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2012年01月31日

霊使い達の宿題その3・火霊使いの場合(後編)(遊戯王OCG・二次創作作品)









 火曜日。遊戯王OCG二次創作・「霊使い達の宿題」の日です。
 例によって、貴方の思う霊使い達とは性格が違かったりするかもしれませんから、どうしてもあかん、という方は無理をせずリターン推奨。
 詳しく知りたい方はお約束通り、リンクのWikiへ。


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                            ―5―
 
 ―霊術―
 それは霊使い達が個々に持つ、固有魔法(オリジナル・スペル)である。
 複雑な呪文の詠唱、術の媒体となるモンスターの必要等、少なからずのコストを必要とするが、その効果は絶大なものを誇る。
 ヒータの霊術、「火霊術・紅(くれない)」は媒体となったモンスターの攻撃力を、全ての障害を無視して直接相手に叩き込む術である。
 ガイヤ・ソウルの高い攻撃力を直接その身に受けたホルスの黒炎竜は、成す術なく地へと墜ちた。
 そこまでは良かった。
 良かったのだが―

 「おい、どーなってんだよ!?これ!!」
 暗い煙天の下に、ヒータの怒号が響いていた。
 「契約の証印がつかねぇぞ!!どーいう事だよ!?」
 確かに、地に伏したホルスの黒炎竜の身体に押された契約の証印は、その身に刻まれる事なく宙に霧散してしまうのだった。何度繰り返しても同じである。
 それを見た稲荷火が、呟く様に言う。
 『う〜む。やはりですか・・・。』
 「あぁ!?やはりって何だよ!!」
 イラつく主に対し、あくまで冷静に稲荷火は答える。
 『忘れましたか?「ホルスの黒炎竜・Lv4」は、契約の証印等の洗脳に類する効果を受け付けないのです。』
 「・・・へ?」
 ポカンとするヒータを見て、稲荷火はあからさまに嫌な顔をする。
 『知らなかったのですか?授業でドリアード女史が言っていたではありませんか。』
 「え〜、あ〜、その・・・」
 しどろもどろになるヒータ。どう見ても挙動不審である。
 『・・・また居眠りしていましたな。』
 「う、うるせぇ!!おめーも知ってんだったら何で言わねーんだ!?」
 『何か妙案でもあると思っていたのですが・・・。期待した某が愚かでした・・・。』
 「んだとテメェ!!しもべの分際でケンカ売ってんのか!?」
 『こういう事案に、主もしもべもありますまい!!』
 ギャーギャー言い合う二人(?)。
 しかし、そのケンカは突如起こった異変に中断される。
 傍らで伏していた黒炎竜の身体が、突如眩い光を放ち始めたのだ。
 「な、何だ!?」
 『こ、これは!!』
 驚く二人(?)の目の前で、黒炎竜の身体がドンドン大きくなってゆく。それと同時に身体のあちこちにひびが入り、その下から長い尾や新たな羽が生え始める。 
 「な、なんなんだよ!?これ!!」
 『レ、進化(レベルアップ)でござる!!』
 いつもの冷静さも何処へやら、完全にてんぱった様子で稲荷火が答える。
 「レ、レベルアップゥ!?」
 『お忘れか!?ホルスの黒炎竜(こやつ)はLvモンスター!!条件を満たすとさらに高位のモンスターに進化するのです!!』
 「じょ、条件ってなんだよ!?」
 『た、確かホルスの黒炎竜(こやつ)の場合は特定数の敵の撃破の筈!!』
 「や、殺られてないぞ!?オレ達、殺られてないぞ!?」
 『そ、そんな事言われましても某も知らないでござるですよ!?』
 狼狽する二人(?)を他所に、黒炎竜の進化は進む。
 炎狐と大差のなかった体格は今や見上げる程となり、より巨大となった羽は天を覆わんかと思う程である。
 「・・・。」
 『・・・。』
 絶句する二人(?)の前で、閉じられていた黒炎竜の目がゆっくりと開く。
 燃え盛る火炎の色の瞳が足元をねめつけ、神を冠する己を愚弄した不心得者達をしかと映した。
 「グ・・・グッドモーニング・・・。」
 『お、お目覚めの程はいかがかな・・・?』
 
 
 ・・・・・・・・・。

 「・・・。」
 『・・・。』
 黒炎竜がゆっくりと首を下げ、ヒータ達を見つめる。
 その目が、ニコリと笑った様に見えたのは、気のせいだろうか。
 そして、次の瞬間―


 キィアァアアアアアアアアアアッ

 天を裂かんばかりの咆哮が響き渡り、くわっと開かれた口から漆黒の炎が溢れ出た。
 「きゃあああああああっ!!」
 『どわぁああああああっ!!』
 間一髪でそれを避けるが、黒炎竜の怒りは収まらない。当るを幸い、辺り一体に黒炎を吐きまくる。
 黒い炎が舐めた岩肌は、爆発するどころかドロリと溶けて蒸散していく。とんでもない高温である。
 
 
 キィアァアアアアアアアアアアッ
 
 黒炎竜の怒りの咆哮と黒炎の嵐は、それからたっぷり30分も続いた。
 その頃にはもう、ゴツゴツしていた岩場は艶々と滑らかな磨石の並ぶ平地へと姿を変えていた。
 黒炎竜はもう一度周囲を見回し、その惨状ぶりを確かめると満足そうに一声鳴いて空の彼方へと飛んでいってしまった。
 それから数分後―
 「も・・・もういいか・・・?」
 『お・・・おそらく・・・。』
 そんな声が聞こえると、残っていた岩の影からヒータと稲荷火が顔を出す。
 「は・・・はぁ、やりゃあ、出来るもんだな・・・。」
 そう言うと、ヒータはヘナヘナとその場に崩れ落ちる。その足元で、紅い魔法陣が役目を終えたかの様に消えていった。
 ―罠魔法(トラップ・スペル)「ホーリーライフバリアー」―
 高位の罠魔法(トラップ・スペル)で敵からの攻撃を完全に無効化する代わり、発動トリガーとして一度別の魔法を発動させ、それをキャンセルするか、しもべとするモンスターを生贄にするという過程が必要となる。
 そのため、これを成功させるには最低でも魔法の発動とキャンセル、バリアの展開とをほぼ同時に、という事を行わなければならない。
 魔法の平行起動を苦手とするヒータにとって非常に困難な事であったが、そこは火事場の馬鹿力とでも言おうか、この場においては見事に成功させたのであった。
 ・・・もっとも、その代償としてヒータは精神力を使い切り、疲労困憊の態である。
 『お見事でございました。しかし・・・困りましたな・・・。』
 主の苦労を労いながらも、稲荷火はそう言って頭を悩ませる。
 そう、このままでは肝心の“宿題”が達成出来ない。どうしても一頭、別のドラゴンを探して倒し、契約の証印を押さなければならない。しかし・・・
 「・・・無理・・・。もー無理・・・。」
 肝心のヒータがこの有様である。さて、どうしたものか。稲荷火が再び頭を捻ろうとしたその時―

 カランッカラン

 『ん?』
 上から落ちてきたのは数個の岩の欠片。そして―

 フッ

 二人(?)の上に影が落ちる。
 「『へ?』」
 思わず上を見上げると、長大な何かが落ちてきていた。


                          ―6―

 「え?え?」
 『主、危ない!!』
 訳が分からず呆気に取られているヒータを、稲荷火が突き飛ばす。

 
 ズダァアアアアアン 

 二人(?)がその場から転げ出るのと、“それ”が盛大な音を立てて着地するのはほぼ同時だった。
 「な、何だぁ!?」
 『こ、これは!?』
 土煙が晴れた後、ヒータ達の目の前に横たわっていたのは、体長十数メートルはありそうな蛇の様な身体を持つモンスターだった。
 その体表はゴツゴツした岩状の鱗に覆われ、その頭から尾にかけてメラメラと炎のたてがみが燃えている。その獰猛な顔はしかし、真っ黒なすすに覆われ、目は白目を向いていた。
 どう見ても、完全に気絶している。
 「こいつって確か・・・」
 『「プロミネンス・ドラゴン」・・・ですな。』
 「何でこんな所で伸びてんだ?」
 『む、主、あそこを。』
 稲荷火の示す方向を仰ぎ見てみると、そこの岩場が大きくえぐれていた。
 「あー、あそこって、最初に黒炎竜(アイツ)が炎弾吐きまくった時に・・・」
 『どうやら、流れ弾に当った様ですな。』
 「そうか。それでその気はなくても結果的には黒炎竜(アイツ)がプロミネンス・ドラゴン(コイツ)を倒した事になって・・・」
 『黒炎竜(あやつ)が進化(レベルアップ)した訳ですな。』
 「なるほど。」
 『謎が解けましたな。』
 「なぁんだ。分かってみりゃあ、どうってこたぁないな。あははは。」
 『全くですな。カカカカカ。』
 「はは・・・」
 『カカ・・・』
 「『・・・・・・。』」
 しばしの沈黙の後、ヒータがぼそりと言う。
 「こいつ、『プロミネンス・ドラゴン』なんだよな・・・。」
 『そうですな・・・。』
 「『ドラゴン』、なんだよなぁ・・・。」
 『そうついてますからなぁ・・・。』
 「『・・・・・・。』」
 二人(?)は黙って見つめ合う。
 
 やる事は、一つだった。

 数分後、証印のついたプロミネンス・ドラゴンを前に、ヒータはほっと息をついていた。
 「ふぃー。何とかなったな。」
 「そうですな、主。…しかし…」
 額の汗を拭い、清々しい笑顔を浮かべる主に、稲荷火は今一つしっくりこないという顔をする。
 「何だよ?」
 「某、何か重大な失念をしている様な気がするのですが…。」
 「?」
 考え込む相方を前に、ヒータもただ首を傾げるだけ。
 「だーっ!!ゴチャゴチャ考えたって仕方ねぇ!!さっさと帰るぞ!!」
 「し、しかし主!!」
 「いいからさっさと来い!!こんな時にラヴァルの連中に見つかったら、目も当てらんねーぞ!!」
 「は、はい!!」
 多少の違和感を抱えながら、二人(?)は家路につく。
 その違和感の正体を彼女達が知るのは、これからしばらく後の話。
 今考えるのは、美味しい食事と柔らかいベッド。それだけで良かった。
 低い呻きをあげる巨峰を後に、二人(?)の姿は見る見る小さくなっていく。

 ―黒い煙天の下、遠くで黒炎竜の鳴く声が響いていた―   
                                                       
                                                       
                                             終わり
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