2017年09月11日
熟睡で流行病にかかりにくくなる?睡眠は脳以外に免疫系の記憶も強化
睡眠が記憶の形成に関わることは広く認められているが、独チュービンゲン大学の研究グループによると、睡眠は脳の記憶だけでなく、免疫の記憶も強化するという。
免疫の記憶とは何なのだろうか? そして、睡眠がそれを強化するとは、果たしてどのようなことなのだろうか?
□「物忘れ」 実は脳は忘れていない?
私たちの記憶は脳に蓄えられている。しかし、記憶が脳のどこにどのような形で蓄えられているのかは、まだよく分かっていない。
脳に蓄えられた記憶は必要なときに取り出される仕組みになっていて、記憶をうまく取り出せない場合、私たちは「物忘れした」と言うことが多い。
つまり「物忘れ」は、決して記憶が消えているわけではなく、記憶を取り出す行程がうまくいかないことが多いのだ。
その証拠に、人の名前を「忘れた」としても、その答えを聞けば「ああ、そうだった」と思い出すことができる。これは、名前が脳内から完全になくなっているのではなく、記憶として蓄えられていたにもかかわらず、ただ取り出すことができなかったという状態なのだ。
□記憶するのは脳だけではない 免疫は細菌やウイルスを記憶
実は、記憶のメカニズムを持っているのは脳だけではない。脳の記憶に極めて似た記憶のメカニズムを持つのが「免疫系」だ。外界の情報を記憶として蓄え、必要なときに取り出す仕組みは、まさに脳と同じである。
ただし、免疫系が記憶できるのは人の名前や出来事などではない。免疫系が記憶するのは、細菌やウイルスなど「異物の特徴」である。異物の特徴を記憶として蓄えることで、同じ病原体が再び体内に侵入したときに蓄えた記憶を取り出し、より早く、より強く免疫系を働かせることができるのだ。
□予防接種は免疫系の記憶メカニズムを利用
このメカニズムを応用したものが予防接種(ワクチン接種)だ。病気を起こすほどではない弱い病原体やその成分をワクチンとしてあらかじめ接種することで、免疫系に病原体の特徴を記憶させる。そして、次回以降の病原体侵入に、素早く強力な免疫系を働かせるのだ。
□睡眠が脳と免疫系の記憶を強化する
近年の睡眠研究の進展により、睡眠には疲労回復以外のさまざまな働きがあることが明らかになってきた。
その一つに、睡眠中に不要な記憶は削除され、必要な記憶は強化されるという考えがある。事実、学習後に睡眠をとると、睡眠をとらずにそのまま起き続けた場合よりも、学習した内容をよく覚えているという研究報告もある。
これと同様に、睡眠は免疫系の記憶も強化するようだ。チュービンゲン大学の研究では、病原体の特徴を記憶する働きがある「メモリーT細胞」が、深い睡眠の量に比例して増加することが示された。
また、睡眠中には成長ホルモンがたくさん分泌されて、免疫系のさまざまな細胞を活性化することも知られている。
このように、睡眠は脳の記憶にも、そして免疫系の記憶にも重要な働きを持っているようだ。したがって、脳と体をいつまでも若く健康に保ちたいならば、良質な睡眠は必須ということになろう。