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2018年12月16日

海外医学部の話(十二月十一日)



 昨日の話を書き始めたきっかけは、ヤフーの雑誌のところでこんな記事を見かけたことにある。日本の医学部ではなく外国の大学で医者になる勉強をする人が増えていて、中でもハンガリーの人気が高いという記事で、書かれていることはおおむね正しいのだけど、海外で医学を勉強することに対してあまりに楽観的ではあるまいかという疑念を抱いてしまった。海外で英語で医学を勉強しようと考え、それを実行している人たちには頭が下がるけれども、当初の志を貫徹して大学を卒業して医師になれる人は、それほど多くないというのが現実である。
 この記事を読んで数字に驚かされたところが2つある。一つは毎年100人ほどの日本人がハンガリーの大学に入学しているという点で、もう一つは2013年以降ハンガリーの医学部を卒業して日本の医師試験を受けた学生が56人という点で、どちらも意外に多い数字でである。この二つの数字を見比べただけでも、ハンガリーで医学部に入って、毎年100人入学しているのに、2013年以降の6年で卒業までたどり着いたのは50人ちょっとでしかない。それでも海外で医学を学ぶ人たちの実態を知っている人間からすると多いと思えてしまう。それが現実なのである。

 思い返せば2003年か2004年だっただろうか。ハンガリーの大学の医学部に学生を送り出している組織の人から、パラツキー大学について教えてほしいという相談を受けたことがある。確か当時すでにハンガリーでのプロジェクトが動き出していて、第一期生を送り込めたからだったか、軌道に乗ったからだったか、覚えていないけれども、周辺国でも同様のプロジェクトを考えていて、チェコでの候補としてパラツキー大学も上がっているので情報を集めていると言っていた。
 実際に、その数年後にパラツキー大学での日本人学生の受け入れが始まるのだが、その頃、2008年か2009年ごろにはすでにハンガリーの大学では日本人卒業生が出始めていたと聞いている。ただ、その数は、当然入学した学生の数よりはるかに少なかった。

 パラツキー大学の医学部の話をすれば、毎年日本人の入学者はいるが、その数は多くても数人でしかない。これは大学側が、日本まで出向いて入試を行い、英語の能力などかなり厳しく審査した上で合格者を決めているからだと聞く。入試が難しい分、志望者もハンガリーほどは多くないようだが、その分、優秀な外国で医学を勉強する覚悟を決めた学生が集まるといってもいいだろう。
 それなのに、入学してくる学生の過半は、二年生に進級することなく大学を離れてしまう。中には英語の授業に全くついていけず、自ら諦めてしまう人もいるし、二年に進級するための試験に合格できずに退学になる人もいる。学生たちの覚悟が足りなかったとも、努力が足りなかったとも思わない。外国で、医学という日本語で勉強しても大変なものを、外国語である英語で学ぶというのは、それだけ大変なのだ。記事中にも識者のコメントとして「語学のハンディさえ乗り越えて」と書かれているが、そのハンディの山は、我々実際に体験したことのない人間には想像もできないほど大きく高いに違いない。
 以前関係者に、英語で学ぶという問題を除くと、一年生でつまずく原因になっているのは解剖学だという話を聞いたことがある。英語で授業を受けるのには問題なくても、解剖学の単位が取れずに進級できない人もいるらしい。ということは、外国に出る前に。日本で解剖学を学んでおいても悪くないのかもしれない。どこでという問題はあるだろうけど。

 もちろん、英語の能力が必要になるのは言うまでもない。それもいわゆる日常会話レベルのものではなく、専門的な講義を聞いて理解し、理解できない場合には質問するだけの語学力が必要になるわけである。パラツキー大学に来た初期の学生達は、入学前にアメリカかどこかで一年の語学研修を受けた上で、医学部の勉強を始めたと聞いている。それが初期の学生達の過半が二年生に進級し、すでに数人の卒業生を輩出できている理由となっているのだろう。
 最近はその語学研修はなく、中には高卒の現役でやって来る人もいるようだが、苦戦している人が多い印象である。だから、外国の医学部で勉強するためには、日本の大学の医学部の入試に合格するため以上に、英語の能力を上げておく必要がありそうだ。それも試験のための英語ではなく、実際に読み書き、聞き話す能力が大切である。

 パラツキー大学の医学部で日本人学生が勉強を始めて10年ほど、入学者は多くて年に5、6人なので、多く見積もっても入学した学生の総数は50人ほどになる。そのうち半分はまだ終了年限が来ていないのだから、卒業していておかしくない学生の数を半数と見て、25人のうち卒業までたどり着いたのが5人。パラツキー大学のように念入りに入試を行ってさえ、卒業できるのは概算で20パーセントにすぎないのである。実際には入学者の数が少ないはずなので、もう少し確率は上がるだろうが、50%を越えることはありえない。
 日本の医学部の入学した学生が卒業する割合というのはどのくらいなのだろうか。その数字によっては、記事の中の識者のコメントの東欧の大学が大健闘しているというのはむなしいものになってしまう。

 この話もう少し続く。
2018年12月11日23時10分。








posted by olomoučan at 07:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 戯言
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