため、彼らと争った。この件はどこから漏れたのか校長に知られ、拓馬たちは反省文を書かされていた。本摩はそのことを言っている。
「問題を起こすと校長が黙っていないぞ」
 三郎はがたっと椅子をずらし、立ち上がる。
「では、悪人の好き放題にさせておけと?」
「そうは言わんよ。お前たちが危ない思いをする必要はないだけだ」
「我らの力を合わせれば不審者など!」
 三郎は「なあジモン、拓馬!」と前回の戦友に呼びかけた。ジモンというあだ名の大柄な男子は「おう!」と握りこぶしをつくる。対照的に拓馬は「俺も?」と他人事のように答えた。中年の教師は三者三様の生徒を見回す。
「正義感が強くて結構だ。でもな、来月に中間テストがあって、その後には体育祭が控えている。体力自慢のお前たちが万一ケガで欠場したんじゃ、クラスのみんなも面白くないだろう。犯人捜しはそのあとにするんだな」
 本摩は生徒の犯人捜索を引きとめなかった。起きた事件が一過性の出来事だと信じてか、生徒を止めても無駄だと思ったか、いずれにせよ現状は無難な説得だった。
 三郎はさきほどの勢いが削がれ、「わかりました」と言って、大人しく着席した。三郎の勝手な行動はクラス全体の迷惑になりうる、との可能性を聞いて、三郎は我を通しにくくなったのだろう。
「素直でよろしい。それじゃ、授業をやるぞ」
 本摩は話題を切り替えた。事件のない日と変わらぬ要領で、英語の授業を執る。だが拓馬の意識はなお事件に留まった。その解決ができそうな助っ人に思いを馳せる。
(このこと、シズカさんに言ってみようか)
 その予定を頭の片隅に置いておきながら、拓馬は授業に集中した。

タグ:拓馬
posted by 三利実巳 at 23:59 | Comment(0) | 長編拓馬 

2018年02月03日

拓馬篇−2章◇ ★

 日が完全に沈んだ頃、パーカーを着た少年が住宅街を走った。これは彼のトレーニングだ。鍛えた体は異性にもてはやされる、という思想のもと、少年は自身を研磨した。
 少年はふと足早に道行く者を見つけた。街灯を頼りに目をこらしてみると、髪留めを後頭部につけた少女だとわかった。そのいでたちは美人の同級生によく似ている。そうと気付いた少年は、目的の進行方向を変える。二人の距離は縮まっていく、かに見えた。
「うぅわっ!」
 少年は悲鳴をあげた。何者かが少年の顔を掴んだのだ。不測の事態におちいった少年は、逃げなくては、と思う一心で、自分を拘束する手首を握りしめた。その手首は太く、強靭。少年の力では振りほどけない。その事実がわかっても、抵抗は止めなかった。
 少年は体に力が入らなくなり、徐々に立つこともままならなくなる。ふらつく体を、拘束者の手と腕が支えた。少年がだらりと手を下ろす。すると顔を捕捉する手が離れた。
 少年の体はゆっくりと地面へ置かれた。あたりに少女はいない。少年の身に起きた不幸を気づかず、立ち去ったようだ。少年は薄れゆく視界の中で襲撃者を見上げた。巨大な体躯の影があった。人相のわからないシルエットは、物音を立てずに去る。その行き先は少女の進路と同じであったように見えたが、無力な少年はその場に寝入ってしまった。

posted by 三利実巳 at 23:59 | Comment(0) | 長編拓馬 
プロフィール
画像は親戚のトイプードルの頭頂です。クリックしても全体像は見れません
三利実巳の画像
三利実巳
最新記事
<< 2022年10月 >>
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
お知らせ
21-5-16,3月以降更新停止していますが生きてます。今は他のことを手掛けているのでそっちが飽きたら戻ってきます
検索
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
月別アーカイブ
2022年10月【1】
2021年03月【1】
2021年02月【2】
2021年01月【1】
2020年12月【1】
2020年11月【4】
2020年10月【3】
2020年09月【2】
2020年08月【1】
2020年07月【1】
2020年06月【1】
2020年05月【1】
2020年04月【1】
2020年03月【3】
2020年02月【5】
2020年01月【3】
2019年12月【1】
2019年10月【1】
2019年09月【1】
2019年08月【2】
2019年07月【5】
2019年06月【2】
2019年05月【21】
2019年04月【15】
2019年03月【12】
2019年02月【14】
2019年01月【18】
2018年12月【15】
2018年11月【11】
2018年10月【14】
2018年09月【6】
2018年08月【12】
2018年07月【21】
2018年06月【9】
2018年05月【9】
2018年04月【5】
2018年03月【8】
2018年02月【11】
2018年01月【8】
2017年12月【21】
2017年11月【21】
2017年10月【21】
リンク集
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。